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社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

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 さて連絡をしてと言われても、どう連絡したらいいか分からない。
 かれこれ一時間くらい、私は文面を悩んでいた。

 まず社会人として連絡をしない選択はない。と言って『今度、食事にでも連れて行って下さい』とかカジュアルな対応もしたくない。挙げ句、仕事のアドバイスを要らないと断ってしまった為、相談に乗って欲しいという社交辞令も封じられる。

「はぁ、なんでこんな羽目になっちゃったのやら」

 部長のおふざけを真面目に受け取る自分が情けない。他者と渡り合える振る舞いができるようになったのを見せ付けるチャンスでもあったのに。あの掴みどころがないミステリアスな笑みを向けられると、躾けられたよう頷いてしまう。

 誰にも頼らず一人でやっていく。必死で身に着けている仮面(ペルソナ)を部長は剥がそうとするんだ。

 化粧を落とし眼鏡姿となった私が暗くなるディスプレイへ映し出される。

 ウジウジ悩んでも仕方がない。ここは仕事への意気込みを添えておこう。

「今日は失礼な真似をして申し訳ございません。昇進は叶いませんでしたが腐らずに、これからも精進して参ります」

 口に出しながら打ち込む。もはやテンプレートでも、こうする他ないよね。
 送信しながら山猫のぬいぐるみを手に取り、尋ねてみる。

「会議から戻ってきた朝霧君がね、私を見て部長には気をつけろって言ったんだよねぇ。あなたは何を言ったのかしら?」

 ぬいぐるみを部長に見立てて会話をするなど寒々しいと分かっている。それでも苦労して収集した『ねぇかわ』グッズに囲まれると安心できた。彼等は生活の一部となり、その日あったことなど話したくなって。

 あれだけ悩み抜いても送信は一瞬。返事は望んでいないので入浴して、寝てしまおう。今日は精神的にも肉体的にも疲れた一日だったから。

 『ねぇかわ』柄のパジャマを抱え浴室へ向かおうとした時ーーピコンッ、返信の音がする。

「えっ……」

 なんと部長が返事を寄越す。

『あまり頑張り過ぎるのも良くないな。そんな張り切りすぎる君は息抜きが必要だ。ここへ行ってみないか?』

 こう記された後にはURLが添付され、驚きで息を飲みつつクリックすると『ねぇかわ』のポップアップストア情報が現れた。

 ポップアップストアが駅前に開設されたのは私も知るところで、明日にでも足を運ぼうと予定を組んである。山猫の限定キーホルダーが発売されるらしく、絶対に欲しい。

「ここへ行ってみないかって、私と一緒にという意味だよね? ど、どうしよう?」

 山猫のぬいぐるみに振り向き、確認。もちろん応えてくれず涼し気な瞳で私を見守るだけ。

『じゃあ、十一時に駅前集合で』

 既読マークを了承と捉えて、どんどん話を進める部長。

「ま、待って、私は行くなんて言ってないし。部長と外で会っているのを誰かに見られたりしたら……そんなことすれば」

 ギュッと目を瞑ると、瞼の裏に焼き付いた光景が脳内に流れる。
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