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浅見桜子
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話題に興味を引かれ、カーテン越しに様子を伺う。
「新入部員って言えば夏目涼、あいつ凄くない? 1年なのに次の試合にでるみたいだぞ」
やはり涼くんは注目されており、先輩等に早くも認識されている。涼くんが認めらるのは本人の頑張りがあってこそだが、わたしまで誇らしくなった。
「あ、その夏目だけどやばい」
「やばいって?」
「実は職員室を通り掛かった時、聞いちゃったんだけど1年って宿泊訓練中だろ? 事故があったみたいだぜ! で、なんと夏目が溺れたらしい」
「事故? うわぁ、マジかよ。うちの夏目が?」
「この休憩もコーチが職員室に呼ばれたかだろ?」
涼くんが事故に遭ったとは? 衝撃的な会話運びにわたしは勢いよく窓を開けた。
「な、な、なに? ってか、誰?」
「涼くんが溺れたって本当なんですか?」
面識のない後輩に詰め寄られて顔を見合わせ、答えないと乗り出してきそうな雰囲気に引いている。
「君、1年生? 夏目の知り合い?」
わたしの三角タイの色で判断、涼くんとの呼び名から関係性を導く。
「知り合いというかーー」
「あぁ、ファン? 夏目は人気があるかなぁ。君もその1人なんでしょ? 夏目が心配? 健気で可愛いね。それより宿泊訓練には参加してないの?」
「あはは、お前、ナンパかよ!」
2人は涼くんの件を深刻に受け止めておらず、ニヤニヤしながら立ち上がると窓辺に寄り掛かる。
「涼くんが事故に遭ったって本当ですか? 教えて下さい!」
「夏目の事は先生達がどうにかするって。なぁ、夏目より俺達と仲良くしようぜ?」
「しません!」
言い切ってムキになるわたしに先輩はつまらなそうな態度を取る。
「なんで、みんな夏目がいいんだろうな。サッカーだってモテたいからやってるだけだろ、あいつ」
「それは誤解です! 涼くんは公園で自主練習したり、家では海外の試合を観て勉強してます。サッカー関連雑誌もたくさん読んでます! ちゃんと努力してます! そういう言い方は止めて下さい!」
すると、もう1人の先輩が言う。
「確かに夏目は良い選手かもしれない。けど、ここ数日は明らかに練習に身が入ってなかった。気もそぞろって感じ。宿泊訓練で溺れたっていうのも有り得そう」
「有り得そうって言うより、あったんだってば。俺、聞いたもん。疑うなら職員室へ行ってみればーー」
みなまで語らせず、わたしは踵を返していた。自分で確認した方が早そう。
保健室を飛び出すと前方から柊先生が歩いてきて、誰かの介助している。その女性を認識した瞬間、唇が震えた。
涼くんのおばさんだったのだ。
「お、おばさーー」
駆け寄ろうとしたら先生に無言で制される。
おばさんは青白い顔を上げ、わたしを見たが特に反応がない。その事実に足が固まった。
「夏目さん、中へどうぞ。あぁ、あなたもまだ休んでいなさい」
先生はわたしを浅見桜子と呼ばず、室内へ戻そうとする。サッカー部の先輩等がまだ居るかもしれない、わたしはおばさんより先に部屋に入ったが既に気配がなくなっていた。
「夏目さん!」
先生の声で振り向けばおばさんが座り込んで、気分が優れない様子。ふらつきつつ、なんとか椅子に座り直すと額を拭う。
こうしておばさんが学校に呼び出されているという事はーー宿泊訓練先で涼くんにトラブルがあったとみて間違いない。
おばさんに声を掛けたい。でも先ほどわたしを見ても知らない人を見る風だったので、どんな言葉を掛ければいいのだろう。
「あの子は?」
おばさんは視線に気付き、先生に訊ねる。
「……夏目君と同じクラスの生徒です。体調不良で宿泊訓練には参加できなかったんですよ」
「そうなんですか。休んでいた所、お騒がせしてごめんなさいね」
力ない笑顔を向けられ、わたしは首を横に振った。おばさんはわたしを忘れていて悲しいーー悲しいが、おばさんの方がもっと辛くて不安なはずだ。
「涼くんに何かあったんですか?」
