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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで
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「と、斗真さん、何を?」
「俺はね、姫香。こうして跪き、爪先にキスをしたいくらい姫香に忠誠を誓えるよ」
「爪先に!? キス!?」
ふぅ、と斗真さんの息遣いが掛かるので、バタつかせて抵抗を試みる。しかし椅子からずり落ちる結果となり、勢いよく彼の腕の中へ滑り込む。
「やっぱり悪い魔法使いは俺か? 爪先にキスもいいけど、最初はここにしたい。姫香の事は絶対に守るからーーいい?」
熱を帯びたおねだりを浴び、親指の腹で唇をなぞられる。床に座った状態で抱き締められたら緊張がより伝わりそう。斗真さんの鼓動も身近に感じた。
忠誠を誓われるなんて物語のお姫様みたい。斗真さんに全身全霊をかけ守ると告げられ、心が揺れないはずがない。
「でも、私はーー」
尚更キスを贈られる資格などないと顔を背けた。
「断わっておくが、浅田から姫香を奪い返したところで何の問題もない。俺の立場を案じなくてもいい。そもそも俺が先に姫香にプロポーズしたんだ。それを浅田に分からせてならないと」
もしも強引にキスを仕掛けられれば、応じてしまったかもしれない。私から斗真さんへの想いは漏れていて、もう隠せるレベルじゃないだろう。
斗真さんの腕が離れていきホッとしたような、残念なような。
「今はしないだけだから、な。浅田とケリをつけた後、もう一度俺の気持ちを聞いてくれ。そして姫香の本当の気持ちを聞かせて? キスもその先も我慢はしなくてもいいように」
複雑な胸中へ宣言し終え、さっそく別荘へ戻る準備をする斗真さん。浅田さんと揉めるのは火を見るより明らか、彼は私を置いていくかもしれない。
宣言内容に反応する間も与えられず、パンプスを履く。と突然、膝裏へ手を差し込まれた。
身体がふわりと浮き、いわゆるお姫様抱っこをされたのだ。
「置いていかない、の?」
「連れて行く。浅田との醜いやりとりに巻き込みたくないが、イタリアから取りに戻った忘れ物はきちんと持っていかないと、な?」
「……重いでしょう? 置いていかないなら降ろして。歩けます」
「いいや、それは無理なお願いだね。忘れ物には羽根が生えていて、目を離すと何処かへ飛んでいってしまいそうなんだーーそれにしても綺麗になったな、姫香」
キスもその先も我慢すると言った矢先、うっとり目を細めて甘く囁く。彼は私を宝物かつ忘れ物と言う。
口をパクパク動かすものの反論を発さない私に斗真さんはこう続けた。
「可愛い小鳥の餌付けが楽しみだ」
■
別荘では浅田さんが荷物をトランクへ放り込んでいる所だった。私の姿、それも斗真さんに抱えられての登場に見開く。
「君……君は一体今まで何処に行たんだ!」
怒鳴り声に私を心配する成分は含まれていない。どうやら私の荷物も積み込もうとしていたらしく、ボストンバッグが叩き付けられた。
斗真さんの胸をそっと押し、降ろして貰う。緊張で足は竦むが説明責任は果たそう。
「自分が何をしたか分かってるのか? 君が連れているその男はな、朝からここへやって来て君を返せと言ったんだ! はぁ? 返せとは? 君は僕の妻になる女性だろうが? 僕に抱かれるという妻としての役割を放棄した挙げ句、間男を呼び出したのか?」
「私はーー」
「口ごたえするなよ、君は黙って僕の言う事に従えばいいんだ!」
浅田さんが私の腕に触れようとすると、側から伸びてきた手が払い除けた。
「人を間男扱いしないで頂きたい。それを言うならお前が間男だ。姫香の安否を気にするでなく怒鳴り散らすなんてーー器が小さいにも程がある」
私を自分の後ろへ移動させ、斗真さんは浅田さんの怒りと真っ向から対峙する。
「し、失礼だぞ!」
