約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

八千古嶋コノチカ

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桜と未来

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「……涼くんは大人になったよね。わたしも早く大人になりたいな」

「大人にはなりたいなら、いつでもしてやるけど?」

 ふわりと甘い香りが漂い、はっとした。

「わたし、そんな意味で言ってないし!」

「俺さ、鬼のスキンシップの取り方だけは気に入ってる。桜子が俺不足にならないよう注意しないとな?」

 額同士をこつんとぶつけ、後ろ髪を撫でられる。条件反射でこの甘やかす手付きには瞳を閉じてしまう。

「あ、キスされると思った?」

「も、もう!」

「するけどな」

「んっ」

 またこんな場所でーー文句を言いそうになったけれど、触れる唇が心地良くて。
 きっと涼くんとのキスは何度しても甘く、ドキドキし続けるだろう。

「なぁ、桜子」

 掠れた声で呼ばれ、火照る。つむった目蓋にリップ音を落とされるのでゆっくり開けてみた。
 あぁ、涼くんはわたしを大事そうに見詰めてくれている。うっとりと見上げ返す。

「何? 涼くん」

「……あれ」

 指差す方向を追えば、涼くんのおばさん、お父さんとお母さん、それから浅見桜子さんが様子を伺っていた。

「実は母さんにお前を紹介するって言ったら、みんなも会いたがって。俺がどんな彼女を連れてくるか面白がってるんだと思う。いきなりキスシーン見せられたら驚くよな」

「ち、ち、ちょっと! また知っていてキスしたの!?」

「そういう雰囲気だったじゃねぇか」

 涼くんは悪びれず、自宅まで走り出す。わたしもつられて後を追い掛け、気付けば4人の正面まで移動していた。

「あなたが四鬼桜子さん? 保健室で会ったわよね?」

 キスの件は一旦スルーするのか、見なかった事にするのか。まず涼くんのおばさんが反応する。

「え、あ、はい、四鬼桜子です」

 わたしは曲がったリボンを直したり、ただちに姿勢を正す。

「あれ? あなた、葉月高校の制服を着てなかったかしら?」

「あぁ、あの時は俺が事故に遭ったのを心配して、学校に来たんだよな? 葉月高校の友達に制服を借りたんだっけ?」

「う、うん」

 ボロを出すより早くフォローが入り、辻褄は一応合う。

「そうなの! あなたみたいな可愛い子が涼の彼女なのね! 嬉しい! 保健室で会った時からあなたが気になっていたのよ!」

 おばさんがその場でぴょんぴょん跳ね、歓迎してくれる。

「おばさんね、浅見さんの家の桜子ちゃんをみていて、娘が欲しいなぁと思っていたの。そうしたら同じ名前のあなたが来てくれるなんて!ーーねぇ浅見さん、うちの桜子ちゃんよ」

 喜びつつ、わたしを浅見家へ紹介した。

「四鬼さんというと、あの四鬼グループの?」

「ご令嬢じゃない!」

 想定していた通り、お父さんとお母さんに初見の対応をされてしまう。なるべく悲しみを顔に出さず頷いた。すると浅見桜子さんがぐいっと会話に乗り出す。

「涼君の彼女、実在したんだ? 話には聞いていたけど。なんかお姫様みたい」

 浅見桜子さんはわたしと服の趣向が違い、ボーイッシュな印象を受ける。話し方もはきはきして、明るい性格そうだ。

「お、お姫様って」

 距離感をつめつ覗き込まれると同性相手であっても緊張する。
 身だしなみ程度にリップは塗ってきたものの、キスで落とされている可能性がある。何処かおかしい箇所はないだろうか。鏡を見て整え直したい。

 そこへお父さんの曇りなき眼が輝いた。

「あぁ、確かにお姫様みたいだな。桜子という名前にはお姫様という意味があるのかもしれないな。うちの桜子もお姫様みたく愛らしいが、四鬼さんの桜子さんも可愛らしい」

 突如納得して、わたしと浅見桜子さんを交互に可愛いと褒め始める。

「ごめん、うちの父親、親バカなんだ」

 補足する浅見桜子さんはお父さんの1面を否定しなかった。愛情表現として受け入れているみたいだ。わたしも擽ったいが嬉しい。

「素敵なお父様ね」

 思ったまま伝えれば2人で笑顔になれた。
 浅見桜子さんの屈託のない笑顔はわたしを癒やす効果があり、身構えた緊張を解く。

「不思議ね。名前の影響なのか、四鬼さんに親近感がわくわ。昔から知っているような感じ」

 お母さんは頬に手を添え、傾げる。思い出してくれそうで記憶がすり抜けていく。

「そうなのよ! 私も初めて桜子ちゃんに会った時、不思議な気持ちになったの!」

 涼くんのおばさんも同意する為、断ち切られなかった絆に感動して涙が出てきそう。
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