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一章

冒険者ギルドと支援要請

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 協会に到着し、改めて職員を見て、ここ数日の職員達の変化が誇らしい。

 職員に明るさが戻り、馴染みの魔術士に笑顔で応対している。
 冒険者ギルドでは無く、魔術協会に買取を依頼している魔術士が列を成している。

 そもそも魔術協会は冒険者ギルドと機能として重なる部分も多い。買取や依頼の斡旋などがそうだ。
 冒険者ギルドも魔術協会も各支部単位にかなりの権限があるため、基本的には利権で対立することになる。
 冒険者ギルドはギルド長、魔術協会はマスター、双方に人格者が揃うというのはあまり無いのが現状だ。

 そんな中、同じ適正価格であれば受付の応対が良い方を選ぶのは必然と言える。
 それだけ今は冒険者ギルドよりも雰囲気が良いのだ。

 満足そうに見ていると、目に止まった職員が声を掛けてくる。

「レオ様、お疲れ様です!今晩もどうですか?」

「付き合いますよ!その為にも仕事しないと。鑑定待ちのものありますか。」

 あります!と元気よく案内してくれる職員は此の所僕から鑑定を学んでいるウィルという青年だ。
 この街生まれ、商家の三男だ。
 後継がいるので魔術士となったらしいが計算にも強く若手のエースとして協会に就職したが、あまりの閑古鳥と先輩達のやる気のなさに感化されたクチだ。
 今では本来の能力の高さを遺憾無く発揮している。

 さて仕事だ!



 魔術協会は冒険者ギルドと違い二十四時間営業はしていない。
 陽が沈む頃には閉まるのが普通なので、陽も傾き始めた所で閉館業務に移る。
 本日もそろそろ閉館業務開始と思ったころ、唐突に大声がロビーに響き渡る。

「緊急事態です!冒険者ギルドから支援要請です!」

 息を切らしながら冒険者ギルドの制服に身を包んだ女性が駆け込み叫んだ!

 尋常で無い声にロビーに緊張が走る。

「少し早いが閉館!ウィル、マスターを呼べ。君の名は?」

 受付にいた職員が冷静に応対する。

「は、はい。冒険者ギルドのエミリです。」

「私は、サブマスターのホルン。今マスターが来るので少し待って貰えるかな。誰か水を持って来てくれ。それとレオ様にも」

「僕はここに」

 あまりの声の大きさに裏から駆けつけたのだが、サブマスターのホルンは手際が良い。

 買取に来ていた魔術士を受付嬢に送り出させると、この街にいる高位の魔術士に協会に参集するよう命じる。

 魔術協会には管轄する登録魔術士に対し、いくつかの命令権があり、基本断ることは出来ない。
 緊急時の招集もその一つで、協会には簡単な伝令用の魔法陣が用意されている。
 任意の魔術士に鐘の音が聞こえるだけだがその回数で内容が決まっている。

「何事だ?」

 マスターのタナティスが二階からウィルを伴い駆け下りて来る。

「はい、私は冒険者ギルドのエミリと申します。緊急の支援要請をギルド長から承って来ました。」

「ガッツが支援要請とは、相当厄介なのだな」

「はい、未確認の植物系が北の砂漠に出ました。変異種です。」

 水を飲み干して少し落ち着いたエミリが答える。

「変異種!今まで報告は無かったが」

「先週ギルドで確認され、一部のパーティーに調査と討伐依頼を出したのですが、全滅しました。その後もことごとく……先程一名のみ帰還しましたが、確認した時とは規模が拡大しています。しかも、街の水源が」

「移動しているのか!むむっ、だから変異種ということか……」

 その後いくつかの問答が行われた。
 
 北の砂漠に出た魔物は、当初巨大な植物系の魔物としてかねてから認識はされていたらしい。
 アリ地獄の様に近寄る生き物を捕食し食らう被害が出て存在が確認されたが、滅多に通る者もいない砂漠地帯である為、そのまま放置されていた。
 先週他の討伐依頼で、北の平原にいた冒険者がいるはずの無いこの魔物に襲われ発覚した。
 その冒険者が持ち帰った情報で通常動かないはずの植物が変異し、移動していることが分かったらしい。
 しかも、現在進行形で増殖中であり、平原にたどり着き、その種子は地面に付くとすぐに発芽し、眷属の如く暴れ回っている。
 また、この植物のせいで砂漠化が起きている。
 周囲の水分を取り尽くし、平原が枯れ、これによって砂漠化が進んでいるのだ。
 しかも進む先は街の北西、平原にある湖がある。
 この変異種の狙いは街の水源だ。

 ここがやられると、街が詰む。
 冒険者ギルドは魔物の存在を認識していながら放置していた後ろめたさから、領主など街の主だった者で構成される議会にも報告せず、隠蔽することにした。
 戦力を有する冒険者ギルドであるから討伐されていれば、隠蔽していたからといって責められることは無いが、今回は失敗した。
 情報を掴んだギルドは、すぐさま秘密裏に討伐依頼を出したが、派遣された冒険者が全て返り討ちにあい、この街にいる冒険者パーティーの力量で内密に討伐する事は困難になった。
 そうなると後は物量勝負でしか無い。
 しかし、眷属は接近戦で何とかなるが、現在も増殖中の変異種は遠距離からの攻撃しか、手立てが無かった。
 弓では火力が足りないとなると、魔術士の出番だが、冒険者ギルドに所属する魔術士の数では火力が足りない。
 いよいよ後が無くなった冒険者ギルドが、支援要請の体でこの討伐を魔術協会に丸投げして来たという訳だが、放置も出来ない。

「マスターどうしましょう?」

 問いかけるホルンに

「戦える魔術士は全員集めるしかあるまい。せめて増殖前に頼ってくれればここまで大掛かりにならなかっただろうに。今の進行速度だと猶予は三日と見るが。レオ様どう見ますか?」

「状況的に見て、僕は二日が限界だと思います。それも二日目の昼頃迄の完全討伐が必須かと。」

「それは、あまりにも悲観的すぎでは」

 ホルンが横槍を入れるが、確信があった

「先ほどの話から推察するに毒持ちです。到達されれば、水が死にます。ですから、水際までの余裕は無いでしょう。更に規模からみて炎系を遠距離から叩き込める魔術士が三十名前後は必要です。」

「三十!しかし、今からだと何人集められるか」

 悲痛な面持ちのマスターが項垂れる。

 仕方ない!助力を申し出ようと腰を上げたその時。

 どこからとも無く現れた赤髪の麗しき女性が髪を搔き上げ言い放つ。


「その依頼私たちが受けてやろう!」
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