余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴

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序章『New Arkadia Frontierへようこそ』

2話

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 話を聞けば、何やらβテスターが壁にぶち当たった時に世話になったのが僕の書き残した手記だとか。
 あんな細かいだけでなんの役にたつかわからない集大成を有り難がって前に進んだと言うのだから驚きだ。
 しかしそれが僕の他に15人分見つかって。
 いつしか始まりの16人だなんて大々的に祭り上げられてしまっているようだ。

「なるほど。でも僕は彼じゃないよ?」
「彼、とは?」
「ムーンライトさん。僕はその人とは違う。偶然ネームが被っただけさ」

 ここはあえて誤魔化しておこう。
 もしご本人だと知れたら興味本位な彼女のことだ。
 根掘り葉掘りきかれてしまうかも知れない。
 会話するのは構わないけど、その都度行動の邪魔をされるのは嫌だもんね。

「私、ムーンライトさんが男性だなんて言いましたっけ?」

 おっと、薮蛇だったか?
 いや、カマをかけられたのか。
 猪突猛進のようで案外考えているな。
 揚げ足取りが上手だ。
 こういう人は苦手だな。
 こころが休まる時がないもの。
 もっとお気楽で遊びたいなぁ、僕は。
 せっかくの日常を忘れる為のゲームなんだよ?

「……特には聞かれてないね」
「ではどうしてあなたはムーンライトさんを男性だと思ったのでしょう?」
「それは僕の方が聞きたいな。だってわざわざ僕に聞きに来たんだ。それは君がムーンライトさんは男性だって掴んでいたからでは? 名称的に女性と取られたっておかしくないのにも関わらず、確信を持って僕に聞いてきた。だから男性なのかなって。違ってる?」
「いいえ。素晴らしい観察眼の持ち主です。しかしだとしたらどうしてその名前を?」
「名前の当て字がムーンライトでね。ゲームではだいたいこの名前だよ。だからみんなから奇異の目で見られて驚いてる。ご新規さんが珍しい。というわけでもなさそうだ」
「NPCではないと?」
「疑うのならフレンド登録してみる?」
「是非!」

 食い気味にフレンド申請をしてきた少女『藻紅』とフレンド登録をして、すぐさま解除した。

「ちょ、なんで外しちゃうんですかー!?」
「いや、だってプレイヤーかどうかの確認でのやり取りでしょ? 確認できたのなら外して構わないはずだ。君の知的好奇心にずっとお付き合いするつもりはないよ? 僕、フレンドは慎重に作りたいタイプだから。それと今の問答で君に対する好感度はマイナスに振り切ってしまったからね。できれば今後お付き合いするのはごめん被りたい」

 ついでにブラックリストにも記載しておいた。
 人の領域に土足で踏み込んできて我が物顔とか、付き合いを考えるまでもない。

 どうも僕は当時のプレイヤーの距離感を他人に適用してしまうみたいだ。
 それもそれで病的だと思うけど、あの当時の空気が今や懐かしさすら覚える。
 それくらいの劇的な変化に感情が追いつかないのだ。

 そして彼女からの情報もミュートにした。
 目の前には居るけど声はここまで届かない。
 肉体的接触も、ハラスメントガードが働いてるので全くない。
 まるで心の壁が具現化したようである。

 こういった防衛対策も細かいのがNAFの良い点だと思う。
 それでも周囲から遠巻きに見ているプレイヤーが途切れない。
 あの少女が被害者であるとばかりに掲示板にでも書き込んだのだろうか?

 可能性の域は出ないが、人の奇異な視線は苦手だな。
 防衛対策はあっても、目立ちたがりではない僕には堪える。
 その場で立ち上がると早々にログアウトをした。

 別にここには何か目的があったわけじゃないので撤退は早い。
 そのついでに外部掲示板を覗き込めば、やはり僕の噂が立っていた。

 【ムーンライト様の再来!?】

 目を引くタイトルで注目を集めるのは今も昔も変わらないね。
 情報拡散主、もとい板主は件の少女のようだ。
 その主張から分かっていたが、彼女は僕個人に興味があると言うより、僕がどのようにしてその肩書きを手に入れたか素性を暴きたいようである。
 俗に言う新聞記者のようなバイタリティを足で稼ぐのを主力としており、情報を拡散することで注目を浴びるのが主目的のようだ。
 その集中力、貪欲さを是非他のことに回して欲しいものだ。

