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わたしの気持ち
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「当主に?」
「鬼姫は一族の姫。当主だって使いっ走りにしても許されるわ」
「いや、そういうのは利用するみたいで」
「ふーん、いい子ぶるんだ。千秋とやっていこうとする鬼姫の覚悟ってその程度?」
睨まれ、ぐっと唇を噛む。いい子ぶる訳じゃないが、覚悟の足らなさを指摘されれば言い返せない。
「アタシはあなたが羨ましい。鬼というだけで千秋の側に居られるんだもの。アタシがどんなに努力しても千秋は振り向いてくれなかった。今だって千秋を誰より想ってる自信があるし、彼を幸せにしたい気持ちは強いわ!」
一方、美雪さんもわたしを前に泣かまいと歯を食いしばった。
「でも千秋があなたを幸せにしたい、あなたに幸せにして貰いたいって願う以上、アタシには何もしてあげられないの」
「美雪さん……」
「よして頂戴、同情ならごめんだわ! アナタだけには可哀想だと言われたくない!」
美雪さんは気高かった。決して背を丸めたりせず、人差し指を立てて言い放つ。
「当主に沖縄に連れて行って貰いなさい。ケジメとやらをきちんと付けたら千秋を笑顔にさせて。千秋を大事にしてあげて。そうじゃなきゃ、あなたを恨む。一生かけて恨んでやるんだから!」
わたしは嫌われており、もっと責められ、なじられたりすると思い込んでいた。しかし美雪さんはさっそく当主と連絡をつけてくれ、背中を押す。
「当主が沖縄にプライベートジェットを飛ばしてくれるそうよ」
「プライベートジェット!? あ、ありがとうございます」
「お礼なんていいの、これは【アタシの為】にやってるんだし」
四鬼さんを想って行動する美雪さんに、今すぐとはいかなくとも、時間をかけてでも認められたいと感じた。欲を言うなら友人になれたらいい。
これから新しい人間関係を築いていこうと前向きな気持ちが芽生える。
そんな安直な考えを巡らせる中、まさか美雪さんの意識が薬棚へ向けられていようとはーー。
浅はかなわたしは気付けなかったんだ。
■
「まさか姫におねだりされるとは嬉しいよ」
ものの数時間後、わたしは沖縄の地に到着していた。
「お仕事なのにすいません」
「構わないよ。私はこれから商談に向かうが姫は病院へ行きなさい、車は用意してある」
国内外問わず飛び回る当主。今回は沖縄に用事があったところ、美雪さんの計らいで同行できる。渡りに船がかない、結果的に柊先生やおばさんよりも先に涼くんと会えそうだ。
「お見舞いが済んだら食事でもどうかな?」
「わ、わたしとですか?」
「姫以外に誰が居るの?」
当主には仕事関係者が数人付き添っているが、彼等と食事をする気はないらしい。機内でも会話という会話はしていなかったように見えた。
「おねだりを聞き入れたご褒美は頂きたいものだね」
そう言われてしまうと断れない。すると当主は沈黙を了承と受け取り、にっこり微笑んだ。
わたしはどうもこの笑顔が苦手で、上手く返せない。
「帰りの車も手配しておく。あぁ、今夜は美味しい酒が飲めそうだ」
付き添いの1人が当主を呼び止めようとしたらさっと話を打ち切り、浮かべた笑顔も回収。
美味しいお酒が飲めるというのは商談の成功を確信してなのか、それともーー考えかけ、ぶるっと震えた。
とにかく今は涼くんの元へ駆け付けたい。
「あぁ、そうだ、そうだ」
当主は車に乗り込む間際、思い付いた声をわざとらしく出す。わたしを姫と呼んだり、いちいち芝居がかった振る舞いに嫌悪感を抱くも堪える。
「なんでしょうか?」
「夏目君、良くなるといいね」
取って付けたにも程がある言葉を真顔で添えた。
当主は涼くんの生死に微塵も興味がなく、単にわたしのご機嫌を取りたいだけなのだろう。それが堪らなく不快で気味が悪い。
沖縄のカラッとした空気に当主が発する湿度が絡む。わたしは無言のまま頭を下げ、当主の乗せた車の発進を急かす。
