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「見てみろよ。青山がまた告られてるぞ」

 放課後、片桐の面白がる声にわたしは肩を竦めた。襟足はちくちく首を刺激しなくなったが、胸は変わらず痛くなる。

 片桐に告白されてから大きく変わった事はなく、相変わらず馬鹿をして騒ぎ、他愛もない話で笑い、友人関係を維持できている。ただ、それがわたしの胸をこんなにも締め付けるのは想定外だった。

「青山、一体誰となら付き合うのかね? 全員振ってるって話だぜ?」

「さぁ? 勉強とかで忙しいんじゃない? 片桐こそ、最近は全部お断りしてるって聞いたよ?」

 ひとつだけ変わった事がある。どうやら片桐はお試しで誰かと付き合うのを止めたらしい。

「あー、それはバイトに忙しいんじゃない?」

 質問を質問で返された。

「まっ、ミユにはその辺は関係ないでしょ」

 見なくともわたしが不満な顔をしているのが分かるのだろう、片桐が言葉を付け加えた。これは他意はない発言で、わたしを傷付けるつもりなどない。それなのに一本、線を引かれたと感じてしまった。

「マンゴーフェア、今月末で終わっちゃうね」

「あ、そうだった、そうだった! マンゴープリン、食おうぜ」

 延期になっていた件を持ち出せば、いちにもなく食い付いてくれる。片桐に距離を感じるとこんな風に試したくなってしまう。

「今日はバイト入ってないよ?」

「いいじゃん。何か予定あるのか?」

「無いけど。片桐は無いの?」

「あぁ、今、予定が出来た。ミユとマンゴープリン食う予定が! な?」

 片桐は告白場面の覗き見を中断し、こちらに振り向くとウィンクした。

「もう調子いいんだからーーえ?」

 帰り支度を整え、さっそくファミレスへ向かおうとした所、窓の外から視線を感じた。

「!」

 なんと青山君がこちらを見ている。

「? ミユどうした?」

 動きが固まったわたしを不思議がり、片桐も校庭を確認した。

「青山の奴、こっち見てるな」

 わたしの見間違いではないようだ。しかも青山君はおいで、おいでと手招きをしてきた。

「どうするの? 青山、ミユを呼んでるぞ」

「どうするって……わたしは青山君に用なんてないよ」

「そっか、そうだよな。よし!」

 すると、片桐は窓を全開にして身を乗り出した。

「バーーカ! 普通、用がある奴が出向くだろうが! ミユと話したいならお前が来いよ! バーーカ!」

 最初と最後のバカという単語に物凄い声量が充てがわれて、もしかしたら青山君はその部分しか聞こえないかも。

 校庭では部活活動中の生徒や帰宅する生徒も居て、片桐の大声は注目を浴びる。そんな彼等に対し片桐はふふんと鼻を鳴らし、ピースサイン。

「もう馬鹿はどっち! 何してるの! 恥ずかしいからやめて!」

 だらしなく着たシャツを引っ張り片桐を教室へ引き戻す。

「だって青山と話した方がいいだろ? ミユ、ずっと悩んだままじゃん?」

「そ、それは」

 片桐がーーと言い掛け慌てて飲み込む。胸の痛みはすっかり彼のせいになっていたんだ。

「んじゃ、後はお若い二人に任せて。俺は帰るわ」

 バッグを担ぎ、片桐は出て行こうとする。

「帰るって? マンゴープリンどうするのよ!」

 引き止めようと伸ばした手は空を切り、片桐が遠い。というより避けられた。

「あいつがミユと別れてから誰とも付き合わないのって、ミユが好きなんじゃねぇ? もう一回ちゃんと話した方がいいぞ。意地張り合ってても、しょうがないだろうが」

 首に手をやり、アドバイスしてくる。

「ーーなんで片桐がそういう事を言う訳?」

 わたしを好きなんじゃないの? もう好きじゃなくなったの? 余計なお節介に身勝手な主張をしそうになり、彼を睨むに留まる。

「おぉ! 怖い、怖い! 退散しましょう」

 睨まれた片桐はわざと肘を擦る仕草をし、踵を返す。

「片桐!」

 後を追おうとしたが、片桐と入れ違いで青山君が入ってきた。二人は無言ですれ違い、視線も合わさない。
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