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「社内では僕がイケメンだから出世したと噂する社員もいれば、顔が好みと言い寄ってくる社員もいる。仕事ぶりではなく見た目でどうこう言われるのは心外だよ」
そうまで言われてしまうとプレゼントを受け取らない訳にはいかない。良い言い方をすれば部長の贈り物は友情の証なのだろう。
「ーーありがとうございます。さっそく開けてみても?」
「あぁ、あぁ! 気に入ってくれるといいんだが」
私の言葉で部長は重苦しかった雰囲気を一気に散らす。するするリボンを解くとブックカバーが出てきた。
「どうだ? これを使えば昼休みでも官能小説を読めるだろう」
「読みませんよ」
「ふーん、なら僕の秘蔵のコレクションを貸そうか?」
「部長は読むんですね」
「まぁな、当分は恋人を作る気はないしな」
部長は天の邪鬼だ。自分を好きになって欲しくない、男として見ないで欲しいなら優しくなどしなければいい。
ブックカバーのデザインとカラーは私の趣向をばっちり押さえてあり、これで意識をするなとは残酷じゃないか。
こんな素敵なクリスマスプレゼント、両親以外では初めて貰った。本当はブックカバーを掲げ、飛び跳ねて喜びたい。
好意を抱かない代わり、彼の側で仕事ができる。この交換条件は私にとっても悪くないかもしれない。部長に片想いしても気持ちが通じ合う確率はーーゼロ、どうしたって報われないのだ。
であれば、私は部長に恋はしない。ここにある高鳴りも切なさも恋情へ昇華させず、憧れという言葉で誤魔化そう。
そして部長の役に立てるよう、仕事を頑張ってみる。
ーーこうしてクリスマスプレゼントを渡された日、私は固く決意した。
ところが翌朝、私へ辞令が出て、ブックカバーは餞別であったと知るのだ。
■
(全然、眠れなかった)
今、私は電車に揺られている。
朝起きるなり、待ち合わせの十分前に到着するよう身支度を整え、家を出た。部長を待たせないサラリーマン精神が働いたのだーーという体にしておく。
目的先のポップアップストアは休日となれば女性客で混み合うはず。乗客の中にも『ねぇかわ』グッズを付けている姿があり、私も膝の上に乗せた鞄へキーホルダーをつけてきた。
もしも知り合いに遭遇した際は『ねぇかわ』好きをカミングアウトする心積もりでいる。一人で来るのが恥ずかしく部長を巻き込んだと説明しよう。
(それにしても、いい天気だなぁ)
流れる景色がクリスマス模様になりつつある。中吊り広告はイルミネーションの特集記事を扱い、カップルが熱心に見上げていた。
一応、私も部長と外出するのだが、デートというより同行。あんな仲睦まじい雰囲気にならない。
それどころか待ち合わせ時間を一方的に発信したっきり、部長からのアクションは無いまま。返信の催促すらせず、だ。約束の場所にやって来ない可能性まである。
部長が来なかったら? 正直を言えば来ない方がホッとするかも。窓に映る私は普段通りの服装でオシャレはしていない。
そして、あと二駅あたりで誰かが隣へ腰掛けてきた。他に空席があるのにと不思議に思うより早く、キーホルダーへ触れられた。
「一緒の電車だったんだな」
「部長……来たんですか?」
「来たんですかって何? 約束したんだ、当たり前でしょう?」
昨晩のやりとりで約束を交わしたと言えるかは置いといて、私服姿の部長に見入る。
「そんなにジッと見ないで。穴が開く」
「いや、なんか新鮮でつい。ジーンズ履くんですね。それからダッフルコートもイメージになくて」
カジュアルな装いは部長を若くした。
「君は普段通りだな」
部長に悪気はない、私は確かに普段通りだ。
「オシャレをすると部長が嫌がると思いまして、遠慮しました」
強がりを放ち、顔を背ける。
「せっかくの思い出つぐりなんだ。拗ねるのは無しにしないか?」
