社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

八千古嶋コノチカ

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松下side

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松下side



 定例会議を終え、自販機の前に立つと隣から手が伸びてきた。

「お疲れ様です。松下部長」

 今回から会議のメンバーとなった朝霧がカフェオレを差し出す。

「甘い物がお好きなんですって? 妻から聞いてます」

「甘い物は好きだが、奢って貰うのは嫌いだね」

「そう言わずにどうぞ。部長には感謝しているんですよ」

 営業畑で育った精神はちっとやそっとの嫌味など効きやしない。人懐っこい笑顔を向けてくる。
 仕方なく缶を受け取り、側のベンチへ腰掛けた。会議の後はこうして休憩するのがルーティンだ。

「ご一緒しても?」

 ブラックコーヒーを片手に朝霧は尋ねる。

「……どうぞ」

「じゃあ、失礼します」

「そんな畏まらなくていいよ。立場は同じなんだ、朝霧部長」

「いえ、俺がこうして居られるのはあなたという前例があったから」

 一人分スペースを開け、腰掛ける。絶妙な距離感。もう少し近ければ追っ払ったし、遠かったなら会話に応じなかったのに。
 朝霧は勘の良い男だ。僕など引き合いに出さずとも出世は約束されていた。

「過ぎた謙遜は嫌味になるぞ。気をつけるんだな。やたら下手に出て舐められたら始末が悪い。年長者相手だろうと締めるところはきっちり締めろ」

 アドバイスというより釘を刺す意味合いが強い。

「あー、はい、確かにそうですね」

 情けない相槌を打つ朝霧。どうせ思い当たる節があるのだろう。

「先程、岡崎先輩に挨拶したんですが、先輩は皆の前で大きく頭を下げられて。俺としては変わらぬ指導をお願いしたかっただけなんですけど……しまったなぁ、配慮が足りませんでした」

 岡崎梨里の名にぴくり、自分の眉が動いたのが分かった。
 出世争いにおいて勝者がいれば当然敗者もいる。敗北した岡崎は朝霧の配下になると示したのであろう。

「申し訳ありませんでした」

「は? 何故、僕に謝る?」

「岡崎さんは部長の片腕になる人だったと聞いています」

「ーーそれも妻からか? 朝霧夫妻は家庭内でそんな話をする程、会話のネタが無いのかい? もっと楽しい話をするのをお勧めするよ」

 岡崎でなく朝霧を部長にした組織の判断に異論はない。合理的な決定と支持する。

「部長が今の立場になった時はかなり苦労されましたよね? 陰湿な足の引っ張り合い、子供みたいな嫌がらせを沢山されていたと記憶してます。部長はその影響が岡崎先輩に及ばないよう営業部へ行かせたのでは?」

「だから僕の話はどうでもいい! そんな昔のことを言われても覚えてないな」

 思いの外、ボリュームを大きくして伝えてしまう。

 カフスを外し、タイを緩め深呼吸する。昔のことなどと言いつつ、当時の怒りは消えていない。

「もし先輩が部長の下で仕事し続けていれば、先輩が昇進していたと思います」

「ねぇ、その言い草は岡崎に失礼だよ。僕が面倒を見なかったから彼女は部長職につけなかった訳? 違うよね? 今回、会社が朝霧を評価したが、僕は岡崎の方が力量はあると考えてる。僕個人は岡崎を推していた」

 冷静さを欠き、らしくない応答をしてしまっている。会社の決定を覆したいんじゃない。ただ朝霧の失礼な物言いがやり過ごせない。
 僕は現在進行系で岡崎の資質を誰よりも認めており、側に置いて教育をしたかったのだ。

『第一、私に営業なんて向いてないんですよ! 部長が私を営業部へ行かせて、私はあなたの下で働きたいって言ったのに! それを今更なんだって言うんですか?』

 資料室でそう訴えてた彼女の顔が過り、悔しくなる。

「朝霧、君は一体何が目的でこんなやりとりを吹っ掛けるの?」

「会議中、部長が上の空でしたので岡崎先輩の件なのかなぁと。俺が言える義理じゃないですが、先輩を励まして貰いたいですーーあ、部長のことなので既に行動しているかもしれませんけど?」
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