約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

八千古嶋コノチカ

文字の大きさ
18 / 119
レモンのはちみつ漬け

しおりを挟む
「あの柊ってカウンセラーに変な事されてないだろうな?」

 ぶっきらぼうな言葉が寄越される。

「あいつ、カウンセリングとかこつけて女子を連れ込んでるってよ。サッカー部の先輩達が言ってたぞ」

「先生が? そんな風には見えなかったけど?」

 女性の扱いに慣れてそうな先生がわざわざ生徒へ手を出すだろうか。わたし相手だから下心を抱かなかったと言われればそうかもしれないが。

「本当か嘘かはどうでもいい、とにかく関わるな。お前、うっかり秘密を喋っちまうかもしれないだろ」

「うっかりって。鬼の話をしたのは涼くんじゃないの! 先生に変な生徒と思われたらどうするのよ!」

 鬼なんて見る精神状態にはケアが必要、そう判断されればカウンセリングは続行となり、吸血行為がバレる可能性も増す。
 涼くんの危惧する部分に異論はないものの、うっかりを擦り付けられ言い返した。

「話、聞いてたのか? 別に変な生徒でいいだろうが! 高橋からカウンセリング受けに行ったって聞いて迎えに来てやったのに、なんでそう可愛くねぇ態度をとるかな」

「高橋さん?」

 その名前にますますカチンとしてしまい、繋いでいた手を払う。

「どうせ2人でわたしの悪口言ってたんでしょ? イケメンカウンセラーをチェックしに行ったとか?」

「被害妄想、強すぎない? 高橋はお前がカウンセラーにセクハラされないか心配して俺に教えたんだぞ?」

 これは、まんまと高橋さんの根回しにはまってしまった。

「……分かった、カウンセリングには行かない。これでいいよね?」

 高橋さんとの事を説明しても無駄で、これ以上言い争うのはもっと無駄。
 可愛くないと言われてしまったし、可愛く言う必要もない。ぷいっとそっぽを向く。

 と、保健室の窓が視界に入った。先生がこちらを眺めていて、わたしや涼くんというよりもっと遠くを見ているような眼差しだ。

「はぁ、ガキみたいな拗ね方するなよ。あー疲れた、帰るぞ」

 それ以上、涼くんも言い返してこない。練習で疲れたのか、わたしに疲れたのか、たぶん両方だろう。

「ごめん」

「なんで謝るんだよ?」

「子供っぽくて、ごめん。うっかりをわたしのせいにされて嫌だったの。元はわたしが鬼を見たなんて言わなきゃ良かった」

「んな事、言ってねぇ。俺こそーー」

「あ、いいなぁ!」

 校内は部活見学をする同級生が残っており、あちらこちらから楽しそうな声が響く。運動場からの声出しがそれと重なり、学校生活を満喫する合唱となった。

 お祖母ちゃんの母校に通え、憧れの制服に袖を通しせたが、体質が治らない限り、青春を満喫することは叶わない。

「レモンのはちみつ漬け」

「え?」

「俺に面倒かけてるって言うならレモンのはちみつ漬け差し入れろ。前はよく試合の時、作ってただろ?」

「あぁ、試合あるって言ってたね」

 喧嘩という訳じゃないが、涼くんが折れてくれる。

「そうよ、今度の土曜日に練習試合があるの!」

 ところが、わたしの問いに答えたのは高橋さんであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない

あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。 タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。 図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。 実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。 同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...