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五章
01_アリエルの頼み事
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「ここがあたし達の農園よ」
見せたいものがあるの。
開口一番のお強請りから少しして、そんな言葉が俺達に投げかけられた。
こっちの世界はすっかり様変わりした。
大人びたアリエルもまた、子供のままではいられないと成長した自分を見せてくれるらしい。
クラスメイトがエルフの里へと向かう中、俺たちは早速別行動することになった。
今のアリエルは二人の人間を物理的に使役している。
一人はロギン。元々ドラグネスの勇者のトップを率いていた男だ。今じゃ顎で使われて情けない姿を晒しているが満更でもなさそうだ。すっかり運転手姿が様になっていた。
「エラールは?」
「あの子には他の仕事をお願いしてるの」
エラールはアリエルと姉妹の契りを結んだ同じ境遇の子だ。
ロギン同様ドラグネスの勇者で、アリエルと共に俺たちと戦ってくれた。
彼女の職能がなかったら色々まずい展開になってたと思うからアリエルの起点でカムバックできたのは値千金。
蘇生が間に合ったのは彼女の『ネクロマンサー』あってのものなのだ。
そして到着した先、そこには一度見たことのある果実が群生……もとい繁殖していた。
地球上のミントに畑を荒らされた姿を想像してもらうとそれがどのような勢力図を誇るかわかるだろう。
“農園”だなんて言ってるが、そこに生えてるのは龍果だった。
忌み嫌っていた存在なのになんでまたこいつを栽培しようと思ったのか。これが俺には分からない。
「アリエルはなんでまたこれを育てようと思ったんだ?」
「不思議そうな顔ね。確かにこいつの味は最悪よ。でもね、それは品種改良をしてなかっただけ。だからまず最初にこいつを食べられるようにすることから着手したの」
「叩きつけるほど嫌いじゃなかったっけ?」
薫の疑問にアリエルは遠くを見つめながら目を細めた。
アリエルの代わりに運転手のロギンが答える。
「あー、なんつーか他の作物は全部枯らしたんだ。で、生き残ったのがコイツ。仮にもドラゴンの系譜だから雨天だろうが日照りだろうがピンピンしててな」
あ、ハイ。
俺たちは居た堪れなくなってアリエルから目を逸らした。
でも今まで奪うことしかして来なかったアリエルが、自分から動いて“作る”側に回ったのだ。
それは嬉しい変化ではないだろうか?
「それで、これは食料として成り立ちそうなの?」
委員長が訝しげな視線をロギンへ向けた。
「最初の味に比べたら味があるだけマシだよ。お前らの施しと比べたら天と地だがな」
「それでも何かを成し遂げようという気持ちは受け取りました。わたくし達がここから更にお手伝いすることはありますか?」
「ああ、たくさんあるぜ? 俺たちは学がない。コイツの調理法とどうすれば売れるのかを知りたい」
「それなら得意だわ」
杜若さんの提案を待ってましたとばかりに応えるロギン。
それに委員長が俺たちを代表して答えた。
今までやってきたことの応用だ。
委員長が『識別』で特徴を捉え、俺が素材を取り込んで直接料理する……のは難しそうだな。
幸にして調味料の提供はできるからそっちで対応するだろう?
売ることに関しては薫に任せておけば大丈夫。
後は味覚の違う俺たちがそれを食ってどう加工するのがいいかで意見を出し合う。
味見係は腐るほどいるからな。俺たち含めて20人の生き餌がこの世界に飛び込んだのだ。味見係は人数が多い方がデータが揃って良いからな!
