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浅見桜子

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 先生の話によれば浅見桜子は宿泊訓練に行っていて、お母さんもわたしが浅見桜子ではないと言った。
 では、ここに座っているわたしは誰なのだろう。

「お気を確かに。情報が錯綜してます。私は会議に行かなければなりませんので、千秋様、彼女を宜しくお願いしますね」

 手早く支度を整え、先生は保健室を出ていく。わたしを不安がらせる事も励ます事も言わない態度は冷静な対応だ。どちらの反応を示されても、わたしは取り乱してしまう。

「お祖母ちゃんの話をした時、四鬼さん達は何か気付いたみたいですけど?」

「気付いたというか……」

 四鬼さんの手を握り返す。

「教えて下さい」

 四鬼さんは先生が座っていた場所へ移動し、正面からわたしの顔を覗く。

「最初に言っておく、君は君だ。それは変わらない。絶対にだ」

 髪、耳、頬、わたしを形成するパーツを確かめるよう撫でてくる。心地良い手付きに目を閉じたら目蓋にも触れられ、涙が溜まった。
 これから告げられる真実をなんとなく察する。

「一族は鬼姫を長い間探してきた。多額の費用を使い、地位や立場を駆使して君を探していたんだ。でも、こちらからは見付けられなかったよね? それは何故かと君のルーツを調べさせて貰った」

「クレープを食べた時に話してくれた身辺調査ですか?」

「端的に言うとそうだね。気分が悪いよね? ごめん」

「謝らないで下さい。あの時も言いましたが当たり前の事なので」

「抱き締めていい?」

「え?」

 脈略のなさに目を開けた。

「まぁ、毎回断りもなく抱き締めているけどさ」

「なんで四鬼さんが震えてるんですか?」

「怖いから」

 即答する四鬼さん。

「昔話みたく、本当の君を知ったのがバレたら消えてしまうかもしれないでしょ? だから逃げられないよう捕まえておく」

 本当のわたし、という言い回しに胸が痛くなる。

「わたしは鶴じゃありません」

 昔話に例えられ、ふふっと笑う拍子に涙が溢れた。

「つまり、わたしーー鬼姫が浅見桜子に擬態していたので一族は見付けられなかったんですね?」

「鬼姫の擬態は周囲を巻き込んだ大掛かりなもので綻びが無かった。僕と君がバス停で出会ったのは鬼姫側の意思が働いたんじゃないかって」

「四鬼さんと初めて会った日、お祖母ちゃんの家に向かおうとしてました」

 わたしは四鬼さんの胸へ埋まる。

「調べた所、浅見桜子の祖母は既に亡くなっている。桜子ちゃんがお祖母様の話をしたからトリックに気が付いたよ」

「わたしが知っているお祖母ちゃんは?」

「鬼姫の思念みたいな存在かな。詳しい事は分からないけど、君たちは意思と身体が分裂していて、それがひとつになったことで掛けられていた魔法が解けた? みたいな」

「お母さんみたいに、みんながわたしを忘れてしまったの?」

「皆じゃない、僕は君を忘れてない。柊だって覚えているじゃないか? 大丈夫、君はここに居る。居てくれ!」

 浅見桜子として過ごした月日が偽りだとは思えなかった。実感がわかないのに、こんなにも心細い。
 わたしの居場所が崩れてしまったみたいだ。

 過保護なお父さんとしっかり者のお母さん、それから涼くんとの繋がりが鬼の力よる幻だなんてどうしても受け入れられず、声を上げて泣いた。
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