二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

光の刃と遭遇

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「もうすぐ階段です!足を止めないで!」

 やはり、ゲルドが遅れ次いでダズルも遅れ始める。

 息も絶え絶えにゲルドが悲痛な叫びを上げているが、早急に階段を確保しなければ階層中の魔物が集まってくる。

「レオ、索敵魔法がなくても分かるぞ、こっちに向かって来やがる。」

 獣の咆哮が聞こえ、四方から魔物が僕らを捉え迫って来るのが見える。
 あれだけの派手にぶっ放したのだ、気づかれない訳が無い。

「階段を中心に陣形を整えます。あれ?師匠は?」

「さっき俺の前を走っていたが?」

 消えた???

 そんなはずはないのだが、見失った。

「師匠なら大丈夫です。走って下さい。ゲルド!走れ!」

「む、無茶言うな!これで限界だ!」

 思ったよりも魔物の数が多い。
 こちらの足を考えると階段にたどり着くのとギリギリだ。
 息を切らせているダズルとゲルドでは、すぐに戦闘は厳しい。
 仕方無い、先行してスペースを作るか……

 意を決し前も向いた瞬間。

「やば!伏せろ!」

 階段付近から強烈な光が見え、反射的に叫ぶ。

 同じく危機を感じたリックが地面にダイブする。
 その上を一本の平たい白い光がリックの腰のあった位置を貫き止まる。
 消えない光の線は床に伏せる僕らの上をゆっくりと時計回りに動き始め、最初の魔物を捉える。

「切れた!」

 徐々に加速する一本の光線は光る鋭利な刃の様に、殺到し止まる事のできない魔物を無残に切断して行く。
 光線が通ると上下に分かれた魔物が崩れる。

 光源は目の前の階段に佇む、赤髪の魔導師。

 なんて魔法を……

 ようやく階段にたどり着いた僕らに微笑む。

「遅かったな。」

「遅かったなじゃないですよ!何ですかアレは!」

「光の刃だが」

 見たままだ……
 前に出た時点で確かに危険は感じたが、また凶悪な魔法を。
 既に生きているのは僕らだけ……

「ゲルドは?まさか巻き込まれたんじゃ!」

「勝手に殺すな!生きてるぞ!」

 階段から顔を覗かせるゲルド。
 いつの間にそこにいたのだろうと思ったが、どうせ師匠の仕業だ。
 突っ込むだけ時間の無駄だと思い、皆を見る。

「さぁ、次の階に行きますよ。」

「何事もなかったかの様に!」

「諦めろ、リック。レオにはアレが日常だ。俺もやっと理解した。」

 ダズルがリックの肩を叩き、ゲルドの待つ階段に向かう。



「奴らはどこまで先行してるんでしょうね?」

 八階層から九階層に降りる階段の手前で二回目の小休止をしながら師匠に問いかける。

「本来ならもう接触してもおかしくは無いはずだが。ダズル、出てくる魔物の手応えはどうだ?」

「そうですね。武器の性能を考えなくても苦戦する程では無いですね。」

「俺達も問題ありません。」

「そうなると、敵が強いのが魔物が弱いのか分からんな。」

 不敵な笑みだ。

「客観的に考えて奴らの力量も匹敵する程度はあるとみた方が良いでしょうね。」

「俺達、褒められてるのか、けなされてるのかどっちだ……」

 すっかり椅子とテーブルに暖かいお茶や新鮮な果物が並ぶ事に慣れた、三人が軽口に参戦してくる。
 一度踏み入れた贅沢からは中々抜け出せるものでは無い。
 自分達のパーティーに戻った時に耐えられるのか正直不安ではあるが、僕らのレベルを落とすこともないので、気にせず続けることにした。

「ここまでかち合う事は無かったですし、追い抜いたとも思えない。となると次の階層では十中八九接触するでしょう。十階層まで行っている可能性が無いとも言えませんが、僕らのスピード以上に踏破しているとも思えませんから、次でしょうね。」

 皆同意したようで頷いている。

「では、リックの先行はそのままで隊列を少し密集させます。敵の姿を見つけたら、出来る限り情報を持ち帰ってください。戦闘はせずこちらに戻って貰います。」

「おぅ!分かった。」

 準備を終えるといよいよ九階層に降りる。

 地図とダンジョンの状況を照らし合わせ、問題が無いことを確認する。
 預かった資料はここまでほとんど差異は無く、十分役に立った。
 それだけにしっかりとした成果を出さねばなるまい。

「レオ、読み通りだ。奴らがいる。」

 九階層を先行していたリックが足早に戻って来る。
 流石に三人に緊張が走る。

「詳細を教えて下さい。」

「そこの通路を左に曲がった先だ。人数は五人で前衛三人の後衛が二人、少なくとも魔術士が一人いる。戦い方から冒険者だとは思うが、俺達の知らない奴らだ。それ以上は見つかりそうで近づけなかった。そして現在戦闘中だ。」

「分かりました。他のパーティーの気配はありませんでしたか?」

「それは間違い無い。このパーティーだけだ。」

「分かりました。相手の戦闘が終わり次第、背後から接近して声をかけます。今回は僕一人で行きますので、三人は待機。師匠は援護をお願いします。」

「俺達も行くぞ?」

「いえ、今回は相手の出方がわかりません。僕一人であれば充分対処可能です。」

「だが……」

「今回はリーダーが決めたことだ。お前達は下がっていろ。」

 師匠が珍しく正論を吐く。

「まぁ、そういうことです。では行きましょう。」

 ひんやりとした石壁に手を当てそっと顔を出すと、リックの報告通り一組のパーティーが戦闘中だった。
 大半は倒し終わっており、残すはバトルアックスと呼ばれる戦斧を携えたオーガのみ。
 盾役が充分に引きつけ、隙をついて槍と剣が振るわれる。
 身体強化や回復なども危なげなく行われており、熟練した連携が取れている。

 後ろに待機しているメンバーに話しかける。

「流石にここまで来たパーティーですね。連携がしっかりしていて、隙がない程です。ダズル少し見てみます?見知った顔がいるかもしれません。」

「そうだな。」

 身体をかがめると角からゆっくりと相手を伺っているが、すぐに顔を引っ込めた。

「見たことねーな。多分、クロードが外から連れて来たパーティーだろうな。」

「てことは、十中八九戦闘になりますね。合図をするまで出ないようにして下さい。そのまま生け捕りにします。」

「あいつらをか?」

「他にいないでしょう?」

「分かった、危なくなったらすぐに言えよ。」

「そうはならないと思いますが、終わったようですね。」

 四人を少し下がらせると、戦闘が終わり片付けをしているパーティーに声をかける。

「お疲れ様です!少し話をしましょう!」

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