二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

無詠唱とゲルドの必殺技

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 ウンウンと唸りながら魔力の流れを感じようとするゲルドに話しかける。

「早く身に付けるのとゆっくり確実に行くのとどっちが良いです?」

 僕の問いかけにゲルドがリックを見る。

 魔力の操作を掴んだリックは身体の中を巡らせる練習をしている様だ。

「あれは何をしてるんだ?」

「今ゲルドがやっている内容の少し先ですね。身体の中の魔力を感じてその流れをコントロールする練習ですが……」

「早い方だ!」

「分かりました。」

 変に説明して尻込みされても困るので、何も言わずおもむろにゲルドの左手を掴むと、強制的に魔力を流し込んだ。

「ぐわぁぁぁ!」

 悲痛な叫びがこだまする。

 これ痛いんだよな……
 身体の中にある魔力の流れに沿って、僕の持つ魔力を流し込むことによって、無理矢理開通させる。
 言うなれば詰まった血管を無理矢理こじ開け、血液を流し込み血管そのものを拡張するものだ。
 その痛みは感じたことが無いだろう。
 本来感覚さえ掴めれば後はゆっくりと拡張して行くだけなのだが、そのとっかかりだけ膨大な魔力で強制的に行う事も出来る。
 僕はこれを連日ガバガバになるまで師匠にやられた。
 お陰で修行期間が数年短縮された上に魔力量も宮廷魔術士の軽く数倍程まで大幅に増大したのだが、見ての通り激痛にのたうち回る。
 師匠はその姿を見て、心底楽しそうに笑っていた。
 人が悶絶している姿を見るとたまらなく楽しいらしい、単なるドSだ。

 可哀想だが、自分で選んだ道なので、身体を魔力が一周するまで、容赦無く流し込む。

 涙目になりながら恨めしそうに見て来るが、途中で止めるのも中途半端だ。
 ちょっと流す量を増やしてみると、また叫び声が上がる。

 だんだん楽しくなって来るな、これ……
 師匠の気持ちが分かってきた。

 リックとダズルが引き気味に見ているが、そちらを見ると目を逸らされる。
 師匠は楽しそうに、お前達もやるか?と二人に声を掛けるが、見たこともない速度で首を振り全力で断られている。

「おっ、そろそろかな。ゲルドもう少しですよ。頑張って下さいね。」

 声もかすれヒューヒュー言っているゲルドに声をかけるが、聞こえてない様だ。

「終わりましたよ。」

 これでゲルドも魔力を流す感覚が掴めるはずだが、白目を剥いて横たわっている。

 どうしようかと思っていると師匠が容赦なく電撃を食らわす。

「ぐはぁ!」

「起きたか?次に進むぞ。」

「は、はひぃ!」

 リックとダズルが助け起こすと、ゲルドが自分の変化に気づいた様だ。

「あれ?何だこれ?」

「それが魔力の流れです。一度魔力の流れを感じる様になればあとは割と楽だと思いますよ。」

「こりゃ、すげー!早く次行きましょう!」

 あんなにのたうち回っていたのに現金なものだ。

「では、引き続きリックは私が教えてやろう。身体強化はレオに教わると良い。」

「はい!では、ダズルとゲルドは魔力を今度は体の表面に這わせるイメージで動かしてみてください。」

「こうか?」

 流石に苦労しただけの事はあり、ゲルドが難なく成功する。
 ダズルは少し苦労している様だが、荒療治しますか?と尋ねると途端に成功してしまう。

「ちっ!」

「なんか言ったかレオ?」

「いえ、そしたら身体強化を詠唱して発現させてみて下さい。」

「詠唱しても良いのか?」

「はい!詠唱すると身体の中で魔力が動くのを感じられると思います。その感覚と発言した状態を意識すれば良いです。」

「分かった、やってみる。」

 身体強化魔法というのは、魔力の力を使い己が持つ筋力などを擬似的に数倍に強化させる事で、力やスピードなどを飛躍的に強化する割とポピュラーな魔法だ。
 ただ、素の身体を強化する以上、ベースとなる身体があって初めて効果を発揮する。
 つまり鍛えているもの程効果が高いという事だ。
 その点この二人は日頃から鍛錬を怠っていない。

「出来たぞ!」

「俺もだ!」

「では、魔法を解いて下さい。」

 身体に纏った魔力が消える。

「では、一度身体に集めた魔力を身体強化を使った時と同じ要領で身体に張り巡らせて下さい。そこまで出来たら一度解いて良いですよ。」

「分かった。」

 割とポピュラーな身体強化魔法は様々な場面で活用されていて、冒険者の特に前衛では必須、軍でもほぼ全員が使っている。
 魔術学校でも、初期に習うものではあるが、詠唱が難しく少々長い為に実戦で使うにはそれなりの経験が必要だ。。
 魔術士は基本の身体が出来ていないというのも使われない原因の一つではあるのだが、僕らは割と多用している。

「出来た様ですね。では次にそのまま身体強化魔法を発現したイメージに魔力を合わせて見て下さい。身体強化魔法を使った時の魔力と同じようにする感じです。この辺は感覚なのでやってみるしか無いですが。」

「分かった!」

「ダズルより先にものにしてやるぜ!」

 師匠達の方を見るとリックが早々と成功させた様で風の刃を練習しているのが見える。
 同じくその様子を見ていた二人が闘志を燃やしているが、空回りしない様にしてもらいたいものだ。

「レオ!どうだ?」

 まずゲルドが成功した。

「意外ですが、完璧ですね。」

「意外とは何だ!」

「まぁまぁ、後は発現までの時間が短くなる様に繰り返してみて下さい。」

「ああ、やってみる。」

「俺も出来たぞ!」

 ダズルも成功した様だ。

「割と早かったですね。」

「魔力流すやつをやられるのは勘弁してもらいたいからな。とは言えまだ時間かかるから少し繰り返してみるわ。」

「そうして下さい。」

 ゲルドを見てみると数秒で発現させている。

「ゲルド剣を握ってみて下さい。」

「こうか?」

「今身体に沿って出ている魔力を剣まで伸ばすイメージをしてみて下さい。魔剣ですから流すのは楽だと思いますよ。」

 言うが早いかブォーンという低い音が大剣から出る。

「おっ!出来たぞ。」

「ゲルド!」

 おもむろに身長ほどもある岩石を召喚して放る。

「うわっ!えっ?」

「それが魔法剣というやつです。」

 おもむろに振り抜いた後には、地面に真っ二つになった岩石が転がる。

「えっ?これ、すげー威力じゃ。」

「切れ味は数倍ですよ。身体強化と合わせたら必殺技と言っても良いと思いますよ。」

「おお!すげーぜ!レオ!」

 楽しそうにブンブン振り回している。
 まるで欲しかったおもちゃを手に入れた子供の様だ。

「あっ、調子に乗るとすぐに魔力無くなりますからね?」

 遅かった……

 振り向いた先には幸せそうな笑みを浮かべたゲルドが横たわっていた。

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