そして車が見えなくなると空へ息を吐き出した。
「鬼姫は一族の姫。当主だって使いっ走りにしても許されるわ」
「いや、そういうのは利用するみたいで」
「ふーん、いい子ぶるんだ。千秋とやっていこうとする鬼姫の覚悟ってその程度?」
睨まれ、ぐっと唇を噛む。いい子ぶる訳じゃないが、覚悟の足らなさを指摘されれば言い返せない。
「アタシはあなたが羨ましい。鬼というだけで千秋の側に居られるんだもの。アタシがどんなに努力しても千秋は振り向いてくれなかった。今だって千秋を誰より想ってる自信があるし、彼を幸せにしたい気持ちは強いわ!」
一方、美雪さんもわたしを前に泣かまいと歯を食いしばった。
「でも千秋があなたを幸せにしたい、あなたに幸せにして貰いたいって願う以上、アタシには何もしてあげられないの」
「美雪さん……」
「よして頂戴、同情ならごめんだわ! アナタだけには可哀想だと言われたくない!」
美雪さんは気高かった。決して背を丸めたりせず、人差し指を立てて言い放つ。
「当主に沖縄に連れて行って貰いなさい。ケジメとやらをきちんと付けたら千秋を笑顔にさせて。千秋を大事にしてあげて。そうじゃなきゃ、あなたを恨む。一生かけて恨んでやるんだから!」
わたしは嫌われており、もっと責められ、なじられたりすると思い込んでいた。しかし美雪さんはさっそく当主と連絡をつけてくれ、背中を押す。
「当主が沖縄にプライベートジェットを飛ばしてくれるそうよ」
「プライベートジェット!? あ、ありがとうございます」
「お礼なんていいの、これは【アタシの為】にやってるんだし」
四鬼さんを想って行動する美雪さんに、今すぐとはいかなくとも、時間をかけてでも認められたいと感じた。欲を言うなら友人になれたらいい。
これから新しい人間関係を築いていこうと前向きな気持ちが芽生える。
そんな安直な考えを巡らせる中、まさか美雪さんの意識が薬棚へ向けられていようとはーー。
浅はかなわたしは気付けなかったんだ。
■
「まさか姫におねだりされるとは嬉しいよ」
ものの数時間後、わたしは沖縄の地に到着していた。
「お仕事なのにすいません」
「構わないよ。私はこれから商談に向かうが姫は病院へ行きなさい、車は用意してある」
国内外問わず飛び回る当主。今回は沖縄に用事があったところ、美雪さんの計らいで同行できる。渡りに船がかない、結果的に柊先生やおばさんよりも先に涼くんと会えそうだ。
「お見舞いが済んだら食事でもどうかな?」
「わ、わたしとですか?」
「姫以外に誰が居るの?」
当主には仕事関係者が数人付き添っているが、彼等と食事をする気はないらしい。機内でも会話という会話はしていなかったように見えた。
「おねだりを聞き入れたご褒美は頂きたいものだね」
そう言われてしまうと断れない。すると当主は沈黙を了承と受け取り、にっこり微笑んだ。
わたしはどうもこの笑顔が苦手で、上手く返せない。
「帰りの車も手配しておく。あぁ、今夜は美味しい酒が飲めそうだ」
付き添いの1人が当主を呼び止めようとしたらさっと話を打ち切り、浮かべた笑顔も回収。
美味しいお酒が飲めるというのは商談の成功を確信してなのか、それともーー考えかけ、ぶるっと震えた。
とにかく今は涼くんの元へ駆け付けたい。
「あぁ、そうだ、そうだ」
当主は車に乗り込む間際、思い付いた声をわざとらしく出す。わたしを姫と呼んだり、いちいち芝居がかった振る舞いに嫌悪感を抱くも堪える。
「なんでしょうか?」
「夏目君、良くなるといいね」
取って付けたにも程がある言葉を真顔で添えた。
当主は涼くんの生死に微塵も興味がなく、単にわたしのご機嫌を取りたいだけなのだろう。それが堪らなく不快で気味が悪い。
沖縄のカラッとした空気に当主が発する湿度が絡む。わたしは無言のまま頭を下げ、当主の乗せた車の発進を急かす。
そして車が見えなくなると空へ息を吐き出した。
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