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悪魔

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「……さてと」

 敬吾が居なくなると徳増は切り替えの言葉を発し、おもむろに腕を回し始める。

「あまり時間がありませんので簡潔に。
良子様、死んでください。良子様は優子様として丸井家の当主と無理心中したことにしたいです」

 悪びれることなく宣言した。良子は見開き、宣言の続きを聞く。

「私としては先程の粉を飲んで下さったら楽でしたが、今からでも遅くないので飲んで下さいません?」

「これって、やっぱりーーていうか、なんで、あたしが殺されなきゃいけないのよ!」

「良子様は優子様に憧れていたのでしょう? 死体としてですが優子様になれるのです。嬉しくありませんか?」

「ならないよ! 徳増、なんでよ! あたしが必要なんでしょ?」

「えぇ、必要ですよ。今度は良子様が優子様の身代わりになって下さい」

 徳増の殺意が紛うことない本物であるのを良子は肌でひしひし感じる。距離を一気に詰められ、後退りする足が壁へ突き当たると例の包みが滑り落ちた。

「同業の娘から譲り受けました? 死にたいくらい仕事が嫌になったら飲むように教わったではありませんか?」

 徳増は靴で包みを踏み潰してから、中身を蹴散らす。

「随分詳しいのね。そう言えば私を迎えに来た時も場所慣れしてたわ」

「二度と踏み入れまいと思っていましたが、あの雰囲気は変わっていませんでした。私の母親もこちらを使って亡くなったと聞いていますし。
それではお喋りは終わりにしましょうね」 

 徳増は迷いなく、良子の首に手を絡めた。

「待って、話を聞いて! 丸井家の長男があなたを兄と呼んでいたわよね? なら優子に父親を殺されたってことじゃない! あなたは許せるの?」

 丸井家との繋がりを指摘され戸惑うかと思いきや、徳増は動揺しない。

「えぇ、あんなのを父と思ったことなど一度もありませんので許しますよ。それに優子様が私の父を殺したのを許せば、私が優子様の姉を殺しても許し合えるじゃないですか?」

 情に訴える良子、道理が通らない理屈を熱心に語る徳増。

「やめて! やめてよ! あたし、あなたが好きなの! 徳増が好きだから暁月と結婚したくなかった、他の誰に抱かれても徳増しか愛せなかった! あなたを愛している!」

 良子が心の底から想いを告げる。無垢とは言い難いがこれだって恋情だ。いまにも殺されそうでも良子は徳増が愛しいと叫ぶ。

「はは、私を愛している? 気持ち悪いのでよしてくださいよ、私は嫌いです、大嫌いです。優子様を蔑ろにするあなたが本当に嫌いでした」

 徳増は心底嫌そうに良子を突き放す。

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