社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

八千古嶋コノチカ

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社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

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 会社組織においてニ種類の人間がいるーーそれは出世する者としない者。入社七年目、私、岡崎梨里は後者であり、役職に抜擢された後輩が賛辞に包まれる様子をデスクから眺めていた。

「あの若さで部長なんて凄いよな?」

「そうね」

 感心する声に相槌を打ち、悔しさを気取られないよう笑顔を貼り付ける。ずっと望んできたポジションに彼が就いたのは実力だと納得しつつ、胸内に燻るものはあった。

「しかも結婚するんだって」

「結婚?」

「相手は松下部長の部下。社内恋愛だよ」

 これまた異例の若さで出世した男の名、続いてキャリアアップの為に諦めた分野の話を出され、言葉に詰まってしまう。

 神様は意地悪だ。天は二物を与えずと言いつつ、後輩には両手に祝福を与えるじゃないか。

「岡崎さん、岡崎さん?」

 天の呼び掛けにハッと我に返った。

「……朝霧君、おめでとう」

 祝福の中心に居た彼が目の前へ移動している。咄嗟ながら祝辞を述べると眉を困った風に下げられた。

「ありがとうございます、これも岡崎さんの指導があったからです。どうぞこれからもご指導宜しくお願いします」

「やめて、頭なんか下げないで。あなたの方が偉いのよ?」

「でも先輩は先輩ですから。至らない点はズバリと正して欲しいです」

 部署内の視線が集まって居心地が悪い。

 女を捨ててまで出世をしたいと噂の私、昇進と人生のパートナーも手にする朝霧君との対比で体感温度はみるみる下がる。

「と、とにかく、こちらこそ今後とも宜しくお願いします!」

 私も起立し、大きく頭を下げた。いわゆる降参のポーズをされて朝霧君はますます困った顔をしているに違いない。
 しかしケジメはしっかりつけなければならない訳で。彼はもう後輩の朝霧君じゃなく、上司の朝霧部長なのだ。

「私は抱えている案件がありますので失礼します。それからご結婚おめでとうございます」

 社内恋愛、それも松下部長の部下とーーなんて余計な事は言わない。かの部長の価値観を当人が知らないはずないから。むしろ彼は松下部長が認めざる得ない業績を上げたとも言える。

「それでは失礼します」

 再度一礼し、書類を抱えると場を離れた。

「岡崎さん、出世も結婚も先を越されて可哀想ー」

「仕事一筋でやってきてるのにね」

 こんな囁きを浴びようが顔色を変えない、というより変えてやるものか。

 指摘は図星であるものの、私は精一杯勤めているのだし背中を丸める必要などないんだ。うん、胸を張ろう。
 こういう時、ポーカーフェイスと揶揄される顔立ちに生んでくれた両親に感謝する。

 部署を出た足で、とある部屋へ向かう。

 廊下まで朝霧部長の誕生にザワつき、私の姿に複雑な目配せをし合う。揃いも揃って次期部長と評され、その気でいた女の計算違いを遠巻きに見守るのだった。
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