ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴

文字の大きさ
2 / 45
ダンジョン

不審な縦穴

しおりを挟む
 カラン、と音がしてボールがカップに転がった。
 ガッツポーズを見せる私に、悪友である寺井欽治が表情を顰める。


「やりました! 私の勝ちです」

「こんなミニゲームでなにを勝ち誇ってるのやら。本格的なゴルフでなら僕は負けませんよ?」


 欽治さんのバッグはパター以外にも複数のクラブが揃っている。
 若かりし頃の賜物だろう、しかしそれを全力で振るうほどの腰はもう持ってないと言うのに、いつまでもしがみつくのだから昔取った杵柄を振いたくてたまらないのだ。


「そもそも、こちらでスポーツをする層は第一世代の私たちくらいですよ? 娘達はこぞってVR空間で過ごしてますし」

「整備する者が居ないから、自作したパターゴルフ場で我慢するしかないと?」

「そう言うことです。ゴルフの腕ならそれこそVRでいいじゃないですか」

「あっちは金に物を言わせる御仁が多いからダメです」


 今、私に対して同じことをしようとした人が何か言ってるよ?


「あなた、人のこと言えないでしょう。それよりも次のコースに行きますよ。頑張って砂場《バンカー》を用意したんですから! 早く回りましょう」

「パターゴルフで用意するコースじゃないでしょうに」

「平坦なコースだとつまらないと言うから用意したのに、我儘だなぁ」


 口を開けば愚痴ばかり。
 このパターゴルフだってこの人が言い出さなきゃ私が参加することもなかったと言うのにね。そのことに感謝することもない。
 人は善意に慣れていく生き物というけど、こうはならないように気をつけよう。

 その後二つのコースを回り、日が暮れた頃合いを見計らって帰り支度を進める。昔取った杵柄が功を奏して、その日のスコアは欽治さんが勝ち越していた。
 私は勝負事に熱を入れるタイプではないのだが、とにかくこの人にだけは負けたくないという思いだけはある。

 最終コースを回った時のことだ。
 一際大きな地響きが起きた。
 私は態勢を崩してその場で尻餅を打ち、順番待ちの欽治さんが震源地を探そうとおでこに手を当てて水平を覗いた。


「痛たた、腰が」

「いい歳して思い切り振りかぶるからですよ。それよりも震源地は随分と近い場所のようですよ?」

「見つかったんですか?」

「あの場所に穴ボコが空いてます。カップをあんな場所に設置はしてないでしょう?」


 バンカーでも池の近くでもない芝もない雑木林の中に、その穴ボコは存在を示すように口を開けていた。


「随分と深そうな穴ですね?」

「ボールを落としてみましょうか? 底がどれくらいの場所にあるかわかりますよ?」


 欽治さんがゴルフボールを穴に向けて落とした。
 風を切るようにヒュウ、と音は鳴ったが跳ね返る音は聞こえず落ち続けるばかりだった。


「なにも音が返ってきませんね?」

「随分と深そうだ。警察に連絡したって、リアルの事にはあまり関与したがらないだろうね」

「今はVRの管理で忙しそうですし」

「じゃあこの件は一旦持ち帰るとして」

「ええ、勝負は引き分けで」

「しれっと負けを認めないのはあなたらしいですが、いいでしょう。僕の器の広さに打ち震えるがいいです」

「はいはい」


 その日は何事もなく帰宅した。
 ニュースもなにも取り上げられず、翌日。


「笹井さん、大変です。一大事です!」


 早朝から直通のコール音が鳴り響き、私は顔を顰めてそれを受け取った。


「なんです朝っぱらから」

「いいから昨日のコースに来てください。あ、ゴルフバッグは持ってきてくださいね?」


 昨日の試合の続きだろうか?
 回らない頭で、午前6時の朝靄のかかる町内を渡り私は目的地へと辿り着いた。昨日打った腰はすっかり調子が良く、なんだったら体も軽い。
 重いゴルフバックを担いできたというのに、スキップできそうなほど肉体に力が漲っている気がした。


「随分とご機嫌ですね。いや、目敏いあなたのことだ。もう気づいたのでしょうね」

「そうやって、主語を語らない口ぶりは嫌われますよ?」

「おっと、気づいてないのならそれでOKです。じゃあ本題です、笹井さん。今日は随分と体調が良くありませんでした?」

「え? ええ」

「実はですね僕、AWOのログアウト後にも関わらず、寝ぼけてステータスを出しちゃったんですよね」

「ボケですか?」

「最初は自分もそんな年になったかとショックだったんですが、目の前にずっと浮かび続けてるんですよ」

「幻が?」

「そうです。幻だと思い続けていたステータス表記が、バグってるのか初期値に戻ってますが、確かに存在してたんです。ほら!」


 そう言ってポーズを取る欽治さん。
 ちなみに変なポーズを取ってるだけで何かが見えるわけでもない。
 やれやれ、まだ夢の中にいるな?
 仕方ない、私も付き合ってやるかとゲームで遊んでる感覚でステータス画面を呼び出すと、ライトブルーの画面が目の前にポップアップした。


「うわ! 本当に出た。なんなのこれ!」

「僕が言ったこと信じてなかったんですか?」

「そりゃ疑うでしょう。寝起きで聞かされたんですよ? それに私はゲームにログインしてません」

「僕だってしてませんよ。けどね、こうなった理由に思い当たる節がある」

「もしかして?」

「そう、昨日の穴ボコです。多分あれが原因だと思うんですよね」

「乗り込むんですか?」

「そのための武器の持参ですよ」


 そう言って、欽治さんはゴルフバックを持ち上げた。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪イベントの夢を見たから、逆ざまあしてみた

七地潮
ファンタジー
学園のパーティーで、断罪されている夢を見たので、登場人物になりきって【ざまぁ】してみた、よくあるお話。 真剣に考えたら負けです。 ノリと勢いで読んでください。 独自の世界観で、ゆるふわもなにもない設定です。 なろう様でもアップしています。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...