「ところでコレ、食ったら慢心して自滅する奴じゃないっけ?」
「そう言えばそんな効果もあったわね。でも火を通せば大丈夫じゃない? あたし達は生で食べてたからよくわからないわ」
「……それを僕たちに聞くの?」
薫の返事にアリエルはそれを今から調べるのよと付け加えた。
取り敢えず“農園”の今後の目標は目下品種改良中の龍果をバザーで売れるようにするのが課題。
バザーというのは世界統一後にいろんな種族が一つの場所に料理や織物、自分たちで作った作物を持ち合って物々交換する場所だとか。
国が消えて共通の通貨が消えたことで、店主の言い値で売り買いがされる。
そこで食い扶持の多いアリエル達は自分たちも売れるものを作ろうと頑張ったのだそうだ。
行き着いた先が龍果なのが彼女らしいというかなんというか。
「取り敢えず味見しようぜ」
「気は進まないけど」
「食べないことには始まらないわね」
「そうですわ」
そして一口。
俺以外の全員が気まずい顔でこっちをみた。
確かにこれは、正直言ってこっちの“不味い”を上回ってきた。
食べた時の食感は柿。
硬さの後に果汁が飛び出して、しかしすぐにアケビのような種が口の中に広がった。
まるで砂利を口に入れたようなジャリジャリ感。
美味いとか不味い以前の問題だ。
これでマシになったとかなんの冗談だ?
けどなんというか調理次第だなとも思う。
「どう? なんとかなりそう?」
アリエルはこれを売れるようになれば俺たちがいなくなっても食っていけると自信を持ちたいようだ。
今までは迫害されてきたからと、奪って当たり前という考えだったが……全員が全員アリエルと同じような境遇となった今、もう自分たちが奪える状況じゃなくなってなんとかしたいと頼ってくる。
「なんとかしてやるのが俺たちの仕事だ。委員長、坂下さんと連絡つくか? あと夏目も」
「坂下さんは分かるけど夏目君も?」
「ちょいと作って欲しい調理器具があってね。俺も今までの俺と思ってもらっちゃ困るぜ?」
「雄介もアルバイト頑張ってたもんね」
「まあ、阿久津さんの手料理ですか?」
「俺のガチャは俺のイメージによって完成度に差が出るだろ? なら俺がすべきことはそのイメージを補完することだ。全てを網羅するのは難しいが、やれることからやろうと思っていろんなお店に弟子入りしたんだ」
「私も、今まで興味なかった項目に目を通す機会が増えたわ。みゆりだってそうでしょう?」
「ええ」
「僕は逆に普通に一週間を過ごしたかな?」
薫だけは平常運転とばかりに鼻を鳴らす。
お前は少し落ち着くくらいでちょうどいいからそのままでいてくれ。
少しして夏目が節黒の操る可変ゴーレムに乗って現れた。
ゴーレムの降下エレベーターから坂下さんを連れて出てきたのだ。
すぐ後ろで制御を失ったとばかりにゴーレムが崩れ落ちる。
ただのオブジェと化したゴーレムの上から節黒が銀色のパイロットスーツを纏って降り立つ。
少し格好つけてるが、盛大に滑ってるぞ?
節黒は女子達の冷ややかな視線を平然と受け流しながらヘルメットを脱いで爽やかな笑顔を見せつけた。
「なんだかタダでご飯奢ってくれるって聞いてきたんだけど、会場はここであってる?」
それにしては何もないね、と付け足す節黒。
つまりはあれか、何も知らされずに連れて来られたアッシー兼被害者なわけか。哀れな。
「という事でフライ、蒸し、焼き、串打ちと色々試すから調理器具頼むな?」
「俺を呼んだ理由はそれか。お前のガチャで料理して出すのじゃダメなのか?」
「ごめんなさい夏目君、不躾なお願いで悪いのだけど協力してくれる?」
「錦さんに頼まれたなら無碍にはできないな。が、材料次第だ。阿久津、鉄材とか木材はあるのか? せめてそこら辺がないとどうにも出来ない」
「ああ、そいつなら任せとけ。丁度前回の余りがある」
LV6の素材加工ガチャによって俺は一度手にした素材を加工する能力を持った。要するに鉱石をインゴットにしたり、形を自在に変形させられるのだ。
え? それができるんなら自分で揃えろって?
