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ーーあれはまだ松下部長付きとして働く頃。
私は昼食を済ませると自席で本を読んでいた。孤高を気取る訳じゃないが、恋愛やファッションについてお喋りする同僚達と過ごすのは気を遣うし、遣わせるだけ。休息とならない。
会社には仕事をしに来ているのだから無理して仲良くなる必要もない。どの会社にもいる目立たない女子社員として過ごす。
「君は本が好きなのかい?」
問に目線を上げる。彼は部長職を任されたばかりで昼休みを取る余裕もなく、常に忙しそう。そんな折、サンドイッチを齧りつつでも私とコミュニケーションを図ろうとするなんて上司の鑑だ。
「えぇ、まぁ」
「そうか、何かお勧めの本があれば教えてくれないかな」
「読む時間あるんですか? 読書する時間があるなら睡眠にあてた方がいいですよ」
全くもって可愛気のない言い方をあえてする。
社内事情に疎い私でも部長が女子社員等の憧れであると把握。部長付きなど大した立ち位置でもないのにやっかまれ、陰口を叩かれるのも珍しくない。
「あはは、君は手厳しいな。こういう時はお疲れの上司を労うのが正解だぞ」
とか言いつつ、部長は露骨に媚びられたり下手に出られるのを嫌うのだ。
若くして出世した弊害とでも言おうか、部長は社内の人間関係に慎重な一面がある。私みたいな地味な社員を起用するのも無駄な争いを避ける為。
「……書類チェック、手伝いますよ」
本を閉じてパフォーマンスめいた溜息をつく。
「え? いいの? 昼休み中なのに?」
「ご自分が労えって言ったじゃないですか」
「わぁ、助かる! ありがとう!」
無邪気に喜ぶ振りしながら任せても良い作業を瞬時に選定する。相変わらず判断力が凄い。
部長はたとえ私が手伝いを申し出なくても、それはそれで構わないと思う。基本、彼は人に期待をしないのだ。
「明日はクリスマスイブだね。岡崎はサンタクロースに何をお願いするの? 僕達は良い子にしていたもんな、きっとプレゼントを貰えるさ」
部長の席へ書類を受け取りに行き、予定がぎっしり書き込まれた卓上カレンダーを目にする。
私の知る限り、部長が仕事の期日を守らなかった試しはない。どんなに多忙でもデスクは整理整頓されており、軽口を叩く一方で几帳面さが伺えた。
「プレゼントですか」
ふと窓の外を探る。天気予報によれば数年ぶりにホワイトクリスマスとなるそう。
「欲しい物は無い?」
「……そうですね、雪が降らないで欲しいですかね」
「は? 降らないで欲しいの?」
「えぇ、電車が止まったら帰れなくなるので」
今年は平日のクリスマス、私は平常運転である。
帰りに値引きされたケーキを買うくらいはするかもしれないものの、侘びしいイブの過ごし方をここで披露しても仕方がないだろう。
「……部長?」
部長はポカンとしている。
「部長?」
繰り返してやっと意識を戻してくれた。
「あ、あぁ、すまない。斜め上を行くおねだりで驚いてしまって。流石の僕も天候は操れないよ。で、雪を降るのは止められないがこれをどうぞ」
目の前へ可愛くてラッピングされた包みが差し出される。
「明日は出張でね、部長サンタクロースから一日早いクリスマスプレゼント」
「わ、私に?」
「この状況で君以外に渡していたら怖いでしょう? いつも頑張ってくれる君にお返しをしたくてさ。会社的にこういうのは駄目だが、休憩中に働かせてしまっているし。貰ってくれるかい?」
「そういうつもりで手伝ったんじゃーー」
しっ、部長は皆まで言ってくれるなと人差し指を口元に立てた。
私達しか居ない室内なのに鼓動が賑やかで落ち着かない。
「もちろん、分かってる。これを受けっ取ったからといって無茶なお願いはしないし、僕を意識しないで欲しい。今まで通り、上司と部下の関係でありたい。僕はね、君が男として見ないでくれるのに救われているんだ」
普通、贈り物とは好意を示す手段。それなのに部長は私を遠ざけたくてプレゼントをしようとする。
あぁ、そうか。私は牽制されているのだと理解した。
