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花嫁の条件
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お父さんとお母さんが揃い、大人達は場所を変え話し合いをするそうだ。
再び広い病室に1人残されたわたしは手持ち無沙汰となり、テレビを付けてみた。
【ーー以前、犯人は逃走中であり、近隣住民らからは不安の声が上がっています】
ニュースでは通り魔事件を報じている。若い女性を狙った犯行が続き、今回の被害者は女子高生らしい。
わたしの家の強盗未遂といい、物騒だなと思いつつ、事件現場の映像が流れるとベッドを降りた。
【高橋由香里さんは下校中、何者かに背後から襲われました。高橋さんは近所のスーパーへ立ち寄っており、防犯カメラには買い物をする様子が残っています】
わたしも何度か訪れたことがあるスーパー、青果売り場でレモンを選ぶ高橋さんの姿が映る。ひとつひとつ手に取って選ぶ高橋さんは真剣でありながらも楽しそうだ。
【高橋さんは命に別条はないとの事ですが、高橋さんの通う高校では登下校を1人でしないよう注意喚起、職員を通学路に配備するなどし、部活動は当面禁止としました】
それから場面はモザイクをかけた葉月高校の生徒へ。インタビューに応じるみんなは事件の解決と高橋さんの回復を願う旨を口にする。
わたしからリモコンが滑り落ち、落下の衝撃で番組が変わった。お笑い芸人の笑い声が響き、その場へ座り込む。
「うっ、うぇぇぇっ」
処理しきれない情報量が込み上げ、吐き気をもよおす。高橋さんは涼くんにレモンのはちみつ漬けを作ろうとして通り魔に襲われたのだ。
高橋さんの物怖じしない勝ち気な顔、涼くんを好きだって言い切る性格、レモンを選ぶ仕草が頭の中でごちゃ混ぜとなる。
「うぇっっ」
床に手を付き、もどしてしまう。ほぼ空っぽであろう胃はそれでも収縮し吐き出そうとした。
「桜子ちゃん?」
名を呼ばれて咄嗟に振り返る。汚れた顔のまま四鬼さんと目が合う。
「し、四鬼さん、わたし、わたし」
不安と吐き気で心細くなっているわたしは四鬼さんを見たら涙が溢れてくる。
お父さんにしたように両手を広げ、すると四鬼さんも駆け寄ってきた。
「桜子ちゃん、大丈夫、大丈夫」
吐瀉物に構わず膝をつき、抱き締めてくれる。わたしは白い制服へ涙を押し付け、彼の背へ手を回す。こうして密着すると甘い香りがして安心する。
「桜子ちゃんは不思議だな。桜子ちゃんが泣いたり困ったりしてたら、僕は何としてでも助けたくなる」
抱擁が強くなるが苦しくない。もっときつく寄せてくれたら吐き気は和らぎ、不安も無くなりそうで。
ねだる風に頬を擦り寄せたところ、優しく髪を梳いてくれた。あぁ、これも気持ちがいい。
「君とは出逢ったばかりなのに……やっぱりそうなんだね。他とは全然違う」
「他?」
顔を上げ、四鬼さんを覗く。こんなに心地よいのに離れていってしまうのだろうか、だとしたら嫌だ。側に居て欲しい。
四鬼さんの袖を掴む。
「睨まないでよ! 桜子ちゃんが見付かったらもうしないから。こういう事やそれ以上も桜子ちゃんとだけしていきたい」
こういう事やそれ以上とは何か聞き返す前に、四鬼さんが頬へキスしてくる。わたしが呆気にとられていると反対側の頬へキス、おでこにキスを続けた。
「好きだよ桜子ちゃん。僕の約束された花嫁」
抱きしめ直して旋毛へもキス。
「さささささ桜子ー! これは一体どういうつもりなんだー!」
ちゅっ、この小気味良いリップ音は新たな混乱を招く。お父さんが殺気立ち飛び込んできたのだ。
再び広い病室に1人残されたわたしは手持ち無沙汰となり、テレビを付けてみた。
【ーー以前、犯人は逃走中であり、近隣住民らからは不安の声が上がっています】
ニュースでは通り魔事件を報じている。若い女性を狙った犯行が続き、今回の被害者は女子高生らしい。
わたしの家の強盗未遂といい、物騒だなと思いつつ、事件現場の映像が流れるとベッドを降りた。
【高橋由香里さんは下校中、何者かに背後から襲われました。高橋さんは近所のスーパーへ立ち寄っており、防犯カメラには買い物をする様子が残っています】
わたしも何度か訪れたことがあるスーパー、青果売り場でレモンを選ぶ高橋さんの姿が映る。ひとつひとつ手に取って選ぶ高橋さんは真剣でありながらも楽しそうだ。
【高橋さんは命に別条はないとの事ですが、高橋さんの通う高校では登下校を1人でしないよう注意喚起、職員を通学路に配備するなどし、部活動は当面禁止としました】
それから場面はモザイクをかけた葉月高校の生徒へ。インタビューに応じるみんなは事件の解決と高橋さんの回復を願う旨を口にする。
わたしからリモコンが滑り落ち、落下の衝撃で番組が変わった。お笑い芸人の笑い声が響き、その場へ座り込む。
「うっ、うぇぇぇっ」
処理しきれない情報量が込み上げ、吐き気をもよおす。高橋さんは涼くんにレモンのはちみつ漬けを作ろうとして通り魔に襲われたのだ。
高橋さんの物怖じしない勝ち気な顔、涼くんを好きだって言い切る性格、レモンを選ぶ仕草が頭の中でごちゃ混ぜとなる。
「うぇっっ」
床に手を付き、もどしてしまう。ほぼ空っぽであろう胃はそれでも収縮し吐き出そうとした。
「桜子ちゃん?」
名を呼ばれて咄嗟に振り返る。汚れた顔のまま四鬼さんと目が合う。
「し、四鬼さん、わたし、わたし」
不安と吐き気で心細くなっているわたしは四鬼さんを見たら涙が溢れてくる。
お父さんにしたように両手を広げ、すると四鬼さんも駆け寄ってきた。
「桜子ちゃん、大丈夫、大丈夫」
吐瀉物に構わず膝をつき、抱き締めてくれる。わたしは白い制服へ涙を押し付け、彼の背へ手を回す。こうして密着すると甘い香りがして安心する。
「桜子ちゃんは不思議だな。桜子ちゃんが泣いたり困ったりしてたら、僕は何としてでも助けたくなる」
抱擁が強くなるが苦しくない。もっときつく寄せてくれたら吐き気は和らぎ、不安も無くなりそうで。
ねだる風に頬を擦り寄せたところ、優しく髪を梳いてくれた。あぁ、これも気持ちがいい。
「君とは出逢ったばかりなのに……やっぱりそうなんだね。他とは全然違う」
「他?」
顔を上げ、四鬼さんを覗く。こんなに心地よいのに離れていってしまうのだろうか、だとしたら嫌だ。側に居て欲しい。
四鬼さんの袖を掴む。
「睨まないでよ! 桜子ちゃんが見付かったらもうしないから。こういう事やそれ以上も桜子ちゃんとだけしていきたい」
こういう事やそれ以上とは何か聞き返す前に、四鬼さんが頬へキスしてくる。わたしが呆気にとられていると反対側の頬へキス、おでこにキスを続けた。
「好きだよ桜子ちゃん。僕の約束された花嫁」
抱きしめ直して旋毛へもキス。
「さささささ桜子ー! これは一体どういうつもりなんだー!」
ちゅっ、この小気味良いリップ音は新たな混乱を招く。お父さんが殺気立ち飛び込んできたのだ。
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