「お前に礼儀正しく接する義理はないからな」
「僕は彼女と話をしている。部外者は黙っていてくれ。これは夫婦の問題なんだ」
「俺はね、姫香。こうして跪き、爪先にキスをしたいくらい姫香に忠誠を誓えるよ」
「爪先に!? キス!?」
ふぅ、と斗真さんの息遣いが掛かるので、バタつかせて抵抗を試みる。しかし椅子からずり落ちる結果となり、勢いよく彼の腕の中へ滑り込む。
「やっぱり悪い魔法使いは俺か? 爪先にキスもいいけど、最初はここにしたい。姫香の事は絶対に守るからーーいい?」
熱を帯びたおねだりを浴び、親指の腹で唇をなぞられる。床に座った状態で抱き締められたら緊張がより伝わりそう。斗真さんの鼓動も身近に感じた。
忠誠を誓われるなんて物語のお姫様みたい。斗真さんに全身全霊をかけ守ると告げられ、心が揺れないはずがない。
「でも、私はーー」
尚更キスを贈られる資格などないと顔を背けた。
「断わっておくが、浅田から姫香を奪い返したところで何の問題もない。俺の立場を案じなくてもいい。そもそも俺が先に姫香にプロポーズしたんだ。それを浅田に分からせてならないと」
もしも強引にキスを仕掛けられれば、応じてしまったかもしれない。私から斗真さんへの想いは漏れていて、もう隠せるレベルじゃないだろう。
斗真さんの腕が離れていきホッとしたような、残念なような。
「今はしないだけだから、な。浅田とケリをつけた後、もう一度俺の気持ちを聞いてくれ。そして姫香の本当の気持ちを聞かせて? キスもその先も我慢はしなくてもいいように」
複雑な胸中へ宣言し終え、さっそく別荘へ戻る準備をする斗真さん。浅田さんと揉めるのは火を見るより明らか、彼は私を置いていくかもしれない。
宣言内容に反応する間も与えられず、パンプスを履く。と突然、膝裏へ手を差し込まれた。
身体がふわりと浮き、いわゆるお姫様抱っこをされたのだ。
「置いていかない、の?」
「連れて行く。浅田との醜いやりとりに巻き込みたくないが、イタリアから取りに戻った忘れ物はきちんと持っていかないと、な?」
「……重いでしょう? 置いていかないなら降ろして。歩けます」
「いいや、それは無理なお願いだね。忘れ物には羽根が生えていて、目を離すと何処かへ飛んでいってしまいそうなんだーーそれにしても綺麗になったな、姫香」
キスもその先も我慢すると言った矢先、うっとり目を細めて甘く囁く。彼は私を宝物かつ忘れ物と言う。
口をパクパク動かすものの反論を発さない私に斗真さんはこう続けた。
「可愛い小鳥の餌付けが楽しみだ」
■
別荘では浅田さんが荷物をトランクへ放り込んでいる所だった。私の姿、それも斗真さんに抱えられての登場に見開く。
「君……君は一体今まで何処に行たんだ!」
怒鳴り声に私を心配する成分は含まれていない。どうやら私の荷物も積み込もうとしていたらしく、ボストンバッグが叩き付けられた。
斗真さんの胸をそっと押し、降ろして貰う。緊張で足は竦むが説明責任は果たそう。
「自分が何をしたか分かってるのか? 君が連れているその男はな、朝からここへやって来て君を返せと言ったんだ! はぁ? 返せとは? 君は僕の妻になる女性だろうが? 僕に抱かれるという妻としての役割を放棄した挙げ句、間男を呼び出したのか?」
「私はーー」
「口ごたえするなよ、君は黙って僕の言う事に従えばいいんだ!」
浅田さんが私の腕に触れようとすると、側から伸びてきた手が払い除けた。
「人を間男扱いしないで頂きたい。それを言うならお前が間男だ。姫香の安否を気にするでなく怒鳴り散らすなんてーー器が小さいにも程がある」
私を自分の後ろへ移動させ、斗真さんは浅田さんの怒りと真っ向から対峙する。
「し、失礼だぞ!」
「お前に礼儀正しく接する義理はないからな」
「僕は彼女と話をしている。部外者は黙っていてくれ。これは夫婦の問題なんだ」
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