バカヤロウ。包丁やまな板、フライパン、中華鍋や調理台や鍋は作れなくもないが蒸し器やオーブンなんかは構造を理解してないからなんとなくじゃ出来上がらないのだ。
そこら辺はその道のプロに頼んだほうが確実だ。
「さぁて、どうやって調理してやろうか」
見せたいものがあるの。
開口一番のお強請りから少しして、そんな言葉が俺達に投げかけられた。
こっちの世界はすっかり様変わりした。
大人びたアリエルもまた、子供のままではいられないと成長した自分を見せてくれるらしい。
クラスメイトがエルフの里へと向かう中、俺たちは早速別行動することになった。
今のアリエルは二人の人間を物理的に使役している。
一人はロギン。元々ドラグネスの勇者のトップを率いていた男だ。今じゃ顎で使われて情けない姿を晒しているが満更でもなさそうだ。すっかり運転手姿が様になっていた。
「エラールは?」
「あの子には他の仕事をお願いしてるの」
エラールはアリエルと姉妹の契りを結んだ同じ境遇の子だ。
ロギン同様ドラグネスの勇者で、アリエルと共に俺たちと戦ってくれた。
彼女の職能がなかったら色々まずい展開になってたと思うからアリエルの起点でカムバックできたのは値千金。
蘇生が間に合ったのは彼女の『ネクロマンサー』あってのものなのだ。
そして到着した先、そこには一度見たことのある果実が群生……もとい繁殖していた。
地球上のミントに畑を荒らされた姿を想像してもらうとそれがどのような勢力図を誇るかわかるだろう。
“農園”だなんて言ってるが、そこに生えてるのは龍果だった。
忌み嫌っていた存在なのになんでまたこいつを栽培しようと思ったのか。これが俺には分からない。
「アリエルはなんでまたこれを育てようと思ったんだ?」
「不思議そうな顔ね。確かにこいつの味は最悪よ。でもね、それは品種改良をしてなかっただけ。だからまず最初にこいつを食べられるようにすることから着手したの」
「叩きつけるほど嫌いじゃなかったっけ?」
薫の疑問にアリエルは遠くを見つめながら目を細めた。
アリエルの代わりに運転手のロギンが答える。
「あー、なんつーか他の作物は全部枯らしたんだ。で、生き残ったのがコイツ。仮にもドラゴンの系譜だから雨天だろうが日照りだろうがピンピンしててな」
あ、ハイ。
俺たちは居た堪れなくなってアリエルから目を逸らした。
でも今まで奪うことしかして来なかったアリエルが、自分から動いて“作る”側に回ったのだ。
それは嬉しい変化ではないだろうか?
「それで、これは食料として成り立ちそうなの?」
委員長が訝しげな視線をロギンへ向けた。
「最初の味に比べたら味があるだけマシだよ。お前らの施しと比べたら天と地だがな」
「それでも何かを成し遂げようという気持ちは受け取りました。わたくし達がここから更にお手伝いすることはありますか?」
「ああ、たくさんあるぜ? 俺たちは学がない。コイツの調理法とどうすれば売れるのかを知りたい」
「それなら得意だわ」
杜若さんの提案を待ってましたとばかりに応えるロギン。
それに委員長が俺たちを代表して答えた。
今までやってきたことの応用だ。
委員長が『識別』で特徴を捉え、俺が素材を取り込んで直接料理する……のは難しそうだな。
幸にして調味料の提供はできるからそっちで対応するだろう?
売ることに関しては薫に任せておけば大丈夫。
後は味覚の違う俺たちがそれを食ってどう加工するのがいいかで意見を出し合う。
味見係は腐るほどいるからな。俺たち含めて20人の生き餌がこの世界に飛び込んだのだ。味見係は人数が多い方がデータが揃って良いからな!