ーーあれはまだ松下部長付きとして働く頃。
私は昼食を済ませると自席で本を読んでいた。孤高を気取る訳じゃないが、恋愛やファッションについてお喋りする同僚達と過ごすのは気を遣うし、遣わせるだけ。休息とならない。
会社には仕事をしに来ているのだから無理して仲良くなる必要もない。どの会社にもいる目立たない女子社員として過ごす。
「君は本が好きなのかい?」
問に目線を上げる。彼は部長職を任されたばかりで昼休みを取る余裕もなく、常に忙しそう。そんな折、サンドイッチを齧りつつでも私とコミュニケーションを図ろうとするなんて上司の鑑だ。
「えぇ、まぁ」
「そうか、何かお勧めの本があれば教えてくれないかな」
「読む時間あるんですか? 読書する時間があるなら睡眠にあてた方がいいですよ」
全くもって可愛気のない言い方をあえてする。
社内事情に疎い私でも部長が女子社員等の憧れであると把握。部長付きなど大した立ち位置でもないのにやっかまれ、陰口を叩かれるのも珍しくない。
「あはは、君は手厳しいな。こういう時はお疲れの上司を労うのが正解だぞ」
とか言いつつ、部長は露骨に媚びられたり下手に出られるのを嫌うのだ。
若くして出世した弊害とでも言おうか、部長は社内の人間関係に慎重な一面がある。私みたいな地味な社員を起用するのも無駄な争いを避ける為。
「……書類チェック、手伝いますよ」
本を閉じてパフォーマンスめいた溜息をつく。
「え? いいの? 昼休み中なのに?」
「ご自分が労えって言ったじゃないですか」
「わぁ、助かる! ありがとう!」
無邪気に喜ぶ振りしながら任せても良い作業を瞬時に選定する。相変わらず判断力が凄い。
部長はたとえ私が手伝いを申し出なくても、それはそれで構わないと思う。基本、彼は人に期待をしないのだ。
「明日はクリスマスイブだね。岡崎はサンタクロースに何をお願いするの? 僕達は良い子にしていたもんな、きっとプレゼントを貰えるさ」
部長の席へ書類を受け取りに行き、予定がぎっしり書き込まれた卓上カレンダーを目にする。
私の知る限り、部長が仕事の期日を守らなかった試しはない。どんなに多忙でもデスクは整理整頓されており、軽口を叩く一方で几帳面さが伺えた。
「プレゼントですか」
ふと窓の外を探る。天気予報によれば数年ぶりにホワイトクリスマスとなるそう。
「欲しい物は無い?」
「……そうですね、雪が降らないで欲しいですかね」
「は? 降らないで欲しいの?」
「えぇ、電車が止まったら帰れなくなるので」
今年は平日のクリスマス、私は平常運転である。
帰りに値引きされたケーキを買うくらいはするかもしれないものの、侘びしいイブの過ごし方をここで披露しても仕方がないだろう。
「……部長?」
部長はポカンとしている。
「部長?」
繰り返してやっと意識を戻してくれた。
「あ、あぁ、すまない。斜め上を行くおねだりで驚いてしまって。流石の僕も天候は操れないよ。で、雪を降るのは止められないがこれをどうぞ」
目の前へ可愛くてラッピングされた包みが差し出される。
「明日は出張でね、部長サンタクロースから一日早いクリスマスプレゼント」
「わ、私に?」
「この状況で君以外に渡していたら怖いでしょう? いつも頑張ってくれる君にお返しをしたくてさ。会社的にこういうのは駄目だが、休憩中に働かせてしまっているし。貰ってくれるかい?」
「そういうつもりで手伝ったんじゃーー」
しっ、部長は皆まで言ってくれるなと人差し指を口元に立てた。
私達しか居ない室内なのに鼓動が賑やかで落ち着かない。
「もちろん、分かってる。これを受けっ取ったからといって無茶なお願いはしないし、僕を意識しないで欲しい。今まで通り、上司と部下の関係でありたい。僕はね、君が男として見ないでくれるのに救われているんだ」
普通、贈り物とは好意を示す手段。それなのに部長は私を遠ざけたくてプレゼントをしようとする。
あぁ、そうか。私は牽制されているのだと理解した。
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