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鬼の花婿

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 クレープをナイフとフォークを使って食べる四鬼さんが想像される。わたしも頻繁に買い食いする訳じゃないけれど、はしたないと思われてしまっただろうか。

「クレープを買って近くの公園で食べれば、ベンチがあります」

 クレープをかじりながらウィンドウショッピングするのが定番なものの、四鬼さんには世間体があるだろうし強要できない。

「あの、無理ならーー」

「無理じゃない。僕の周りの子はあのパティシエの創ったスイーツを食べてみたいとか、このカフェへ行きたいとか具体的に言ってくれるから分かりやすいんだけど、桜子ちゃんは遠慮するから何をしてあげればいいんだろう? 駅前のクレープ屋で本当にいいの?」

 つまりわたしは他の女の子に比べ、要望をはっきり伝えないと言われている。

「ごめんなさい、急な話なので何がしたいか言われてもすぐには思いつきません」

「謝らないで! そういうつもりで言ったんじゃなくて、新鮮だなぁと。デートしなれない感じがして初々しい」

「……へぇ、四鬼さんって色んな子とデートしてるんですね!」

 次の不満はとどめておけなかった。

「せっかくなら2人で楽しめる場所に行きたいです。わたしだけの意見を採用するんじゃなく、四鬼さんの要望を言うべきだと。
デートってそういうものじゃないんですか? デートなんてしたことないのでイメージですけど」

 四鬼さんは単純に感じたままを話すだけで、わたしを貶める意図などないと思いたい。

「桜子ちゃんはデートだと思ってくれるんだ?」

「え? それはまぁ」

「先生に言われて仕方なく付き合ってくれるとばかり。そっか、そうだよね、僕も楽しみたいな」

 どうしてここで嬉しそうにするんだろう。

「女の子が僕としたい事を言ってくれると楽でいい。それを叶えてあげれば喜んでくれるでしょ? 僕も彼女達が喜ぶのは嬉しいからさ。ただ、桜子ちゃんの言うよう本来デートは2人で楽しむものなんだ」

 うんうん、頷き納得している。金銭感覚だけじゃなくデートの意味合いまでわたし達はずれているみたいだ。

 四鬼さんは女の子をもてなし、いい気分にするのをデートと位置づける。良い意味でレディーファースト、悪い意味なら相手の要望だけ聞いてるだけで四鬼さん自身は受け身だ。

「四鬼さんは何がしたいですか?」

 四鬼さんは顎に手をおいて、真剣に考える。

「放課後、学校の近くにあるブティックで待ち合わせがしたい。待ち合わせもデートの醍醐味だよね?」

「ブティック? あの高そうな?」

「あの店なら学生は寄り付かないでしょ? 教室に迎えに行ってもいいけど騒ぎになって時間をロスするのは嫌なんだ」

 四鬼さんは決めたとなると頭の回転が早い。緻密なデートプランを脳内で組み立てている。

「ブティックに寄るなら桜子ちゃんに贈り物をしたいよね、でも男が服をプレゼントするのはそういう意味になるし今回は辞めておく。それじゃあ、放課後に。楽しみにしているよ」

 はかったかのように四鬼さんが踵を返すとチャイムが鳴って、各教室から生徒が出てきた。
 さっそく女子高生が四鬼さんを見付け駆け寄り、あっという間に囲まれてしまう。
 輪の中心の四鬼さんは笑っている。きゃあきゃあ言われ満更でもない風に見えるが、わたしに早く場を離れろと合図をくれた。もしかしなくとも、この為に行動したんだろう。

 その指先にはめられていた指輪がキラリと輝いていた。
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