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それぞれの誓い
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優子が寝台へ横たわり、うつらうつらとしていると控えめなノックがされた。まさか良子だろうか、優子は飛び起きる。
喧嘩別れを悔やんで思い直してくれたら嬉しい、淡い期待を抱く。
「……お姉様?」
「いえ、私です」
「徳増? こんな夜更けに何?」
期待が外れ、落胆の声を出してしまう。こんな時間まで仕事をしていた徳増を労うべきだが余裕がない。明日に控えた式のこと、先程の良子の件で頭が一杯だ。
くしゃりと前髪を掻き、優子はゆっくり息を吸って吐く、吐いて吸う。徳増に余計な心配をかけたくない。
「少しお話があるのですが宜しいでしょうか?」
「明日では駄目なの? 今夜は身体を休めたいの。分かるでしょう?」
みなまで言わない。徳増も分かっていないはずがないのに、返事は返ってこなかった。
「……」
「何かあったの?」
「……」
「徳増?」
沈黙が続く。優子は寝台からおりて、もう一度呼び掛けた。
「徳増、どうしたの?」
「……」
それでも無言が続くため、優子は仕方なく扉を開ける。と同時に強い力で引き寄せられた。
「何をするの! 離しなさい! って、あなたその顔ーー一体、何があったのよ?」
優子はすぐさま徳増を振り払い、こんな真似をしてくる顔を覗き込む。すると徳増は今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、しかも唇から出血していた。
「……誰かにぶたれたの?」
優子は背伸びし、闇夜に滲む傷口を確認する。傷は殴られたというより強く擦ったみたい。
血を拭うものを取りに行こうとした背中を再び抱き締められた。
「……手当てをしないと」
徳増は優子の肩口でかぶりを振るだけ。これまで意識してこなかったが、徳増の身体は自分をすっぽり包めてしまうほど大きく、腕も指先も優子のものと違う。明らかに男性のものだ。
「ねぇ、手当てを……」
様子がおかしい徳増を無理やり引き剥がすことはできず、居心地悪そうに身を捩る程度の抵抗にとどめる優子。
「何があったかは聞かないから、せめて手当てはさせて。お願いよ」
お願いに徳増はやっと優子を開放する。そのまま手を引かれ室内へ。
椅子に座った彼は天井を仰ぐ。優子は灯りをつけようとしたが、やめる。不謹慎だが今の徳増が美しく見えたからだ。徳増は月明かりに濡らされた色気を漂わす。
優子は手当ての道具を持ち、徳増の正面で両膝をつく。普段、徳増が膝まづく事はあるが逆はない。垂れた血を丁寧に拭う優子に徳増の瞳が動いた。
「痛む?」
「……」
「痛かったら言ってね」
「私が痛めている場所はそちらではなく、こちらです」
優子の手を自らの胸へ当てる徳増。
「あぁ、夜が明けたら私はあなたを奥様と呼ばなければならないのですね。それが辛い、こんなにも痛む」
優子が寝台へ横たわり、うつらうつらとしていると控えめなノックがされた。まさか良子だろうか、優子は飛び起きる。
喧嘩別れを悔やんで思い直してくれたら嬉しい、淡い期待を抱く。
「……お姉様?」
「いえ、私です」
「徳増? こんな夜更けに何?」
期待が外れ、落胆の声を出してしまう。こんな時間まで仕事をしていた徳増を労うべきだが余裕がない。明日に控えた式のこと、先程の良子の件で頭が一杯だ。
くしゃりと前髪を掻き、優子はゆっくり息を吸って吐く、吐いて吸う。徳増に余計な心配をかけたくない。
「少しお話があるのですが宜しいでしょうか?」
「明日では駄目なの? 今夜は身体を休めたいの。分かるでしょう?」
みなまで言わない。徳増も分かっていないはずがないのに、返事は返ってこなかった。
「……」
「何かあったの?」
「……」
「徳増?」
沈黙が続く。優子は寝台からおりて、もう一度呼び掛けた。
「徳増、どうしたの?」
「……」
それでも無言が続くため、優子は仕方なく扉を開ける。と同時に強い力で引き寄せられた。
「何をするの! 離しなさい! って、あなたその顔ーー一体、何があったのよ?」
優子はすぐさま徳増を振り払い、こんな真似をしてくる顔を覗き込む。すると徳増は今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、しかも唇から出血していた。
「……誰かにぶたれたの?」
優子は背伸びし、闇夜に滲む傷口を確認する。傷は殴られたというより強く擦ったみたい。
血を拭うものを取りに行こうとした背中を再び抱き締められた。
「……手当てをしないと」
徳増は優子の肩口でかぶりを振るだけ。これまで意識してこなかったが、徳増の身体は自分をすっぽり包めてしまうほど大きく、腕も指先も優子のものと違う。明らかに男性のものだ。
「ねぇ、手当てを……」
様子がおかしい徳増を無理やり引き剥がすことはできず、居心地悪そうに身を捩る程度の抵抗にとどめる優子。
「何があったかは聞かないから、せめて手当てはさせて。お願いよ」
お願いに徳増はやっと優子を開放する。そのまま手を引かれ室内へ。
椅子に座った彼は天井を仰ぐ。優子は灯りをつけようとしたが、やめる。不謹慎だが今の徳増が美しく見えたからだ。徳増は月明かりに濡らされた色気を漂わす。
優子は手当ての道具を持ち、徳増の正面で両膝をつく。普段、徳増が膝まづく事はあるが逆はない。垂れた血を丁寧に拭う優子に徳増の瞳が動いた。
「痛む?」
「……」
「痛かったら言ってね」
「私が痛めている場所はそちらではなく、こちらです」
優子の手を自らの胸へ当てる徳増。
「あぁ、夜が明けたら私はあなたを奥様と呼ばなければならないのですね。それが辛い、こんなにも痛む」
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