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わたしの気持ち

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「こらこら、あなたはベッドで休んで居て下さい」

 おばさんとの話に割り込むなと釘をさしつつ、ベッドで聞いていなさいと言う。涼くんの件を間接的に教える計画だろうか。

 先輩等から聞いた話を持ち出せば話の流れもスムーズになるが、おばさんの憔悴した姿を前にすると言い出しにくい。と言って見過ごせないし、涼くんの身に起きた事を知りたかった。
 指示に従わず、おばさんをじっと見詰める。

「あなた、涼と仲がいいの?」

 おばさんの目にわたしは他人として映り込む。

「彼は覚えていないかもしれないけれど、色々助けて貰いました」

「涼が? いつも自分の事で精一杯そうなのに人助けなんて出来るのね、あの子」

「ぶっきらぼうで言葉足らずな部分がありますが、真っ直ぐで、思い遣りがあって……」

 おばさんに似ていますと言外に込める。
 伝えるうち、わたしまで泣きそうになって、涼くんは無事なのだろうか、今どうしているのだろう。

「わたしは涼くんの思い遣りに気付いていたくせ、ありがとうと言わなかった。不器用なのは涼くんじゃなく、わたしでした」

 わたしさえ素直になれていたなら、こんな目に遭わせなかったかもしれない。涼くんの手を上手に離せたはずなのに鬼の執着心で離せなかった。
 ううん、鬼の性のせいにしていたんだ。

「涼を大切に想ってくれてるのね。ありがとう」

 おばさんがわたしを抱き締めてくれる。

「お礼を言わなくちゃいけないのはわたし、それとごめんなさい」

「なんで謝るの? 涼が溺れたのはあなたのせいじゃない。絶対目を覚ますわ。こんなに可愛い子を置いていったりしない」

 どうやら涼くんは溺れて意識が戻らないみたい。ますます目の前が真っ暗になる。
 おばさんの腕にすがり、わたしは涙を零す。

「夏目君は沖縄の病院で処置を受けてます。この後、お母様を病院へお連れする手筈を現在整えていますので」

 先生が状況を補足。けれど心配は要らない、とは加えなかった。

「わ、わたしも一緒にーー」

「あなたはここに残って下さい。部外者ですので連れてはいけませんよ」 

 同行を願い出ると読み切っていたのか、ばっさり却下されてしまう。

「そうね。部外者云々より、具合が良くないんでしょう?」

 おばさんも同意し、言葉を続ける。

「涼にはあなたの事を伝える。こんなにも心配してくれる子がいるんだって。それで、あなたのお名前を教えてくれるかな?」

 質問にドキリとした。おばさんは泣き出すわたしを慰めている間に少し顔色が良くなり、気力を振り絞っているようだ。

「わ、わたしは……」

 ここで浅見桜子と名乗るのは気が引けてしまう。わたしは偽物、本物の浅見桜子は宿泊訓練へ参加している。

「ん?」

 言い淀むわたしに傾げる。

「……さ、桜子です」

 それでも桜子と名乗る他なく、理由は桜子という名前が好きだから。おばさんがわたしを忘れてしまっても、桜子と呼ばれたかった。

「桜子ちゃん?」

「……はい」

「素敵な名前ね」

 てっきり本物の桜子と比べられると思ったが、おばさんはしなかった。それどころか、こう告げる。

「桜子ちゃん、あなたにとっても似合ってる名前だわ」
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