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わたしの気持ち

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 貧血で猛烈な眩みを覚える最中、当主との夕食が始まった。四鬼家が運営に関わるホテルの最上階、贅を尽くした空間でグラスを合わせる。

「乾杯。さぁ、遠慮せず召し上がれ」

「あ、ありがとうございます」

 以前の事があるので、飲み物には口をつけるだけ。

「先程、病院から連絡が入ってね、夏目君の意識が戻ったそうだ。やはり鬼姫の力は素晴らしい」

 この顔色を見れば活力を涼くんに注いだと判断するだろう。わたしもわたしで彼の回復を確信してから病室を後にした。
 それでも意識が戻ったと聞くとホッとはする。

「まぁ当主の立場としては一族以外の者に慈悲は掛けないで頂きたいが、これまで姫の食料として勤めた報酬としておく」

「わたしは涼くんを食料だなんて考えていません」

「考えていなくとも、事実を述べたまでだ。対価には報酬が必要だよ、姫」

 当主はグラスを回し、ワイン越しに微笑むと報酬を求めた。

「涼くんが無事ならわたしはそれだけでいいです。沖縄に連れてきて下さり、ありがとうございました」

 棒読みのお礼に当主が頷く。

「これからどうするつもりなんだい?」

「これから?」

「衣食住、それから学校は?」

 手付かずの前菜が下げられ、温かなスープが運ばれてきた。

「私は姫を養女として迎え入れたい。四鬼桜子として鬼月学園へ通ってみてはどうかな? 私の娘となれば生活基盤は整う。不便はしないはずだ」

「……娘」

「無論、私の妻として迎え入れるのもやぶさかでない。端的に言ってしまえば鬼姫を懐に入れられればいい」

「つ、妻はちょっとーー」

 当主は洗練された所作でスープを口にする。
 鬼にとって吸血や異性との交流の方が栄養価が高く、美味しい。当主から味の感想は出てこなかった。
 ひたすらパフォーマンスみたく咀嚼して、鬼だからと言われてしまえばそうだが人間味を感じられない。

「姫にはあまり迷っている時間はないんじゃないか?」

 紙ナプキンで拭い、次の皿を促す当主。含みを持たせた言い回しでフィッシュナイフを手に取った。

「千秋や柊に相談しようとしても無駄だよ。彼等は今、それどころじゃないだろう」

「どういう意味ですか?」

「あぁ、とある少女が鬼になろうとしてね。少女は千秋に執心で、柊が研究した鬼になる薬を飲んでしまったそうだ」

「え……」

「柊は少女の元へとんぼ返り、千秋も少女につきっきり。つまり、ここには私と姫しかいない。そういう意味だ」

「美雪さんが? そんな……」

「ほら、姫も無理してでも食べておいた方がいい。そろそろ夏目涼に血を与えた反動が大きく出てくるぞ。その際は私の血を飲めばいいが、デザートを食べてからにして欲しいな」

「待って下さい、話が見えなくて」

 反動を指摘された側から、ぐにゃりと視界が歪む。

「話が見えない? よくよく振り返ってみなさい。何故、柊の妹ごときが私に連絡をつけられたのか? 柊が薬を隠すとすれば保健室しかないと教えたのは誰か分からない?」
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