部長はキーホルダーを撫で続けて、ぽつりと溢す。
そうまで言われてしまうとプレゼントを受け取らない訳にはいかない。良い言い方をすれば部長の贈り物は友情の証なのだろう。
「ーーありがとうございます。さっそく開けてみても?」
「あぁ、あぁ! 気に入ってくれるといいんだが」
私の言葉で部長は重苦しかった雰囲気を一気に散らす。するするリボンを解くとブックカバーが出てきた。
「どうだ? これを使えば昼休みでも官能小説を読めるだろう」
「読みませんよ」
「ふーん、なら僕の秘蔵のコレクションを貸そうか?」
「部長は読むんですね」
「まぁな、当分は恋人を作る気はないしな」
部長は天の邪鬼だ。自分を好きになって欲しくない、男として見ないで欲しいなら優しくなどしなければいい。
ブックカバーのデザインとカラーは私の趣向をばっちり押さえてあり、これで意識をするなとは残酷じゃないか。
こんな素敵なクリスマスプレゼント、両親以外では初めて貰った。本当はブックカバーを掲げ、飛び跳ねて喜びたい。
好意を抱かない代わり、彼の側で仕事ができる。この交換条件は私にとっても悪くないかもしれない。部長に片想いしても気持ちが通じ合う確率はーーゼロ、どうしたって報われないのだ。
であれば、私は部長に恋はしない。ここにある高鳴りも切なさも恋情へ昇華させず、憧れという言葉で誤魔化そう。
そして部長の役に立てるよう、仕事を頑張ってみる。
ーーこうしてクリスマスプレゼントを渡された日、私は固く決意した。
ところが翌朝、私へ辞令が出て、ブックカバーは餞別であったと知るのだ。
■
(全然、眠れなかった)
今、私は電車に揺られている。
朝起きるなり、待ち合わせの十分前に到着するよう身支度を整え、家を出た。部長を待たせないサラリーマン精神が働いたのだーーという体にしておく。
目的先のポップアップストアは休日となれば女性客で混み合うはず。乗客の中にも『ねぇかわ』グッズを付けている姿があり、私も膝の上に乗せた鞄へキーホルダーをつけてきた。
もしも知り合いに遭遇した際は『ねぇかわ』好きをカミングアウトする心積もりでいる。一人で来るのが恥ずかしく部長を巻き込んだと説明しよう。
(それにしても、いい天気だなぁ)
流れる景色がクリスマス模様になりつつある。中吊り広告はイルミネーションの特集記事を扱い、カップルが熱心に見上げていた。
一応、私も部長と外出するのだが、デートというより同行。あんな仲睦まじい雰囲気にならない。
それどころか待ち合わせ時間を一方的に発信したっきり、部長からのアクションは無いまま。返信の催促すらせず、だ。約束の場所にやって来ない可能性まである。
部長が来なかったら? 正直を言えば来ない方がホッとするかも。窓に映る私は普段通りの服装でオシャレはしていない。
そして、あと二駅あたりで誰かが隣へ腰掛けてきた。他に空席があるのにと不思議に思うより早く、キーホルダーへ触れられた。
「一緒の電車だったんだな」
「部長……来たんですか?」
「来たんですかって何? 約束したんだ、当たり前でしょう?」
昨晩のやりとりで約束を交わしたと言えるかは置いといて、私服姿の部長に見入る。
「そんなにジッと見ないで。穴が開く」
「いや、なんか新鮮でつい。ジーンズ履くんですね。それからダッフルコートもイメージになくて」
カジュアルな装いは部長を若くした。
「君は普段通りだな」
部長に悪気はない、私は確かに普段通りだ。
「オシャレをすると部長が嫌がると思いまして、遠慮しました」
強がりを放ち、顔を背ける。
「せっかくの思い出つぐりなんだ。拗ねるのは無しにしないか?」
部長はキーホルダーを撫で続けて、ぽつりと溢す。
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