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好きな鬼を選べばいい
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車は見慣れぬ建物の地下駐車場へ吸い込まれていく。人気がない空間に胸騒ぎがして、身構えた。
「ここは?」
バックで停めようと振り返る先生が意味深な笑みを浮かる。
「ラブホテルです。今の話を実践といきましょう。浅見さんも吸血以外の方法を知っておくべきだと思いましてね」
「ラブホテル!? な、なんでそんな所に?」
シートベルトを外そうとした手を掴まれた。
「これは社会勉強。鬼として生きていくのに必要な知識を教えてあげますよ」
吸血以外の方法とはーーキス、ハグ、それ以上の行為をさす。
「いや、教えてくれなくていいです。家に帰して下さい」
「おや? 私が相手ではご不満ですか? がっついたりしない分、楽だと思いますが?」
「そういう意味じゃなく、は、犯罪、そうだ犯罪です! わたしはまだ高校生ですよ!」
「確かに犯罪ですね。しかし四鬼家が揉み消してくれます。浅見さんの自宅を襲ったり、同級生を怪我させた犯人も一族が裏から手を回して処理されるでしょう」
犯罪であるのを告げても動じない。
「からかってるんですよね?」
「いいえ、本気です。冗談で保健医が学生をラブホテルへ連れ込みません」
「変な真似してきたら叫びますからね! 鬼姫を呼びますよ!」
「変な真似って。ふふ、鬼の作法をお伝えするだけじゃないですか」
運転席を降りてきて、隣へ乗り込む。慌てて端によれば窓ガラスで頭を打ち、先生の笑いを誘うだけ。
「それに鬼姫は眠っていらっしゃるのでは? お茶の副作用として眠気があります」
「うっ……」
先生の指摘する通り、助けを求めるも反応がない。
「わ、わたしに手を出したりすれば怒られません? えっと当主とかに? こんな事はやめましょう!」
「鬼姫は共同資産。こうした嫌われ役には私がうってつけです。さぁ、いい子だから降りなさい」
先生の物越しが命令形に変わった。お腹に響く低い声音だ。
「鬼姫は私達を服従させる香りを纏い、私達は鬼姫を誘う香りをさせる。健気な花が麗しき蝶を誘うように、ね?」
甘い、甘い香りがする。これは芳香剤じゃなく、先生から発せられる匂い。
窓もドアもロックされて開かなかった。はしたいが蹴り上げて距離を保とうとしたが、先生は難なく受け止め、それからなんとローファーへキスする。
「なっ、汚いですよ! やめて下さい」
「なんなら舐めますが?」
舌を覗かせ、ソールへ這わす真似をしてきた。
「な、舐めーー」
「鬼姫様の靴ならば喜んで舐めます。靴だけでなく、全身に忠誠の口付けを降らせましょう」
ぐっと片足を引っ張られバランスを崩す。スカートの乱れを咄嗟に気に掛けた隙きを狙われ、後部座席に押し倒された。
先生が覆い被さってくる。赤い瞳でわたしを見下ろすと、ごくり喉を鳴らした。
ーーあぁ、先生は飢えているのだろう。
そう読み取ると途端に不憫に思え、首筋へ寄せられる頭を撫でたくなった。血が欲しくて欲しくて堪らない、あの乾きを慰めてあげてもいい。
いや、やっぱり良くない。一瞬流されかけたのは香りの仕業か。飢えた苦しみに共感出来でも、だからといって先生とそういう事はしたくない。
「先生、わたしの腕を噛んで下さい」
先生に腕を押し付ける。ここなら噛まれてもいいと頷きを添えて。
「ここは?」
バックで停めようと振り返る先生が意味深な笑みを浮かる。
「ラブホテルです。今の話を実践といきましょう。浅見さんも吸血以外の方法を知っておくべきだと思いましてね」
「ラブホテル!? な、なんでそんな所に?」
シートベルトを外そうとした手を掴まれた。
「これは社会勉強。鬼として生きていくのに必要な知識を教えてあげますよ」
吸血以外の方法とはーーキス、ハグ、それ以上の行為をさす。
「いや、教えてくれなくていいです。家に帰して下さい」
「おや? 私が相手ではご不満ですか? がっついたりしない分、楽だと思いますが?」
「そういう意味じゃなく、は、犯罪、そうだ犯罪です! わたしはまだ高校生ですよ!」
「確かに犯罪ですね。しかし四鬼家が揉み消してくれます。浅見さんの自宅を襲ったり、同級生を怪我させた犯人も一族が裏から手を回して処理されるでしょう」
犯罪であるのを告げても動じない。
「からかってるんですよね?」
「いいえ、本気です。冗談で保健医が学生をラブホテルへ連れ込みません」
「変な真似してきたら叫びますからね! 鬼姫を呼びますよ!」
「変な真似って。ふふ、鬼の作法をお伝えするだけじゃないですか」
運転席を降りてきて、隣へ乗り込む。慌てて端によれば窓ガラスで頭を打ち、先生の笑いを誘うだけ。
「それに鬼姫は眠っていらっしゃるのでは? お茶の副作用として眠気があります」
「うっ……」
先生の指摘する通り、助けを求めるも反応がない。
「わ、わたしに手を出したりすれば怒られません? えっと当主とかに? こんな事はやめましょう!」
「鬼姫は共同資産。こうした嫌われ役には私がうってつけです。さぁ、いい子だから降りなさい」
先生の物越しが命令形に変わった。お腹に響く低い声音だ。
「鬼姫は私達を服従させる香りを纏い、私達は鬼姫を誘う香りをさせる。健気な花が麗しき蝶を誘うように、ね?」
甘い、甘い香りがする。これは芳香剤じゃなく、先生から発せられる匂い。
窓もドアもロックされて開かなかった。はしたいが蹴り上げて距離を保とうとしたが、先生は難なく受け止め、それからなんとローファーへキスする。
「なっ、汚いですよ! やめて下さい」
「なんなら舐めますが?」
舌を覗かせ、ソールへ這わす真似をしてきた。
「な、舐めーー」
「鬼姫様の靴ならば喜んで舐めます。靴だけでなく、全身に忠誠の口付けを降らせましょう」
ぐっと片足を引っ張られバランスを崩す。スカートの乱れを咄嗟に気に掛けた隙きを狙われ、後部座席に押し倒された。
先生が覆い被さってくる。赤い瞳でわたしを見下ろすと、ごくり喉を鳴らした。
ーーあぁ、先生は飢えているのだろう。
そう読み取ると途端に不憫に思え、首筋へ寄せられる頭を撫でたくなった。血が欲しくて欲しくて堪らない、あの乾きを慰めてあげてもいい。
いや、やっぱり良くない。一瞬流されかけたのは香りの仕業か。飢えた苦しみに共感出来でも、だからといって先生とそういう事はしたくない。
「先生、わたしの腕を噛んで下さい」
先生に腕を押し付ける。ここなら噛まれてもいいと頷きを添えて。
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