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浅見桜子

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 四鬼さんは続ける。

「大事にする、泣かせないようにする。ずっと側にいたい。だから僕を選んで欲しい」

「結婚って、わたし達まだ高校生で……」

 言葉尻が萎んでいく。真っ直ぐな態度に年齢や法律を持ち出しても通用しないし、無粋だ。
 心には心で答えたい、なんて四鬼さんの影響か。わたしも逃げずに臆さず、想ってみたい。
 その為にはーー。

「プロポーズを受けるなら、涼くんへの気持ちにきちんとケジメをつけたい。
四鬼さんは涼くんを想ったままでいいと言ってくれましたが、そういう訳にはいきません。気持ちの整理がつくまで返事は待ってくれますか?」

 わたし達は付き合って間もない、というか四鬼さんの優しさに頼るように交際を始めてしまった。結婚となれば彼に甘えてばかりじゃいけないはずだ。

 四鬼さんの抱えている物は大きい。四鬼家の事業を担い、ゆくゆく当主となる。それと並行して鬼を束ねる役割もこなさなければならない。

 結婚がどういうものか明確なイメージはわかないものの、四鬼さんの隣に立つ女性は共に歩き、彼を支える事が出来る者だと思う。

 四鬼さんの返事までに少し間があった。

「だ、駄目ですか?」

 やはり即決しないのは気分が良くないかな、上目遣いで伺う。と、四鬼さんは微笑みかけてくれる。

「駄目じゃない。桜子ちゃんが真剣に僕との事を考えてくれているのが分かって惚れ直した」

「またそうやって!」

「何度だって口説くよ。君が僕の奥さんになっても口説くと思う。照れて赤くなる桜子ちゃんが可愛いからね」

「……うっ、四鬼さん意地悪です」

「意地悪じゃない、愛でているだけさ」

 そんな風に言われたら照れたり、拗ねたりしにくい。

「あー、柊不在の保健室。目の前にはベッドと将来のお嫁さん。僕は今、理性を試されているみたいだよ!」

「あ、あの」

「ちょっとだけつまみ食いしてもいい?」

「え、えっと」

 雰囲気で何を求められているかは察せられた。

「キスするのは嫌?」

「嫌と言うわけじゃ、その、なんというか緊張してしまって」

「僕も」

 2人でベッドへ腰掛ける。甘い香りと声音に胸が高鳴る。そっと頬へ触れられ、四鬼さんを見上げた。
 初めてのキスに身体を硬くしない方が無理。ただでさえ整った顔立ちに見詰められると息を飲んでしまう。

「好きだよ、桜子ちゃん。大好き」

 真っ直ぐ欲しがってくれる。わたしでいいと言ってもくれた。こんなに大事にしてくれる相手はもう現れないだろう。

 ーー静かに目を閉じる。

 程なくして柔らかい感触が降ってきて、ファーストキスのはずなのにこの感じを知っている気がした。

 これが四鬼さんと結ばれるのが運命、縁という事かもしれない。




 四鬼さんが周囲の様子を見に、部屋を出ていった後、わたしはキスの余韻を巡らせていた。
 軽く触れただけの口付けなのに強烈なインパクトがあって、それはデジャヴみたいな。

 きっと頬は真っ赤なまま。大人しく身体を休めるなんて出来なくて、うろうろ歩き回る。
 そんな折、校庭から話し声が聞こえてきた。

「ここにしようぜ、日陰だし」

 サッカー部員と思われる生徒達が保健室の前へ座る。水分補給をしていることから休憩時間なのだろうか。

「早くレギュラーになってベンチで休憩してぇな」

「今年は新入部員もかなり入ったし、レギュラー争いが凄そうだ」
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