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 浅見桜子ちゃんは僕の花嫁なんだよーー四鬼さんの突拍子もない言葉にあんぐり、開いた口が塞がらない。

「だって学園の生徒で年上なら僕も該当するでしょ?」

 小声でウィンクを付け足されるも、いや、まぁそうだけど、どもってしまい、ぱっちり二重の下にある涙ボクロを見詰めた。

「えぇ嘘ー! 四鬼様の花嫁ってなんなの!」

 私より先に金縛りが解けた子等から絶叫に近い非難が生まれ、四鬼さんは唇へ人差し指を立てた。その形の良い口元に意識を吸い込まれる。

「おしゃべりな小鳥は大好きだけど、桜子ちゃんを悪く言う小鳥は好きじゃないなぁ」

 嫌いと言わず好きじゃないとの言い回しは計算していそうだ。四鬼さんは強い言葉をあえて使わない。
 はわたしの肩を抱いたまま、柔らかな牽制をする。

「桜子ちゃんをいじめたりしたら怒っちゃうかも。僕、怒ると怖いんだよ?」

 言葉に聞き入ってみんなは沈黙する。ただひとり、涼くんが面倒そうに言い返した。

「はぁ、御曹司とケンカしたい奴なんかいねぇよ。てか、親の権威を振りかざしてダセェ。好きな女ならテメェの力で守れっつーの」

「ダサい? この僕が?」

「ダサいだろ。他に誰がいるんだ? おい、帰るぞ」

 涼くんに凄まれ、四鬼さんの腕を慌てて外す。

「あ、あの、助けてくれてーー」

 そこまで伝え、胸がどくんと波打つ。
 四鬼さんが真っ赤な目でわたしを見下ろした。

「四鬼さん? 目が」

 赤いと指摘する前に色がみるみる消えてしまう。

「ん? 目?」

「い、いえ、なんでもありません」

 自分の目を擦り、瞬きをする。柊先生に続いて四鬼さんの瞳まで赤く見えるなんて。

「四鬼さんにまで嘘をつかせてしまってすいませんでした。昨日も助けてくれたのに、きちんとお礼を言わなくてごめんなさい」

「まるっきり嘘って訳じゃないよ。世界中の女性は僕の花嫁になる可能性があるしね?」

 わたしにしか聞こえないボリュームで気遣ってくれるのに、四鬼さんを真っ直ぐ見られない。

「君はなんだか不思議な子だね」

 指輪をはめた方の手が頭の上に置かれた。優しく髪を撫でられ擽ったい。それでいて懐かしい。昔、こうやって髪を梳いて貰ったような感じがした。

「あんな言い方しなくても桜子ちゃんを助けられたのに。とっさに君が花嫁だと言っちゃったんだ、どうしてだろうな?」

 四鬼さんも四鬼さんで何かを感じているみたい。

「え?」

「ほら、彼が待ってる。行きなよ」

 わたしこそ、どうしてだろう。彼に優しくされるのは有り難い一方、当たり前という傲慢さがある。
 人の優しさを当然だなんて失礼だ。わたしは去り際に大きく頭を下げた。

「ありがとう、ございました」

「どういたしまして。あぁ、送り狼には気を付けて」

「?」

 それから涼くんへ駆け寄った。四鬼さんも反対方向へ進み出し、迷子と言っていたがそちらには保健室しかない。

 見物人達がわたしと四鬼さんを交互に探る中、事態へピリオドを打つみたいに携帯電話が鳴った。
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