直球で聞くと、おばさんの瞳がみるみる潤む。すかさず先生はフォローを入れた。
「新入部員って言えば夏目涼、あいつ凄くない? 1年なのに次の試合にでるみたいだぞ」
やはり涼くんは注目されており、先輩等に早くも認識されている。涼くんが認めらるのは本人の頑張りがあってこそだが、わたしまで誇らしくなった。
「あ、その夏目だけどやばい」
「やばいって?」
「実は職員室を通り掛かった時、聞いちゃったんだけど1年って宿泊訓練中だろ? 事故があったみたいだぜ! で、なんと夏目が溺れたらしい」
「事故? うわぁ、マジかよ。うちの夏目が?」
「この休憩もコーチが職員室に呼ばれたかだろ?」
涼くんが事故に遭ったとは? 衝撃的な会話運びにわたしは勢いよく窓を開けた。
「な、な、なに? ってか、誰?」
「涼くんが溺れたって本当なんですか?」
面識のない後輩に詰め寄られて顔を見合わせ、答えないと乗り出してきそうな雰囲気に引いている。
「君、1年生? 夏目の知り合い?」
わたしの三角タイの色で判断、涼くんとの呼び名から関係性を導く。
「知り合いというかーー」
「あぁ、ファン? 夏目は人気があるかなぁ。君もその1人なんでしょ? 夏目が心配? 健気で可愛いね。それより宿泊訓練には参加してないの?」
「あはは、お前、ナンパかよ!」
2人は涼くんの件を深刻に受け止めておらず、ニヤニヤしながら立ち上がると窓辺に寄り掛かる。
「涼くんが事故に遭ったって本当ですか? 教えて下さい!」
「夏目の事は先生達がどうにかするって。なぁ、夏目より俺達と仲良くしようぜ?」
「しません!」
言い切ってムキになるわたしに先輩はつまらなそうな態度を取る。
「なんで、みんな夏目がいいんだろうな。サッカーだってモテたいからやってるだけだろ、あいつ」
「それは誤解です! 涼くんは公園で自主練習したり、家では海外の試合を観て勉強してます。サッカー関連雑誌もたくさん読んでます! ちゃんと努力してます! そういう言い方は止めて下さい!」
すると、もう1人の先輩が言う。
「確かに夏目は良い選手かもしれない。けど、ここ数日は明らかに練習に身が入ってなかった。気もそぞろって感じ。宿泊訓練で溺れたっていうのも有り得そう」
「有り得そうって言うより、あったんだってば。俺、聞いたもん。疑うなら職員室へ行ってみればーー」
みなまで語らせず、わたしは踵を返していた。自分で確認した方が早そう。
保健室を飛び出すと前方から柊先生が歩いてきて、誰かの介助している。その女性を認識した瞬間、唇が震えた。
涼くんのおばさんだったのだ。
「お、おばさーー」
駆け寄ろうとしたら先生に無言で制される。
おばさんは青白い顔を上げ、わたしを見たが特に反応がない。その事実に足が固まった。
「夏目さん、中へどうぞ。あぁ、あなたもまだ休んでいなさい」
先生はわたしを浅見桜子と呼ばず、室内へ戻そうとする。サッカー部の先輩等がまだ居るかもしれない、わたしはおばさんより先に部屋に入ったが既に気配がなくなっていた。
「夏目さん!」
先生の声で振り向けばおばさんが座り込んで、気分が優れない様子。ふらつきつつ、なんとか椅子に座り直すと額を拭う。
こうしておばさんが学校に呼び出されているという事はーー宿泊訓練先で涼くんにトラブルがあったとみて間違いない。
おばさんに声を掛けたい。でも先ほどわたしを見ても知らない人を見る風だったので、どんな言葉を掛ければいいのだろう。
「あの子は?」
おばさんは視線に気付き、先生に訊ねる。
「……夏目君と同じクラスの生徒です。体調不良で宿泊訓練には参加できなかったんですよ」
「そうなんですか。休んでいた所、お騒がせしてごめんなさいね」
力ない笑顔を向けられ、わたしは首を横に振った。おばさんはわたしを忘れていて悲しいーー悲しいが、おばさんの方がもっと辛くて不安なはずだ。
「涼くんに何かあったんですか?」
直球で聞くと、おばさんの瞳がみるみる潤む。すかさず先生はフォローを入れた。
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