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「青山君、ごめんね? 片桐が迷惑掛けちゃって」

「いや、片桐の言う通りだと思って。用がある側が来るべきだよね。少しいいかな?」

 わたしから話は無くとも、申し出を受けると断りにくい。片桐の気配を目で追い掛けつつ、曖昧に首を傾げる。

「いい、けど……何かな?」

 青山君に振られた際《思っていたのと違った》と言われた理由は、おしとやかで温厚、マンガに登場するみたいな女の子を一生懸命演じていたからだろう。

 わたしは一ヶ月という短期間ですらその仮面を付けられず、がっかりさせてしまったんだ。

 青山君と向き合うと理想と現実の差にズキズキして、こういう胸の痛みは少なくとも恋じゃない。よく皆が言っている恋に恋をしていたと今なら分かる。

「髪切ったんだ?」

「え、あ、うん」

 青山君が長い髪が好みだと知って伸ばしたものの、ケアが大変、わたし自身が短い髪が好きなのもあって失恋を言い訳に切ってしまった。

「また伸ばしてくれないかな?」

 鼻先を擦り、照れた顔で青山君は言う。

「え?」

「あれから僕も考え直した。君は授業の予習をして教えてくれたり、お弁当を作ってくれた。僕の好きなゲームやスポーツを一緒に楽しんでもくれたよね? 僕の為にそこまでしてくれる人は君しかいないかもしれない。他の子に同じ事が出来るか確かめたら出来ないと言われて、君が僕を本気で好きなんだと理解した」

「……それって」

 好かれる為の努力を認めて貰えてるのに、全然嬉しくない。なんなら青山君にとって都合のよい女の子を求められているような気持ちになる。

「もう一度、付き合わない?」

 この言葉を告げられる妄想を何度もしたけれど、いざ告げられてみたら響かないどころか冷めていき、あんなに眩しく映った相手が霞
 再び情熱を持って青山君に尽くせるか? 答えはノーだ。

「わたしはっーー」

 反論しようとしたら唇に人差し指を立てる。

「それから片桐とは仲良くしないで欲しい。片桐なんかと一緒に居たら、君まで先生に目を付けられてしまうよ? 知ってるはずだよね? 片桐がいい加減な奴だって」

「片桐が……いい加減な奴?」

「最初、君に告白された時、片桐と結託して僕に嫌がらせでもするのかと思った。もしくは片桐に脅されて告白してきたのかと。蓋を開けてみたらーー思ってたのと違ったんだけど」

 ペラペラ語る。片桐を何も知らないくせ、滑らかに悪口を生産する。
 わたしだって彼の全部を知っている訳じゃないが、お弁当を作りたいと相談すれば手伝い、ゲームやスポーツの話題を仕入れてくれる。
 一緒に笑って泣いて、わたしの恋路を誰よりも応援したのは片桐じゃないか。

 それなのに。

「ーーカ」

 それなのに、わたしってば。

「ん? なんて?」

「バーーカって言ったんだよ! バーーカ! 誰が付き合うか! バーーカ!」

「なっ」

 思い切り舌を出すと、呆然とした青山君を置き去りにして駆け出す。

 今すぐ片桐に謝りたい。

 そして今すぐ片桐に会いたい。
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