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わたしの気持ち

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 涼くんが入院している病院は空港から20分程度の場所にあり、四鬼家サイドから連絡が入った為か医院長自らが対応してくれた。

 ただ詳しい容態はおばさんでないと話せないらしい。わたしが彼のベッドへ駆け寄ると医院長は出ていき、2人きりにしてくれる。

「涼くん」

 静かな病室。まるで童話のお姫様みたく彼は静かに横たわり、規則的な呼吸を繰り返す。一見、穏やかに眠っている。

「涼くんってば」

 呼びかけに反応してくれない。代わりに繋がれた医療器具が電子音で心拍数などを伝えてきた。

「海で溺れるなんて、らしくないよ。わたしに血をあげた後だったから貧血を起こしたの? そうなんでしょう?」

 いつも噛んでいた腕に触れれば温かい。わたしは膝を下り、そこへ頬を寄せて泣いた。

「ごめん、ごめんなさい涼くん」

 神様お願いします、早く涼くんが目を覚ましますように。
 願いを込め手を握ると身体の奥が熱くなってきた。

「お願い、涼くんを奪わないで」

 わいてくる熱を涼くんへ移す。頭の中がぐらぐらしたが構わない。更にギュッと手を握る。

「目を開けて、涼くん」

 この感覚、目が赤くなっているだろう。鬼の性て振り回してきた分、鬼の力で挽回できるのならしたい。

 ーーお願い!

 涙と熱さで歪む視界の隅で涼くんの睫毛が震えた。

「涼くん! 涼くん?」

 上半身を上げ、顔を覗き込む。こころなしか血色が良くなっている気がする。このまま熱を移していけば回復するかもしれない。
 熱を移すという行為は活力を与える事なんだと鬼の本能で悟った。

「ーーっ、ない」

 自分の奥底から活力を取り出そうとした時、涼くんがなにやら苦しそうな声を出す。

「ーーない、たくない」

 睫毛を震わすだけで目は開かない。看護師さんを呼ぼうとすると、うなされた顔で言わる。

「鬼にはなりたくない」

「……」

「鬼に、なりたくない」

 わたしの力を注がれた拒否反応だろうか。涼くんが繰り返す。

「うん、分かってる。涼くんを鬼にはしない。気持ち悪いだろうけど、もう少し我慢して」

 汗ばむ涼くんの前髪を撫でて訴えてみる。
 鬼姫となっなわたしは活力を与えた程度では鬼化しないと断言できた。涼くんから血を摂取しなければいいのだ。涼くんの血を飲まなければいい、たったそれだけの事。

「わたしね、なんで浅見桜子に擬態したか、その辺りの記憶がまだ戻らないんだけど、浅見桜子で良かったって思う。涼くんの側にいられたから今があるの」

 乱れていた涼くんの呼吸がゆっくり整っていく。

「こういう時、わたしは毎回ごめんねって言って後ろめたさを誤魔化してたよね? 今日は最後だから、ごめんねは言わない。ありがとうって言う。ありがとう、涼くん」

 頬や鼻筋をなぞりながら、わたしの力を捧げていった。活力が空っぽになって飢えても構わない。

「わたし、涼くんの幸せをずっと願ってる。サッカー選手になって活躍してね、応援してるから」

 どうか目を覚まして。
 わたしは腰を浮かせ、涼くんの唇に吸い寄せられた。

 短く口付け、額と額を合わせる。

「……き、好き。あなたが好き。本当は血なんて関係ない、側にいたかったよ」

 だけど、さようなら。
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