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幸福の代償
幸福の代償
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「義兄さん!」
敬吾は優子を押し退けて止血しようとする。ところが優子は刃物から手を離さないし、徳増も本当に案じているであろう敬吾を拒絶。優子の肩を抱き、割って入らせなかった。
「……義兄さん、なんでだよ? 優子ちゃんは義兄さんを裏切ったじゃないか? この女は先代と暁月に穢された。義兄さんに相応しくないよ」
優子は刺した傷から溢れる血液をみ、思いの外、動じない。それどころか徳増の鼓動を確かめたくて耳を寄せる。
「優子ちゃん、どいてよ! 義兄さんに傷跡が残ったらどうするの?」
いくら敬吾が介抱を願い出ようと徳増は応じない。優子は優子で固まったまま。敬吾の地団駄踏む様子に、自分と良子の関係性と似ているのと気付く。
優子も敬吾も腹違いの兄姉を慕う。優子の場合、良子が幸せになれるならと政略結婚を代わりに引き受け、当然、姉は喜ぶと疑わない。しかしながら良子は感謝する以前に優子を酷く憎んでいたのだ。
【昔からあんたが大嫌いだった。優しくて綺麗で誰からも愛されて、あたしの欲しいものを横から全部掻っ攫っていく。
1人じゃ何も出来ないあんたが憎くて仕方がなかった! ううん、1人で何もしなくてもいい、あんたが妬ましかった!】
強姦された痛みに付随し、良子の言い分も優子に刻まれている。
良子が徳増へ想いを寄せ、徳増は優子に拘る起因は同属であることかもしれない。姉から憎まれる妹に寄添うことが徳増の救済としたら?
徳増は直接的に敬吾を憎んでいると語っていないが、優子には感じ取れる。
「あぁ……そうなのね」
優子が深い納得をした。肺が空っぽになるまで吐き出すと、乾いた笑みが込み上げてきた。
刃物を掴んだまま笑うものだから振動が徳増へ伝わり、神経に触る。
「何だよ、何がおかしいんだよ? 義兄さんを刺して頭がどうかしちゃったの?」
敬吾が気味悪がる。優子は血がべったりついた手と袖口をみやって、やはり凪いだままの精神であるのを確認した。
「おかしくなるというより、理解したんです」
崩れた髪が視界にかかるのを払う際、血がつき、まるで血の涙のような跡ができる。
「徳増の言っていた家族愛でもなく夫婦愛でもないものを理解したんですーーあぁ、でも敬吾さんには無理でしょうね」
致命傷に至らない程度に刺した剣に優子はおもむろに体重をかけると、剣身を全て徳増へ埋めた。
「痛い? 息はできる?」
徳増は返事の代わりに血を吐き出すが、その血で優子を汚さぬよう気遣う。優子に与えられた痛みを味わう様は恍惚としており、敬吾をあ然とさせる。
そんな敬吾に優子が言う。
「立花さんを連れて、ここから離れて下さい。徳増にあなたの排除をさせなくていいように」
「排除だって? 義兄さんに出来るはずーー」
「できますよ。だって、これまで徳増にさせてきたのでしょう? 敬吾さんは自分の手を決して汚さず、徳増が請け負ってきたのではないのですか? きっと徳増はやりたくなかったはずです」
「違う! でたらめを言うな!」
「違いませんし、でたらめでもありません。徳増にやらせていたのは事実でしょう? 敬吾さんもわたしと同じ。きれいなものに囲まれ育てられた。兄姉の犠牲の上、生活が成り立っていたのに」
敬吾に告げる言葉は鏡のごとく、優子にも言えること。
出血量が増した中、敬吾のわがままに付き合う猶予はない。一刻も早い退出を願いたいが、敬吾が引き下がらない。
敬吾は優子を押し退けて止血しようとする。ところが優子は刃物から手を離さないし、徳増も本当に案じているであろう敬吾を拒絶。優子の肩を抱き、割って入らせなかった。
「……義兄さん、なんでだよ? 優子ちゃんは義兄さんを裏切ったじゃないか? この女は先代と暁月に穢された。義兄さんに相応しくないよ」
優子は刺した傷から溢れる血液をみ、思いの外、動じない。それどころか徳増の鼓動を確かめたくて耳を寄せる。
「優子ちゃん、どいてよ! 義兄さんに傷跡が残ったらどうするの?」
いくら敬吾が介抱を願い出ようと徳増は応じない。優子は優子で固まったまま。敬吾の地団駄踏む様子に、自分と良子の関係性と似ているのと気付く。
優子も敬吾も腹違いの兄姉を慕う。優子の場合、良子が幸せになれるならと政略結婚を代わりに引き受け、当然、姉は喜ぶと疑わない。しかしながら良子は感謝する以前に優子を酷く憎んでいたのだ。
【昔からあんたが大嫌いだった。優しくて綺麗で誰からも愛されて、あたしの欲しいものを横から全部掻っ攫っていく。
1人じゃ何も出来ないあんたが憎くて仕方がなかった! ううん、1人で何もしなくてもいい、あんたが妬ましかった!】
強姦された痛みに付随し、良子の言い分も優子に刻まれている。
良子が徳増へ想いを寄せ、徳増は優子に拘る起因は同属であることかもしれない。姉から憎まれる妹に寄添うことが徳増の救済としたら?
徳増は直接的に敬吾を憎んでいると語っていないが、優子には感じ取れる。
「あぁ……そうなのね」
優子が深い納得をした。肺が空っぽになるまで吐き出すと、乾いた笑みが込み上げてきた。
刃物を掴んだまま笑うものだから振動が徳増へ伝わり、神経に触る。
「何だよ、何がおかしいんだよ? 義兄さんを刺して頭がどうかしちゃったの?」
敬吾が気味悪がる。優子は血がべったりついた手と袖口をみやって、やはり凪いだままの精神であるのを確認した。
「おかしくなるというより、理解したんです」
崩れた髪が視界にかかるのを払う際、血がつき、まるで血の涙のような跡ができる。
「徳増の言っていた家族愛でもなく夫婦愛でもないものを理解したんですーーあぁ、でも敬吾さんには無理でしょうね」
致命傷に至らない程度に刺した剣に優子はおもむろに体重をかけると、剣身を全て徳増へ埋めた。
「痛い? 息はできる?」
徳増は返事の代わりに血を吐き出すが、その血で優子を汚さぬよう気遣う。優子に与えられた痛みを味わう様は恍惚としており、敬吾をあ然とさせる。
そんな敬吾に優子が言う。
「立花さんを連れて、ここから離れて下さい。徳増にあなたの排除をさせなくていいように」
「排除だって? 義兄さんに出来るはずーー」
「できますよ。だって、これまで徳増にさせてきたのでしょう? 敬吾さんは自分の手を決して汚さず、徳増が請け負ってきたのではないのですか? きっと徳増はやりたくなかったはずです」
「違う! でたらめを言うな!」
「違いませんし、でたらめでもありません。徳増にやらせていたのは事実でしょう? 敬吾さんもわたしと同じ。きれいなものに囲まれ育てられた。兄姉の犠牲の上、生活が成り立っていたのに」
敬吾に告げる言葉は鏡のごとく、優子にも言えること。
出血量が増した中、敬吾のわがままに付き合う猶予はない。一刻も早い退出を願いたいが、敬吾が引き下がらない。
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