二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

師匠と同じ過ち

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「お疲れ様です!少し話をしましょう!」

 不意にかけられた声に反応し、すぐ様隊列を組み抜刀している。

 我ながらマヌケな問いかけだとは思うが、任せろと言った手前、妥当な言葉が見つからないのだから仕方がない。

「何者だ!」

「戦う意思はありませんよ!」

 変に刺激しないよう魔杖「愚者の咆哮」は収容し、武器を持っていないことを示すために両手を上げ無手でゆっくりと近づく。

「そこで止まれ!」

 リーダーらしき盾と剣持つ前衛職の年配の男が叫ぶ。

「あなた方はここで何をしているのです?」

「お前がクロードが言っていた魔術協会の手の者か?」

 彼らに緊張が走るのが分かる。
 リーダーらしき男を中心にすぐに動ける態勢を取る。
 質問に質問で返されるが、マヌケな質問をしているのだから気にしないことにする。

「ああ、そうだ!見ての通りこちらは丸腰だ。」

「一人……な訳ないな。他の奴らはどこにいる?」

「後から来ますよ。まずは交渉役として僕が来ました。」

「信じられるか!他の奴らはどこにいる?」

 弓を持つ斥候役らしき男が弓を引きしぼり、魔術士が杖を構えている。

「後から来ると言っているでしょう!お互いのパーティーがフル装備で出くわしたら即戦闘になるのを危惧して一人で出てきたのですから、少し話をしませんか?」

「話す事など無い!大人しく引き返せ!さもなくば一人であろうと容赦はしない。」

「それは困りましたね。僕らも引き返す訳にはいかないのですが。」

「一人で何ができる!俺達をそこいらの冒険者と同じ様に考えない様にな。」

 全員男性のパーティーだけに、笑い方も下品だなと思いつつ、だんだんイライラしてきたな……

「良いでしょう!ならば力づくと行きますか?」

「この人数でやると言うのか?魔術士風情が舐めるな!」

 それが合図となり、矢が放たれる。

「なっ!」

 矢が真っ直ぐ顔面を捉えたと思ったその瞬間、右手で掴んだ。

 魔術士の身体能力で推し量っての一撃だが、あいにくとその辺の魔術士とは、こちらも訳が違う。

 流石に矢を素手で止めたぐらいでは怯まず、二撃、三撃目の矢が飛んでくるが、これも全て叩き落とす。

 その隙を練って魔術士が風の刃を飛ばして来るが、同じく右手で魔法を放ち相殺する。

「無駄です!武器を下ろせとは言いません!精々足掻いて下さい!」

 言うが早いか駆け出した。

 弓が効かないことを察した斥候役が、ショートソードを構え真っ先に剣を振り下ろして来る。
 その後に前衛の二人が呼応して片手剣と大剣を構え二撃目を準備しているのが見える。

「甘いな!」

 振り下ろされるショートソードを右足を軸に躱すとその流れのまま、体制が崩れ露わになった背中に左踵落としを決め、地面に叩きつける。
 二人の前衛は一瞬動揺するそぶりを見せるが、左右から平行に走る剣筋は躊躇なく胴に向かう。
 斥候役を叩きつけた反動を利用しバク宙で、剣筋を躱すと着地の蹴りでリーダー役の懐に入る。

「ぐっ!」

 硬い金属の胴当て諸共肘当てを食らわせると、衝撃波が背中を貫き、その場に崩れる。
 気と魔力を利用した体術の1つで、見た目には傷は無いが衝撃波が身体の内部を破壊する。
 とはいえ、反動を利用しての打ち込みだ、鎧の前面はひしゃげている。

「魔法を撃て!」

 一人残った前衛役が叫ぶ。

「聴こえて無いようだぞ。」

 慌てて後ろを振り向くと魔術士二人が崩れている。

「なっ、いつの間に!何をした!」

「少々眠ってもらっているだけですけどね。さて、あなたはどうしますか?」

 二人の剣をバク宙して躱す瞬間、詠唱をしている二人の魔術士に軽い電撃の魔法を食らわせ、痺れさせている。
 二時間は目を覚まさないだろう。

「うるせー!てめーは何者だ!魔術士じゃねーのか?」

 そう言うと、こちらの返答も聞かずに斬りかかってきた。
 二撃目を考えぬ大剣の渾身の一撃!
 ゲルドと同じ大剣使いだが、残念ながら彼には遠く技量が及ばない。

 頭部に直撃する瞬間躱しただけなのだが、彼には消えたようにしか見えないだろう。
 自身最大の攻撃力をここで使うのは決して悪手では無いが、相手が悪い。
 大剣は斬り下ろす瞬間にその大きな剣によって死角が出来る。
 その視覚に沿って身体を使えば、振り下ろした無防備な身体を晒すことになる。
 その首元にハイキックを決めた。

「魔術士ではなく魔法使いだよ。体術も一級品ですけどね。」

 様子を見ていたダズル達が駆け寄って来る。

「レオ、ありゃなんだ!あの動き魔術士の動きじゃねーだろ!」

「何を言ってるんですかゲルドは。さっき近接戦闘もしてたでしょう。」

「いや、そうだがまた全然戦い方が……」

「以前、師匠が戦ったの見たでしょ?僕は苦手なので体術に小太刀を合わせたりはしませんが、師匠が動けるのですから弟子の僕もそれなりに動けますよ。」

「突っ込むだけ無駄なんだよな。たくっ、底が見えやしねぇ。」

 何かブツクサ言っているが、近接戦闘が出来ない魔法使いなど何の役にも立たないという師匠の教えがあるので、特別な事とは思わないが、今の魔術士はそうでは無いらしい。

「なぁ、レオ!聞いても良いか?」

 無力化した魔術士をゲルドが、地面に倒れる前衛の三人をリックが、それぞれ拘束しに近寄っていた。

「何ですかリック?」

 三人を順番に確認しながら残念そうな声を出す。

「こいつら死んでるぞ。確か生け捕りにするんじゃ無かったのか?」

「へっ?」

 斥候役は地面に叩きつけた時に肺を潰し、肘当てをした冒険者は内臓が破裂し、ハイキックを食らった大剣使いは首の骨が折れているらしい。

 師匠が爆笑している……

 師匠を注意した立場が無い……

「やり過ぎだ!」
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