 しかし世の中は労せず楽していきたい人ばかり。
 始まりの16人と呼ばれる最後まであのゲームに残った生粋の変人はそうそう見かけないものな、と社会に出て気がついたものだ。

 懐かしさもあり、当時の掲示板に書き込みをしてみる。
 元々有志の作った個人情報板だ。
 攻略のこの字も見かけない鍵付きのチャットルーム。

【VR版NAF】ムーンライト【触ってみた】

 しかしそこにすぐさま反応があった。

カリカリ梅【おかえりなさい、ムーンさん】

 カリカリ梅さんだ!
 ずっとこっちに残っていたのだろうか?
 彼女も相当偏屈な人だからなぁ。
 と、書き込み書き込み。

ムーンライト【ただいま戻りましたカリカリさん】
ニャッキ小次郎【どうだ、別物だったろう?】
ムーンライト【本当にびっくりですよ】
カリカリ梅【ワンコ狼も早期撤退して今後直ネームは控えるって】
ムーンライト【僕も直ネームで入ってました。だからか】
カリカリ梅【あたしは今、都コンブにしてるから】
ニャッキ小次郎【梅姉さんは本当ブレないな】

 ニャッキさんもそう言いつつ嬉しそうに書き込んでいる。
 誰かと情報を共有したくてもできなかったのだろうか?
 それともなまじ街に与えた影響が大きすぎてびっくりしているのだろうか?

ムーンライト【僕も違うお菓子の名前にしようかな?】
ニャッキ小次郎【あれムーン君は本名の当て字じゃなかったっけ?】
ムーンライト【お菓子の方も好きですよ?】
ワンコ狼【この人、こう言うところあるからな】
カリカリ梅【ちょっとあなた、言い過ぎよ?】
ワンコ狼【すまんすまん、つい懐かしくてな】

 ん? この二人随分と距離感が近いような?

ニャッキ小次郎【あ、ムーン君は知らなかったっけ? この二人結婚してるんだ。お子さんも二人いるよ】

 ニャッキさんから齎された衝撃の事実。
 確かに仲いいとは思ってたけど、僕が仕事に打ち込んでた五年でそこまで進んでいたとは!

ムーンライト【遅まきながらおめでとうございます】
カリカリ梅【なんだか今更言うのも恥ずかしいね】
ワンコ狼【ムーンさんは今まで通りでいいぞ?】
ニャッキ小次郎【ぬはは、相変わらずお似合いなお二人だよ。方や工事基盤を作った人物。もう一人は製鉄技術の第一人者。これほどお似合いのカップルは居ないもんだ】

 いつになく饒舌なニャッキさん。
 そう言えば彼は既に既婚者だったっけ?
 なので波長の会う二人を見て羨ましそうだ。

 それから他愛もない話で盛り上がった。
 僕の近況を聞いて親身になって相談に乗ってくれたり、VR版でもクランに誘ってくれたりしてくれた。

 当時は人が居なかったので活用する機会に恵まれなかったが、こうも人が多いと恩恵に預からざるを得ない。
 その上クランメンバーは当時の16人+素質のありそうなメンツと言うことでお世話になる事にした。

 クランに入るとログインスポットが選択方式になり、街にクランエリアでの活動が可能なのだとか。
 お店まではないので足を運ぶ必要があるのだけど、また囲まれたらクランエリアに逃げてくればいいと色々アドバイスを頂いた。

 普段は平日26時にログインしているらしく、その時間が一番混むことを教えてくれた。
 混むからこそ、人垣が身を隠すのに適している。
 返って人が少ない方がネームが目立つのだそうだ。

 確かにネームは頭の上に出る。
 PC版では気にならなかったけど、VR版ではそれが見つけやすさにつながるのなら、確かに混雑時に赴くのも手だな。

 僕はチャットルームを出て、新しい情報が見つかってないかを精査しつつ、その時間になるまで部屋の片付けに奔走した。
 五年間、帰って寝るだけの生活を支えた室内はめっきり埃の溜まり場で掃除のしがいのある部屋になっていたのだ。
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