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本編

施し

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 飴で空腹を満たす時間はすぐさま終わりを告げた。
 正直に言おう、人はものを食べなければ死ぬ。
 いや、マジで。

 カフェインパワーは万能ではない。それは嫌と言うほど痛感させられてきた。

「うぅ、おなかすいたよぉ」
「茉莉さん、ご飯食べてないんですか?」
「会社で二徹した後なの。ご飯なんて食べてる暇なくて、カフェインとサプリメントで急拵えよ。終わった仕事に対して上司からクレームを入れられた時は声を荒げそうになったけど、そんな元気もなくて……」
「社会の闇を見た気分です」
「まだまだこんなもんじゃないよー? アハハ」
「聞きたくないです。ね、凛?」

 凛ちゃんもこくこく頷いていた。
 この子はこう言うところが可愛いよねー。
 癒しだわ。

 そこに流れてくるお腹を直撃するいい匂い。
 お肉だ!
 空腹中枢を刺激する煙。
 肉の焼ける匂いは人を殺す。
 今まさに死にかけの私が言うんだから間違いない。

「茉莉さん、お金あるんですか?」
「向こうの世界のお金は……」
「やりとりされてる通貨はコインのようですね。見たこともないものです」
「あははー、だよねぇ」

 お財布にお札をしまう。
 懐にしまいつつ、買い食いしてる人を羨ましそうに見つめた。
 
 じーーーーーーー。
 穴が開くほど目に力を込める。
 串焼き屋の店主が、根負けしたように手を上げた。

「嬢ちゃん、それ以上は営業妨害だ。一本くれてやるからあっち行った」
「良いの!?」
「それで商売が上手くいけば安い投資だ」
「やったぁ!」

 串にはお肉が三枚刺さってる。
 ちょうど今ここには三人いる。
 一息に食べたい衝動に駆られるが、お腹が空いているのは私だけではないのだ。
 ここに年長者は私だけ。
 私はそこから上の肉を一つとって二人に渡した。

「全員で一個づつ! 分けっこしましょ」
「あの、私達はまだ大丈夫です。茉莉さんが食べてください」
「良いの、このお肉はみんなの報酬なの! これを独り占めしちゃったら、私はきっとそれを繰り返す! だからダメ! 私のためにも受け取って!」
「そう言うことでしたらわかりました」

 こくこく。
 キサラちゃんと凛ちゃんが黙って受け取った。
 それをもぐもぐと食べる。
 ゆっくりと噛んで。牛のように反芻はできないけど、それくらいゆっくり飲み込んで消化した。
 まだお腹はぎゅうぎゅうなっている。
 むしろお腹に入れたことで空腹は加速していた。

 ああ、ダメだ。
 もっともっと欲しくなる。
 そこに差し出されるお肉。
 凛ちゃんだ。

 いいの? くれるの?
 果たしてこのお肉を受け取るべきか。
 私は今後を分ける二択を迫られていた。
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