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「もうこの際だから言っておく」
片桐は掴まれた腕を解き、わたしの手首を掴み直す。咳払いひとつ落として射抜く強さの眼差しを向けてきた。
「俺、ミユが好き。かなり前からミユしか見えてなかったよ。けど青山が好きって知ってたし、チャラチャラふざけながらでも側に居られるならそれでいいと思ったんだ」
片桐がわたしを好き? あまりの急展開に見開く。
「い、いきなりどうしたの? 片桐は色んな女の子と付き合ってたよね?」
「告白してくれた子には《俺は好きな人がいて絶対に君を好きになったりしない、それでも諦められないならお試しで付き合ってみるか》って言ってた。これを伝えた上で付き合う子も居たにはいたけど、結果はミユも知ってるよな?」
片桐は現在フリー。彼女が出来ても一ヶ月と保った試しがない。
「諦められられない子と付き合うのが酷いと言いたい? 俺自身がミユを諦めきれず苦しいからか、彼女等に俺への恋心は100%報われないんだって諦めて貰うのがいいと考えた」
「それが片桐と付き合う前置きや条件?」
「そう、ミユ以外に発生する前置きと条件。ミユには言わない、言えないって理解した?」
片桐に握られた箇所がじんじん熱くなる。
「で、ミユまで青山に仮初めの彼女でいいから付き合いたいとか言い出して、俺がしている事は自己満足なんだと気付いたよ。ミユがお試しで青山の彼女になるなんて悔しい」
常日頃、女子に囲まれている片桐は自他共に認めチャラさで、特定の相手が必要ないと決めつけていた。わたしと仲良くするのだって異性というより同性に近い接し方をし、全くというほど気取らせない。
わたしを好きだと言う理由は分からないが、片桐が冗談でわたしを好きと言わないと信用はする。
「……ごめん片桐、わたし何と言えばいいか」
そして、これがわたしの正直な感想だ。混乱している。
「ははっ、俺もごめん。ミユが俺は好みに合わせて貰ってばっかりって意地悪言うもんだからムキになっちまった」
「ごめん」
また謝る。
「いいって、謝るな。ミユは悪くない。失恋して弱ってる所に付け込むみたいだよな」
「……ごめん」
それでも謝る。
「あっ! これってもしかしなくても、俺、振られてるやつだ?」
「片桐、ごめんね」
わたし、ごめんねしか言えないロボットみたい。
話しているうち辺りはすっかり暗くなり、頼りない電灯と欠けた月がわたし等を照らす。手首は随分握られ続けて感覚が無くなりつつある。
片桐の告白は驚きに次いで申し訳無さを巡らせ、つまり彼の気持ちに応えられない。これが結論。
「……今日のところはマンゴープリンはお預けという事で帰るぞ、解散!」
わたしから手を離せないと察知したのだろう。片桐は歯切れのよい声で離すタイミングを演出し、力なく戻された腕がぶらぶら揺れて心も揺れる。
「ミユ」
呼び掛けに怒気は含まれておらず、考えてみれば家族を除いて片桐しかわたしを名前で呼ばない。
「振られたからって友達辞めたりしねぇから安心しろよ。明日になれば今まで通りだ」
「友達でいてくれるの? いいの?」
食い気味に聞いてしまい、片桐は頷く。
「当たり前だろ。ミユも変に気を回したりしないでくれよ? 俺、今の関係が壊れるのは嫌なんだ」
「う、うん。わたしも嫌だ」
「暗いから気を付けて帰るんだぞ」
「うん、ありがとう。片桐も気を付けて」
「おぉ! じゃあな」
片桐はニコッと笑う。満面の笑みなのに欠けているような笑顔。
何度か振り返り、その度手を振ってくれる彼を見送りながら、わたしは生まれて初めて月の裏側を見た気がした。
片桐は掴まれた腕を解き、わたしの手首を掴み直す。咳払いひとつ落として射抜く強さの眼差しを向けてきた。
「俺、ミユが好き。かなり前からミユしか見えてなかったよ。けど青山が好きって知ってたし、チャラチャラふざけながらでも側に居られるならそれでいいと思ったんだ」
片桐がわたしを好き? あまりの急展開に見開く。
「い、いきなりどうしたの? 片桐は色んな女の子と付き合ってたよね?」
「告白してくれた子には《俺は好きな人がいて絶対に君を好きになったりしない、それでも諦められないならお試しで付き合ってみるか》って言ってた。これを伝えた上で付き合う子も居たにはいたけど、結果はミユも知ってるよな?」
片桐は現在フリー。彼女が出来ても一ヶ月と保った試しがない。
「諦められられない子と付き合うのが酷いと言いたい? 俺自身がミユを諦めきれず苦しいからか、彼女等に俺への恋心は100%報われないんだって諦めて貰うのがいいと考えた」
「それが片桐と付き合う前置きや条件?」
「そう、ミユ以外に発生する前置きと条件。ミユには言わない、言えないって理解した?」
片桐に握られた箇所がじんじん熱くなる。
「で、ミユまで青山に仮初めの彼女でいいから付き合いたいとか言い出して、俺がしている事は自己満足なんだと気付いたよ。ミユがお試しで青山の彼女になるなんて悔しい」
常日頃、女子に囲まれている片桐は自他共に認めチャラさで、特定の相手が必要ないと決めつけていた。わたしと仲良くするのだって異性というより同性に近い接し方をし、全くというほど気取らせない。
わたしを好きだと言う理由は分からないが、片桐が冗談でわたしを好きと言わないと信用はする。
「……ごめん片桐、わたし何と言えばいいか」
そして、これがわたしの正直な感想だ。混乱している。
「ははっ、俺もごめん。ミユが俺は好みに合わせて貰ってばっかりって意地悪言うもんだからムキになっちまった」
「ごめん」
また謝る。
「いいって、謝るな。ミユは悪くない。失恋して弱ってる所に付け込むみたいだよな」
「……ごめん」
それでも謝る。
「あっ! これってもしかしなくても、俺、振られてるやつだ?」
「片桐、ごめんね」
わたし、ごめんねしか言えないロボットみたい。
話しているうち辺りはすっかり暗くなり、頼りない電灯と欠けた月がわたし等を照らす。手首は随分握られ続けて感覚が無くなりつつある。
片桐の告白は驚きに次いで申し訳無さを巡らせ、つまり彼の気持ちに応えられない。これが結論。
「……今日のところはマンゴープリンはお預けという事で帰るぞ、解散!」
わたしから手を離せないと察知したのだろう。片桐は歯切れのよい声で離すタイミングを演出し、力なく戻された腕がぶらぶら揺れて心も揺れる。
「ミユ」
呼び掛けに怒気は含まれておらず、考えてみれば家族を除いて片桐しかわたしを名前で呼ばない。
「振られたからって友達辞めたりしねぇから安心しろよ。明日になれば今まで通りだ」
「友達でいてくれるの? いいの?」
食い気味に聞いてしまい、片桐は頷く。
「当たり前だろ。ミユも変に気を回したりしないでくれよ? 俺、今の関係が壊れるのは嫌なんだ」
「う、うん。わたしも嫌だ」
「暗いから気を付けて帰るんだぞ」
「うん、ありがとう。片桐も気を付けて」
「おぉ! じゃあな」
片桐はニコッと笑う。満面の笑みなのに欠けているような笑顔。
何度か振り返り、その度手を振ってくれる彼を見送りながら、わたしは生まれて初めて月の裏側を見た気がした。
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