溺愛彼氏★失恋したらチャラ男が一途な本性を現しました

八千古嶋コノチカ

文字の大きさ
5 / 9

しおりを挟む
「もうこの際だから言っておく」

 片桐は掴まれた腕を解き、わたしの手首を掴み直す。咳払いひとつ落として射抜く強さの眼差しを向けてきた。

「俺、ミユが好き。かなり前からミユしか見えてなかったよ。けど青山が好きって知ってたし、チャラチャラふざけながらでも側に居られるならそれでいいと思ったんだ」

 片桐がわたしを好き? あまりの急展開に見開く。

「い、いきなりどうしたの? 片桐は色んな女の子と付き合ってたよね?」

「告白してくれた子には《俺は好きな人がいて絶対に君を好きになったりしない、それでも諦められないならお試しで付き合ってみるか》って言ってた。これを伝えた上で付き合う子も居たにはいたけど、結果はミユも知ってるよな?」

 片桐は現在フリー。彼女が出来ても一ヶ月と保った試しがない。

「諦められられない子と付き合うのが酷いと言いたい? 俺自身がミユを諦めきれず苦しいからか、彼女等に俺への恋心は100%報われないんだって諦めて貰うのがいいと考えた」

「それが片桐と付き合う前置きや条件?」

「そう、ミユ以外に発生する前置きと条件。ミユには言わない、言えないって理解した?」

 片桐に握られた箇所がじんじん熱くなる。

「で、ミユまで青山に仮初めの彼女でいいから付き合いたいとか言い出して、俺がしている事は自己満足なんだと気付いたよ。ミユがお試しで青山の彼女になるなんて悔しい」

 常日頃、女子に囲まれている片桐は自他共に認めチャラさで、特定の相手が必要ないと決めつけていた。わたしと仲良くするのだって異性というより同性に近い接し方をし、全くというほど気取らせない。

 わたしを好きだと言う理由は分からないが、片桐が冗談でわたしを好きと言わないと信用はする。

「……ごめん片桐、わたし何と言えばいいか」

 そして、これがわたしの正直な感想だ。混乱している。

「ははっ、俺もごめん。ミユが俺は好みに合わせて貰ってばっかりって意地悪言うもんだからムキになっちまった」

「ごめん」

 また謝る。

「いいって、謝るな。ミユは悪くない。失恋して弱ってる所に付け込むみたいだよな」

「……ごめん」

 それでも謝る。

「あっ! これってもしかしなくても、俺、振られてるやつだ?」

「片桐、ごめんね」

 わたし、ごめんねしか言えないロボットみたい。

 話しているうち辺りはすっかり暗くなり、頼りない電灯と欠けた月がわたし等を照らす。手首は随分握られ続けて感覚が無くなりつつある。

 片桐の告白は驚きに次いで申し訳無さを巡らせ、つまり彼の気持ちに応えられない。これが結論。

「……今日のところはマンゴープリンはお預けという事で帰るぞ、解散!」

 わたしから手を離せないと察知したのだろう。片桐は歯切れのよい声で離すタイミングを演出し、力なく戻された腕がぶらぶら揺れて心も揺れる。
 
「ミユ」

 呼び掛けに怒気は含まれておらず、考えてみれば家族を除いて片桐しかわたしを名前で呼ばない。

「振られたからって友達辞めたりしねぇから安心しろよ。明日になれば今まで通りだ」

「友達でいてくれるの? いいの?」

 食い気味に聞いてしまい、片桐は頷く。

「当たり前だろ。ミユも変に気を回したりしないでくれよ? 俺、今の関係が壊れるのは嫌なんだ」

「う、うん。わたしも嫌だ」

「暗いから気を付けて帰るんだぞ」

「うん、ありがとう。片桐も気を付けて」

「おぉ! じゃあな」

 片桐はニコッと笑う。満面の笑みなのに欠けているような笑顔。

 何度か振り返り、その度手を振ってくれる彼を見送りながら、わたしは生まれて初めて月の裏側を見た気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...