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【ソルベ村】村に人が集まってきた

レジスタンス決起集会

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「そろそろ起きろ、皆の者! 村人達はもう起き出してるぞ!」

 朝日がぼんやりと山間から顔を覗かせてる時刻。
 ネタキリーの怒号が第四騎士団の仮住まいに轟いた。

 副官達もまだ寝静まってる頃合い。
 普段ならもう少し寝ていられているというのに、村人に合わせて起きるというのはいかがなものかと団員はどこか不満気である。

 なまじ拠点を提供されたのもあり、何処か普段の演習より気が緩んでいるように思うのは気のせいではあるまい。

「おはようございます、団長」
「おはよう、ロイ。今日の演習項目はどうなっている?」
「早朝の体操にジョギング、昼に向けて野営の準備、食べられる山菜やキノコ類の見分け方講座、畑の手伝いからの昼食です」
「それで良い。本格的な演習は午後からだ。それまでは全力を出さず、村人に対して余裕を見せておくように。あまりへたれているところを見せるのは騎士団のマイナスイメージを持たれかねん」

 この村で強さをアピールする必要はないのでは?
 ロイはネタキリーにそんな眼差しを向ける。

「演習だからと気を抜いて良い理由になるものか」
「妹さんに下手な格好を見せられないからですか?」
「い、妹は関係ない!」

 格好をつけるネタキリーだったが、図星のようだ。
 ロイは別行動をしていたアトハから、この村に団長の妹が在籍している話を耳にし、裏取りを全て完了させていた。

 その中で浮き上がる謎の人物。
 ポンホウチ=ヨウイチなる青年だ。
 村の中心人物としてそれなりの尊敬を集めてると噂だ。
 謎が多いとしてアトハに要注意人物として挙げられていた。

「そういえば団長、彼は何者なのです?」
「ああ、ヨウイチ殿か」

 聞き慣れぬ名前だとロイは警戒を強める。
 貴族ではない、東方の太陽神を祀る国の者だろうか?

「ヨウイチ殿がどうした?」
「妹さんが随分と懐かれてるご様子でしたので」
「ああ、その事か」

 ネタキリーは遠い目をした。
 そして馴れ初めを語りだす。

 発端は妹の病気。
 最初こそ庇ってくれた故郷の人達も、異端審問官には逆らえず、キアラを差し出すように動き始めた。
 仲の良かった兄妹によってこの村に送られたという話をした。

 概ね裏取りしてもらった通りだ。
 だがそこから先がまた違った。

「弟子、ですか?」
「名目上はな。あの子達がヨウイチ殿を慕っているのは誰の目にも明らか。だがそれ以上踏み込むことをよしとしないのだよ、あの人は。探してる仲間がいると言っていた。フジモト=ヨウ。この名に聞き覚えは?」
「あるわけないではありませんか」
「そりゃそうか。耳にしてるなら、もっと目撃情報が出てる筈だ。何せその人物は……」

 妹と同じという話だからな。

 ネタキリーの話に「もしかしたらもう秘密裏に処理されてしまったのでは?」という憶測がロイの脳裏に舞い込んだ。

 しかしネタキリーはそんな予想すら鼻で笑って見せる。

「だが、同時に稀代の魔術師という話だ。ヨウイチ殿をして心配してないとのことだ。貴族でもないのに魔法を扱う人物。話題になってもおかしくはあるまい」
「彼も凄腕なのですか? 一見してそうは見えませんが……」

 部下の指摘に、ネタキリーは苦笑する他なかった。
 確かに一見して強そうに見えない。
 かつてその見た目から勝負を挑んだネタキリーは後から洋一の経歴を聞いて恐怖したのを覚えている。

「あれは龍ですら捕獲して料理してしまう男だ。絶対に敵対するな。騎士としての誇りなど、あの人の前ではなんの意味も持たない。勇敢と蛮勇を履き違えるな、死ぬぞ?」
「それ程ですか?」
「ああ、なんせ彼は……」

 神話級ミソロジーすら単独で屠り、なんてこともないように語る男だ。なんなら食材としてもう少し欲しかったと余裕を見せている。
 その意味がわかるか? ネタキリーは眼力だけでロイを諌めた。

 その言葉を聞いて、ロイは愕然とする。

「知り合いに聖女候補が居るが、彼女をして勇者と讃える。そんな存在に刃を向けるなど、我々にはできん」
「そんな存在、在野に捨て置いていい訳がありません! 是非国に誘致して、それなりの身分を与えれ……」
「そこから先は言うな」
「……っ、ハイ」

 部下がここまで愚かな思い違いをするなんて。
 居た堪れない気持ちになりながら、ネタキリーは部下へ再度釘を刺す。

「彼の髪色を、王族や教会、貴族達はどう捉えると思う? ロイ二級騎士、お前の率直な意見を聞きたい」

 想像するまでもない。
 力があろうがなかろうが、糾弾されるだろう。
 何せそれは教会の禁忌に触れるからだ。

 ロイの意見を聞くまでもなく、そう言う事だとネタキリーは話を打ち切った。

「彼の存在はこの村になくてはならぬものだが、だからと言ってこの場にとどめて置けるほどの強制力はない。突然どこかにふらりと消えていってしまうほどに危うい立場なんだ。我々が下手に介入する事で、妹や村に不満を募らせれば、彼はこの地を去るだろう。そうしない為にも、この地が魅力的であると喧伝する必要があるのだ」
「ハッ!」

 ロイは敬礼しながらネタキリーの考えを反芻した。
 想像以上にヤバい人物の登場にはロイの中での優先順位が大きく覆った瞬間だった。

 今まで国の腐敗をどうにかするのを優先していたが、いっそ切り捨ててここで暮らすのも悪くないのでは?
 そんなふうに考え始める。

 なんならネタキリーはそれすらを望んでいるのではなかろうか?
 だからあえてロイにそんな裏事情を話したのではないか?
 そう思ったらしっくりくる事が非常に多かった。

 騎士団でありながら、国に憂いを感じるものの理想郷をこの村を中心に築こうとしている。

 それをロイは副官達に共通した。

「うわ、そんな壮大な計画だったの、これ?」
「我々はネタキリー様の壮大なお考えの一片も理解できていなかったのだと、恥ずかしく思った程だ」
「しっかし国を相手に大立ち回りをする、ねぇ」

 三者三様の答えだが、思いは一つ。

「あら、マークスは反対?」
「いんや、面白そうだなって。今まではどう転んだって事後処理が多かったでしょ? どこかの貴族の後始末。そんな事をする為に騎士になったんじゃねーって思う事があったわけだよ」
「わかる」
「分かるわ」

 副官達は今までの仕事を思い返し、ようやくその仕事とおさらば出来るのだと理解した。
 ネタキリーは大きな選択肢の前に立たされていると。
 部下ならば上司のその選択を後押ししなくてどうすると、頷き合った。

「だから、私は賛成」
「僕も」
「意義なし」

 こうして第四騎士団は王国から離反する決意を胸に秘める。表向きこそ王国の犬として地方に派遣されるが、裏ではスパイとしての立ち回りをする。

 王国に反旗を翻そうとするレジスタンスの支援などを秘密裡に行う秘密部隊として動き出した瞬間だった。
 
 その中心都市が、ソルベ村。
 
 そんなことなど一切知らぬ村人は、なんか最近やたら移住希望者多くない? などと思うなどした。
 
 
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