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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで
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浅田さんが私を探しに森へ入って来なかったのは幸い? それとも?
いずれにしろ別荘に帰るしかない。明るくなり始めた景色は私を隠し続けてはくれないのだから。
ーーガサリッ。その時、踏み分けてくる気配がした。音がする方向へ振り返り、身構える。
浅田さんだろうか? 朝靄に包まれたシルエットは人である事しか判別がつかなず、こちらに向かって真っ直ぐ近付いてきた。
「浅田さんですか?」
こわごわ問い掛けると、足音が止まった。
「あ、あの昨夜は大変申し訳ありませんでした! あなたが入浴中に逃げ出すなんて、卑怯な真似をしたと思っています。で、でも手回り品は全部置いてきました。私は本気で逃げたかったのではなく……」
往生際が悪いと自覚しつつ、言い訳が止まらない。彼の性格上、私を探すにしても管理人に指示を出すと予想していた。浅田さん自ら動かないだろうと。
ところが余程、腹に据えかねたのか。私の申し開きに無言のまま。こちらの出方を伺っている様子だ。
「私の家へ援助して下さり、本当に感謝しています。父が倒れ、伯父が代理で家業を担うものの経営に明るくない為、浅田さんのお力添えがなければ立ち行きません」
尚あちらの沈黙は続く。これ以上、浅田さんへの感謝を表現できそうもなく。立ち上がり謝罪を重ねようとするが、足に力が入らずよろけてしまった。
あぁ、このまま地面へ転がり落ちるのか。でも私が泥にまみれれば、浅田さんも少しは気が治まるかもしれないと諦める。
ーーが、私は倒れなかった。そればかりか抱き止められており、優しく髪を梳かれている。
この仔猫に触れるような手付きを見上げ、息を飲む。
「どうし、て?」
視線の先には一番会いたい人が居るのに、最初に口をつくのは疑問。
「迎えに来たよ。遅くなってすまない」
「斗真さん……」
数年ぶりでも間違えようがない名を呼び、都合のよい夢を見てるのでないか不安に陥る。背伸びをして彼の背へ手を回してみた。
「姫香、辛い思いをしたな。もう大丈夫だ」
目の前の斗真さんは幻影にしては温かく、クリアな声質も幻聴じゃない。
「事情は把握したから。一旦、中で休もう? フラフラしてるじゃないか?」
「でも鍵が」
「管理人さんから借りてきた。あの人、今も変わらないね? 姫香を娘みたいに思っている」
さっとポケットから鍵を取り出す。
別荘には斗真さんもよく同行していたので、彼へ鍵を預けるのもおかしくはない。ただ昨夜の夕食のメニューなどから察して、恋人と滞在するであろうと考えていたはずだ。
斗真さんが言ってくれた通り、管理人さんはわたしを大変可愛がってくれ、別荘を訪ねる機会は減っても季節のやりとりは欠かさなかった。
だから私が昨日、挨拶にも来なかった事で事情を気取ったのかもしれない。
「斗真さん、あの……」
「靴を脱いで腰掛けて。まず手当をしよう」
小屋には本格的ではないが休息をとる程度の設備が整えられている。斗真さんは棚から救急箱を用意し、洗面器にお湯を張る。
彼に無駄な動きはない。イタリアから日本までの移動時間はおおよそ十二時間、ここへ辿り着く段取りもしっかりつけたのであろう。
「さぁ、座って」
立ったままの私に改めて着席を促す。
「自惚れだったら恥ずかしいんだけど、私の為にわざわざイタリアから?」
「プライベートジェットに乗って姫香に会いにきたーーって言ったら自惚れてくれる? いきなり来られて迷惑だとか言わないくれる?」
いずれにしろ別荘に帰るしかない。明るくなり始めた景色は私を隠し続けてはくれないのだから。
ーーガサリッ。その時、踏み分けてくる気配がした。音がする方向へ振り返り、身構える。
浅田さんだろうか? 朝靄に包まれたシルエットは人である事しか判別がつかなず、こちらに向かって真っ直ぐ近付いてきた。
「浅田さんですか?」
こわごわ問い掛けると、足音が止まった。
「あ、あの昨夜は大変申し訳ありませんでした! あなたが入浴中に逃げ出すなんて、卑怯な真似をしたと思っています。で、でも手回り品は全部置いてきました。私は本気で逃げたかったのではなく……」
往生際が悪いと自覚しつつ、言い訳が止まらない。彼の性格上、私を探すにしても管理人に指示を出すと予想していた。浅田さん自ら動かないだろうと。
ところが余程、腹に据えかねたのか。私の申し開きに無言のまま。こちらの出方を伺っている様子だ。
「私の家へ援助して下さり、本当に感謝しています。父が倒れ、伯父が代理で家業を担うものの経営に明るくない為、浅田さんのお力添えがなければ立ち行きません」
尚あちらの沈黙は続く。これ以上、浅田さんへの感謝を表現できそうもなく。立ち上がり謝罪を重ねようとするが、足に力が入らずよろけてしまった。
あぁ、このまま地面へ転がり落ちるのか。でも私が泥にまみれれば、浅田さんも少しは気が治まるかもしれないと諦める。
ーーが、私は倒れなかった。そればかりか抱き止められており、優しく髪を梳かれている。
この仔猫に触れるような手付きを見上げ、息を飲む。
「どうし、て?」
視線の先には一番会いたい人が居るのに、最初に口をつくのは疑問。
「迎えに来たよ。遅くなってすまない」
「斗真さん……」
数年ぶりでも間違えようがない名を呼び、都合のよい夢を見てるのでないか不安に陥る。背伸びをして彼の背へ手を回してみた。
「姫香、辛い思いをしたな。もう大丈夫だ」
目の前の斗真さんは幻影にしては温かく、クリアな声質も幻聴じゃない。
「事情は把握したから。一旦、中で休もう? フラフラしてるじゃないか?」
「でも鍵が」
「管理人さんから借りてきた。あの人、今も変わらないね? 姫香を娘みたいに思っている」
さっとポケットから鍵を取り出す。
別荘には斗真さんもよく同行していたので、彼へ鍵を預けるのもおかしくはない。ただ昨夜の夕食のメニューなどから察して、恋人と滞在するであろうと考えていたはずだ。
斗真さんが言ってくれた通り、管理人さんはわたしを大変可愛がってくれ、別荘を訪ねる機会は減っても季節のやりとりは欠かさなかった。
だから私が昨日、挨拶にも来なかった事で事情を気取ったのかもしれない。
「斗真さん、あの……」
「靴を脱いで腰掛けて。まず手当をしよう」
小屋には本格的ではないが休息をとる程度の設備が整えられている。斗真さんは棚から救急箱を用意し、洗面器にお湯を張る。
彼に無駄な動きはない。イタリアから日本までの移動時間はおおよそ十二時間、ここへ辿り着く段取りもしっかりつけたのであろう。
「さぁ、座って」
立ったままの私に改めて着席を促す。
「自惚れだったら恥ずかしいんだけど、私の為にわざわざイタリアから?」
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