「ところでコレ、食ったら慢心して自滅する奴じゃないっけ?」
「そう言えばそんな効果もあったわね。でも火を通せば大丈夫じゃない? あたし達は生で食べてたからよくわからないわ」
「……それを僕たちに聞くの?」
薫の返事にアリエルはそれを今から調べるのよと付け加えた。
取り敢えず“農園”の今後の目標は目下品種改良中の龍果をバザーで売れるようにするのが課題。
バザーというのは世界統一後にいろんな種族が一つの場所に料理や織物、自分たちで作った作物を持ち合って物々交換する場所だとか。
国が消えて共通の通貨が消えたことで、店主の言い値で売り買いがされる。
そこで食い扶持の多いアリエル達は自分たちも売れるものを作ろうと頑張ったのだそうだ。
行き着いた先が龍果なのが彼女らしいというかなんというか。
「取り敢えず味見しようぜ」
「気は進まないけど」
「食べないことには始まらないわね」
「そうですわ」
そして一口。
俺以外の全員が気まずい顔でこっちをみた。
確かにこれは、正直言ってこっちの“不味い”を上回ってきた。
食べた時の食感は柿。
硬さの後に果汁が飛び出して、しかしすぐにアケビのような種が口の中に広がった。
まるで砂利を口に入れたようなジャリジャリ感。
美味いとか不味い以前の問題だ。
これでマシになったとかなんの冗談だ?
けどなんというか調理次第だなとも思う。
「どう? なんとかなりそう?」
アリエルはこれを売れるようになれば俺たちがいなくなっても食っていけると自信を持ちたいようだ。
今までは迫害されてきたからと、奪って当たり前という考えだったが……全員が全員アリエルと同じような境遇となった今、もう自分たちが奪える状況じゃなくなってなんとかしたいと頼ってくる。
「なんとかしてやるのが俺たちの仕事だ。委員長、坂下さんと連絡つくか? あと夏目も」
「坂下さんは分かるけど夏目君も?」
「ちょいと作って欲しい調理器具があってね。俺も今までの俺と思ってもらっちゃ困るぜ?」
「雄介もアルバイト頑張ってたもんね」
「まあ、阿久津さんの手料理ですか?」
「俺のガチャは俺のイメージによって完成度に差が出るだろ? なら俺がすべきことはそのイメージを補完することだ。全てを網羅するのは難しいが、やれることからやろうと思っていろんなお店に弟子入りしたんだ」
「私も、今まで興味なかった項目に目を通す機会が増えたわ。みゆりだってそうでしょう?」
「ええ」
「僕は逆に普通に一週間を過ごしたかな?」
薫だけは平常運転とばかりに鼻を鳴らす。
お前は少し落ち着くくらいでちょうどいいからそのままでいてくれ。
少しして夏目が節黒の操る可変ゴーレムに乗って現れた。
ゴーレムの降下エレベーターから坂下さんを連れて出てきたのだ。
すぐ後ろで制御を失ったとばかりにゴーレムが崩れ落ちる。
ただのオブジェと化したゴーレムの上から節黒が銀色のパイロットスーツを纏って降り立つ。
少し格好つけてるが、盛大に滑ってるぞ?
節黒は女子達の冷ややかな視線を平然と受け流しながらヘルメットを脱いで爽やかな笑顔を見せつけた。
「なんだかタダでご飯奢ってくれるって聞いてきたんだけど、会場はここであってる?」
それにしては何もないね、と付け足す節黒。
つまりはあれか、何も知らされずに連れて来られたアッシー兼被害者なわけか。哀れな。
「という事でフライ、蒸し、焼き、串打ちと色々試すから調理器具頼むな?」
「俺を呼んだ理由はそれか。お前のガチャで料理して出すのじゃダメなのか?」
「ごめんなさい夏目君、不躾なお願いで悪いのだけど協力してくれる?」
「錦さんに頼まれたなら無碍にはできないな。が、材料次第だ。阿久津、鉄材とか木材はあるのか? せめてそこら辺がないとどうにも出来ない」
「ああ、そいつなら任せとけ。丁度前回の余りがある」
LV6の素材加工ガチャによって俺は一度手にした素材を加工する能力を持った。要するに鉱石をインゴットにしたり、形を自在に変形させられるのだ。
え? それができるんなら自分で揃えろって?
バカヤロウ。包丁やまな板、フライパン、中華鍋や調理台や鍋は作れなくもないが蒸し器やオーブンなんかは構造を理解してないからなんとなくじゃ出来上がらないのだ。
そこら辺はその道のプロに頼んだほうが確実だ。
「さぁて、どうやって調理してやろうか」
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