二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

小休止と師匠の通常運転

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 三階層、四階層目も難なく突破した僕らは、五階層に続く階段で小休止中だ。
 ここまで灰色の石で覆われた通路のみと言う、何の面白みもない光景が続き、出てくる魔物も先行した冒険者達がある程度間引いていた様で、数体が群れた程度の獣や節足動物タイプばかりだった。
 単調な探索というのもそれなりに精神疲労は引き起こすので、状況が変化する前に休憩としたのだ。

 最早、自重する必要も無くなったパーティーメンバーなのでテーブルに人数分の椅子を並べ、師匠といる時と変わらぬ仕様で休憩を取る。

「それにしても収納魔法っていうのは便利な事この上ないな。」

 先行する冒険者と騎士団とは遠からず戦闘になるので、その前に食事と休憩を取って万全の体制で挑むためだ。

「まったくだ、まさか温かい物がこんな所で食べられるとは思いもしねーからな。」

 用意した食事は、事前に調理を済ませたシチューに焼きたてのパン、肉料理に市場で買い揃えた野菜に果物と宿や店で出しているものと遜色の無い物がテーブルに広げられる。

「収納魔法を使って保管しているものは、その時点で時間経過も停止しますからね。」

「マジックバックにはその機能付けられないのか?」

「考えた事ないですけど、師匠分かります?」

「それは不可能だな。そもそも用途は同じでも概念と性質がまったく違う。マジックバックというのは空間拡張と言ってな、ここにある空間自体を言わば物理的に広げるのだ、つまりここにある空間なのだから、ここの時間の流れが影響する。収納魔法というのはここでは無い別な空間。そこを虚無の空間と魔法学的には呼ぶのだが、そこに転移させるものだ。虚無の空間には時間の概念がない。その為収納した時と出した時は同じ時間と言われている。だから温かいものは温かいままなのだ。ただ、虚無の空間と言うのがどこにあるか、それが何なのかは収納魔法を開発した魔法使いも分かっていない。便宜上そう定義したにすぎん。」

「人も入れるって事ですかい?」

「何なら入ってみるか?呼吸はできないらしいがな。」

「死にますけど……」

 虚無の空間に物を収納すると言うのは大きな自分の領域を設定し、その中に物一つ一つを塊で領域を設定することで保存し召喚して取り出す。
 つまり、手を突っ込んでマジックバックの様に空間を探るという事ができないし、生き物自体入れることができるが酸素と共にという塊にすることができず中で窒息死するのだ。
 また、塊で領域を固定するという性質上入れる塊が動けば形が崩れ、崩れれば当初の形を超えた部分は虚無の世界で永遠に消滅するため、生き物は収納できないと言われている。
 要するに詳細はよく分かっていないというのが実際の所だ。
 
 使えるなら理論はどうでも良いのだがなと師匠は説明を締めくくる。

「まぁ、何にせよこうして温かい飯は食える。荷物は運ばなくて良いと俺たちに取っても良いことづくめだし、細かい事は気にしねーよ。」

 さすがは脳筋ゲルドだ。

「それはそうと、資料によるとこの先は今までと全く違う作りになっているみたいです。」

「と言うと?」

「次の階は単純な大広間ですね。広間というには広すぎますけど」

「すまん、理解ができん。」

 皆頭に?マークが浮かんでる様で、ダズルが代表して聞いてくる。
 師匠は我関せずでお茶を飲んでいるが。

「あくまでも資料によるとですけど。次の階層は単なるだだっ広い空間が広がっているのみで通路も迷路も無しで、中心に下層への階段があるだけみたいです。」

「そういうことか、まぁ階段があるだけこのダンジョンはマシかな。」

「階段がない場合もあるのか?」

「リックはそういうダンジョン探索は無いのか。簡単に言うとな、ここは元になる遺跡がダンジョン化したものだから建物の構造が拡大したというイメージなのだが、よくあるダンジョンってのは洞窟や森など自然の地形が変化したものだから、階段なんて丁寧な作りはしてないのさ。」

「なるほどな。暗部にいると探索なんてしないから、その辺の知識は持ち合わせて無いんだよ。」

「ちなみに、遮蔽物が無いと言う事はこちらの姿は丸見えですから、即戦闘だと思ってください。以前の探索ではここで複数のパーティーが物量にやられている様です。」

「魔物は何がいる?」

「ゴブリンにオーガ、あとは魔獣系も確認できているみたいですね。」

「ゴブリンってのはどこにでもいるが、守っての戦いでなければ特に問題ないか。」

「問題は数ですね。数十体はいるみたいです。先行した奴らがどれだけ狩っているか。」

「想像の話をしていても仕方あるまい。今回は私が前に出るぞ。後ろでは身体がなまって仕方ない。」

 師匠が口を挟んできたと言う事は休憩も終了だ。

「やりすぎないでくださいよ。先行している冒険者たちがいるかもしれませんから。」

 何かフラグを立てた気もするが……

「リック、先に様子を見てきて下さい。周囲に魔物がいなければ全員で降り立ちます。」

「ああ、任せろ。」

 言うが早いか階段に消えて行く。

「ダズル、ゲルド、リックが戻って来たら二人が先に降りてください。階段を中心に僕らのスペースを確保。師匠は二人に続いて降りて下さい。」

「問題無い。降りれるぞ!」

「ダズル、ゲルド!行って下さい。」

「任せておけ!」

「師匠続いて下さい。」

 「深淵」を右手に師匠がゆっくりと階段を降る。
 それに続き僕も降ると、そこには今までと違い薄暗い空間が広がり、暗くて先が見えない。

「この階段から真っ直ぐ進んだ先に、下への階段があるはずです。周囲を警戒、魔物に気づかれない様ゆっくり進みます。」

 視界が悪く、索敵も使えない状態では慎重にならざるを得ない。

 と、思っていると不意に師匠の「深淵」が赤く光ると、前方に向けて人程の火球が正に驀進する。

「えっ?」

 特大の火球がリックの横を通り過ぎると、魔物の叫び声が前方から上がる。
 もろとも焼き尽くしなが進んでいる様だが、その様子を見ていると、地面を揺らす衝撃と共に中心辺りで爆散する。

 巨大な火球を撃ち満足した師匠が杖で爆心地を指し示す。

「あの辺が階段の様だぞ。」

 やはり、師匠は師匠だ……

「階段まで全力で走って下さい!」

 声に弾かれ、全員が走り出す!
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