二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

犯行と鑑定

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 インディアの研究所から帰った翌日、この街の定宿となった宿屋「木漏れ日」の自室で僕らは寛いでいた。
 この宿はエテルナに十ある宿の中で最高ランク。
 商人や領主の客分など、それなりの身分を有する者が泊まる宿で、地方にしては高い。
 しかし、師匠が安宿に泊まるなどあり得ないので、僕らが泊まる宿は常に最高ランクだ。
 それなりに部屋も豪華で、寝室二つとソファのセットが設えられている居間の三部屋で一室、当然風呂付がこの宿のスタンダードだ。

「ところで師匠」

「ん?」

 本から目を離さず答える。
 窓際で陽の光を浴び足を組み本を嗜む姿は知性を携えた美術品の如く……

 本題だ。

「インディアの遺跡どうやって見つけたんですか?よくよく考えるとそれだけがどうしても。」

「それか。なんてことはない、すり替えた。」

 説明するとこうだ。
 魔術協会を襲撃したあの日。
 マスターの執務室でスクロールを受け取った、一瞬に犯行は行われた。

 あの時スクロールを見た師匠は、その中にインディアのサインを見つけ、魔法陣を読み解いた。
 すると、宝石と対で転移する魔法陣ということがわかり、ピンと来たらしい。
 マスターが見つけたのは遺跡への鍵だと。

 そこでスクロールをすり替え……
 いや金貨二枚で買い取ったのだと。

「結果良ければ全て良しだろう。」

「いや、まぁ、結果は良いんですが……」

「結果が全てだろう。あれは私達でなければ対処は無理だ。財宝が少なかったのが残念ではあるが」

 間違いなく、目当ては財宝だったな。
 そう考えると、遺跡に行くまでの行動も理解できる。アリバイ工作を施した計画的金目当ての犯行だ!

 クセになる!これは言わねばなるまい!
 
 ソファから立ち上がると

 風に揺らめくカーテンと椅子に置かれた読みかけの本だけを残し、そこには誰もいなかった。

「くそ、残念師匠!」



「こんにちは!」

 そんなこんなでその後が気になったこともあり、数日ぶりに魔術協会に足を運んだのだ。

「あ、レオ様!こちらへどうぞ」
 たまたまフロアにいたマスターが執務室に案内する。

 なんとも言えない顔でチラチラと職員達がこちらを見ている。

 まぁ仕方ないのだが、とにかく暗い。
 後ろめたいのは分かるが、それにしても酷いものだ、職員の士気の無さがそのまま協会の雰囲気を作り出している。
 これ大丈夫なのかと本気で心配になるぐらいやる気を感じられない。

 そんな、職員の働きぶりを尻目に二階に上がる。

 部屋に入ると応接ソファに座る様促され、運ばれたお茶とお菓子を勧められる。

 こっちは随分と反省したみたいだな。

「して、今日はどうなさいました?」

「その後どうなったか少し気になって、様子見です。ああ、勘違いして貰っては困りますがあの時の事は終わった事なので蒸し返すつもりは無いですよ。一応、街にいる以上、特級魔術士としては、なんらかの隠密行動中で無ければ魔術協会に立ち寄る決まりはあるので。」

 査察も視野に入っているので本当に立ち寄る必要はあるのだが、師匠が面倒くさいという理由で立ち寄らないことが多いのはここだけの話だ。

「そうですか。それはご苦労様です。」

 協会の雰囲気がわかっているのだろう、若干居心地が悪さを感じる。お陰で変な間が空いてしまいお茶に逃げる。

「いつまでご滞在のご予定ですか?」

 なんとか振り絞って言葉を発する辺り、当初の印象から比べると好感が持てる。
 少し室内を見渡すと、華美にならない調度品や整頓された机から仕事が出来る事を伺わせる。

 本当に魔が差しただけなのだろう、後は協会の雰囲気をどうにかしないと。
 それも、この人なら分かっているのだろうな。

「そうですね、シャナさんが王都から戻って来て報告を聞いたら旅立とうかと思ってます。」

 王都までは馬車で片道十日ほど、途中二つの街と三つの村を通る道のりなので、まだ着いてはいないだろうから王都での用事も考えるとまだ十日以上は滞在する計算だ。

「そうですか、それまでのご予定は何か?」

「その話もあったのですが、良ければ鑑定が必要な物があればお手伝いしますが。」

「本当ですか!それは助かります。」

 魔術協会は各支部に登録する魔術士に対する各種サービスを収益の柱としている。
 その一つに魔術士が持ち込む様々な物品の買取がある。
 冒険者となる者も多い魔術師なので、魔物などの素材は冒険者ギルドに買い取って貰う事が多いのだが、様々な薬の材料や魔法の触媒、ダンジョンなどで手に入れる魔道具や魔術士の装備などは、魔術協会の方が適正価格で買い取ってもらえる。
 餅は餅屋にという事なので、パーティーに魔術士がいる場合、魔術協会に買い取って貰う資格があるので、こちらのサービスを利用する事になる。
 また、ポーションなど魔術師が精製した薬なども協会が買い取り、その質に応じた適正価格で販売もしている。
 しかし、全てが適正価格で買い取れるわけではなく、それなりの鑑定結果に基づいたものでなければ、協会は損をしてしまうし、紛い物を売りつければ協会の信用が落ちてしまう。
 そこで価格のつけられない物に関しては、専門の鑑定士や纏めて近くの支部に送り鑑定してもらうことになる。
 要するに地方には人材が不足しているといいう事だ。
 しかも、その鑑定も当然タダではなく、手数料や輸送費が取られるので依頼した協会の儲けは当然少なくなる。
 利益は協会の福利厚生やある一定の利益を出すとボーナスが出たりと働いている職員やマスターの給与額に直結してくるので鑑定ができるかどうかは非常に重要なのだ。
 ここエテルナ魔術協会に鑑定士はいない。先日の騒ぎもこの事が無関係では無いとの読みでの申し出だ。

「どれぐらいあるのです?」

「実は倉庫に鑑定できていないものが百数点ほど……お恥ずかしい話、手数料と輸送費を出すと赤字になってしまう可能性もあり手がつけられない状態になっております。しかし、買い取らないわけにもいかず、販売された時の収益に応じて支払うことでなんとか凌いでいるのが実情です。是非、鑑定をお願い致します。」

 流石に百点以上あるということで、尻込みしたが、言ってしまった以上受けないわけにはいかない。

 ということで倉庫に来た訳だが……

「どう見ても数百点ありますが……」

「いえ、流石にこれ全部を鑑定して頂く手数料が当協会にはありませんので、こちらの売れそうなものだけを」

 鑑定が出来なければ不良在庫が増えるばかりだ。師匠の件もあるし、ここは……

「鑑定料は売れたらで結構です。片っ端からやってしまいましょう」

 言えないけど若干の負い目もあるからな……
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