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レモンのはちみつ漬け

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「あの柊ってカウンセラーに変な事されてないだろうな?」

 ぶっきらぼうな言葉が寄越される。

「あいつ、カウンセリングとかこつけて女子を連れ込んでるってよ。サッカー部の先輩達が言ってたぞ」

「先生が? そんな風には見えなかったけど?」

 女性の扱いに慣れてそうな先生がわざわざ生徒へ手を出すだろうか。わたし相手だから下心を抱かなかったと言われればそうかもしれないが。

「本当か嘘かはどうでもいい、とにかく関わるな。お前、うっかり秘密を喋っちまうかもしれないだろ」

「うっかりって。鬼の話をしたのは涼くんじゃないの! 先生に変な生徒と思われたらどうするのよ!」

 鬼なんて見る精神状態にはケアが必要、そう判断されればカウンセリングは続行となり、吸血行為がバレる可能性も増す。
 涼くんの危惧する部分に異論はないものの、うっかりを擦り付けられ言い返した。

「話、聞いてたのか? 別に変な生徒でいいだろうが! 高橋からカウンセリング受けに行ったって聞いて迎えに来てやったのに、なんでそう可愛くねぇ態度をとるかな」

「高橋さん?」

 その名前にますますカチンとしてしまい、繋いでいた手を払う。

「どうせ2人でわたしの悪口言ってたんでしょ? イケメンカウンセラーをチェックしに行ったとか?」

「被害妄想、強すぎない? 高橋はお前がカウンセラーにセクハラされないか心配して俺に教えたんだぞ?」

 これは、まんまと高橋さんの根回しにはまってしまった。

「……分かった、カウンセリングには行かない。これでいいよね?」

 高橋さんとの事を説明しても無駄で、これ以上言い争うのはもっと無駄。
 可愛くないと言われてしまったし、可愛く言う必要もない。ぷいっとそっぽを向く。

 と、保健室の窓が視界に入った。先生がこちらを眺めていて、わたしや涼くんというよりもっと遠くを見ているような眼差しだ。

「はぁ、ガキみたいな拗ね方するなよ。あー疲れた、帰るぞ」

 それ以上、涼くんも言い返してこない。練習で疲れたのか、わたしに疲れたのか、たぶん両方だろう。

「ごめん」

「なんで謝るんだよ?」

「子供っぽくて、ごめん。うっかりをわたしのせいにされて嫌だったの。元はわたしが鬼を見たなんて言わなきゃ良かった」

「んな事、言ってねぇ。俺こそーー」

「あ、いいなぁ!」

 校内は部活見学をする同級生が残っており、あちらこちらから楽しそうな声が響く。運動場からの声出しがそれと重なり、学校生活を満喫する合唱となった。

 お祖母ちゃんの母校に通え、憧れの制服に袖を通しせたが、体質が治らない限り、青春を満喫することは叶わない。

「レモンのはちみつ漬け」

「え?」

「俺に面倒かけてるって言うならレモンのはちみつ漬け差し入れろ。前はよく試合の時、作ってただろ?」

「あぁ、試合あるって言ってたね」

 喧嘩という訳じゃないが、涼くんが折れてくれる。

「そうよ、今度の土曜日に練習試合があるの!」

 ところが、わたしの問いに答えたのは高橋さんであった。
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