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五章

06_龍果の魅力を伝えよう⑤

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「いやぁ、村を出て行く時大変だったな」

「ガチャで出しても料理で出しても、雄介は雄介だったね」

「絶対お店出す時はサービスしすぎちゃダメよ?」


 だなんて仲間内から言われる。どうも俺はサービスが過剰らしい。ガチャで出してた時は自分はなんの努力もしてないから他人事だったが、作り手になってからは美味いの言葉が聞きたくてついついサービスしてしまうんだ。


「本格的に商売するようになったらな。でもまずは自分のところで作物でどんな料理ができるかを知るのも大事だろ? だから俺は向こうにやる気を出させて次に繋げる事を優先したんだよ」

「わたくしは阿久津さんらしいと思いましたわ。こうやって食で橋渡ししてくれるからこそ、皆さんが笑顔でいられるのです」


 今回、わたくしの出番はありませんでしたと杜若さんが満足気に微笑む。
 そこまで言われて薫と委員長の勢いはぴたりと止まった。
 この二人は稼ぎを優先しすぎきらいがある。
 それが悪いとは言わないが、今やるべき事ではないよな?

 国があった時、お金の流通があった時はそれで正解だった。
 正義の気持ちで不正を取り立てることもできた。
 でも今は世界が変わってしまっている。
 今まで通りのやり方じゃあダメなんだと思うんだよ。

 もう天性で好き勝手やれる時代は終わってしまったのだ。
 勇者教会の台登。
 俺たちはそれに直接関わるつもりはないが、だからこそ天性に頼りすぎるのもダメだと思う。

 え、胡椒とか過去素材は全部ガチャからじゃないのかって?
 うるせぇ! これが俺の持ち味なんだ。
 念じたら手元に出るんだからしょうがねぇだろ。


「ま、俺たちも以前のようには行かないって事だよ。勇者教会の件もある。目立たず行こうぜ?」

「宣教師ぶん殴った件は騒ぎになってると思うけどね?」

「う゛、うまいこと記憶消し飛ばせないかな?」

「念の為、精神安定を強めにかけておきましたが」

「安心とはいかないが、一時的に忘れてくれたら御の字か。そういや節黒は?」

「さぁ? こっちの村に来る時にはいなかったけど?」


 あいつめ、逃げたか?
 まぁあまりかまってやれなかったし、ムーンスレイの勇者とはソリが合わなかった感じもあるしな。
 話が合わないやつとより、会うやつと同じ空間にいる方が時間を有意義に消費できるしな。


「それで勝手についてきた用心棒殿は?」

「アリエルの農園の食堂に向かったキリね」

「きっと坂下さんのおつまみに舌鼓を打ってる頃よ」

「あそこの施設、亜空間だから時の流れは遅いもんな」


 酒は置いてないけど、雰囲気で酔える人だからな、あの人。
 最悪料理酒でも良いとか言いそうだ。


「ま、それはともかく次はどこに向かうかだよなぁ。委員長、周辺マップで珍しい素材とか見つけたら教えて」

「それくらいなら任せてちょうだい」

「わたくし、この世界でも通用するコスメの開発もしてみたいんですの。少しは勉強してきたんですよ?」


 そう言ってメモ帳を取り出す。
 そこに記されているのは石鹸の作り方やシャンプーやリンスの生成方法だった。
 細かに記された必要素材と、実際に出来上がる商品。
 俺に見せる用だというのは理解できた。
 実際に俺が使うわけではないが、あの一年で俺がどのような情報を欲しているのかよくわかってるのだろう。

 杜若さんがお店を出したら俺のところでも何か提携できたら良いなと思った。
 側ぐらいならいくらでも用立ててやれるからな。

 屋台を馬車の通りから少し寄せて小休止。
 林道から山菜とキノコ、野苺などの果実を少々使った炒め物を作って行く。
 木苺はすりつぶしてソースにし、炒めた山菜とキノコ、龍果の軟骨仕立てと一緒に添えた。


「あ、これ美味しい」

「キノコが絶品ですね」

「阿久津君、立派になって……」

「俺の腕前は全然だよ。今回は食材に助けられたな。ご飯にも合うそうだが、サックサクに焼いたトーストに合わせたらどうかと思う」

「わたくしはクラッカーに少し乗せてシャンパンに合わせてもいうと思いますわ。おしゃれなレストランで出てきてもおかしくない組み合わせだと思います」


 おぉ、俺の料理にそこまでの評価をくれるなんて。
 まぁ普通に異世界の飯が持つポテンシャルが高いからだよな。
 龍果の可能性は未知数だ。

 試しに坂下さんにもって行ったら喜ばれた。
 木苺の方をいくつかもってきてくれとせがまれたものだ。
 俺の素材復元で栽培しても良いが、それをやると魔素でしか食材を見れなくなる。
 それじゃ前回と一緒である。

 せっかく地域ごとの特色をだしたのだからそこを楽しみたいものだ。
 なので林道の近くに看板を立てた。
 木苺、山菜、キノコは絶品。
 塩を振って食べるだけでも乙だが、食材としての価値も高いと示しておく。

 勇者教会の連中がもしかしたら独占してしまうかもしれないが、大量生産とは程遠い自生してる植物は目をかけまい。

 言語は異世界の言葉で、委員長から教わって書いた。
 読み書きなんかは委員長の得意分野だが、俺も覚えたいので勉強した。

 言葉は通じるけど、今までそういう勉強やってこなかったもんな。今までは委員長頼り。これからは委員長がいなくてもなんとかやっていきたいものだ。


「と、クラスメイトにも料理の写真を撮って自慢しとくか」

「飯テロも程々にね?」

「エルフの里でカツ丼食ってる連中にしてみたら質素なもんだよ」

「そう言えばそうね。向こうのほうが豪華だったわ」

「その分大量に魔素持ってかれるし、魔素集めに終始しそうだけど」

「そう思うと阿久津君が料理してくれる分自分の為に魔素使えるのね?」

「そうだ、店内にドリンクコーナー置いとくか。スープの方は簡単に作り置きってわけにもいかないし。その時の客次第で売れ残るから余ったらもったいないからな」

「食事はいいの?」

「俺たちで食うやつ以外は食材を持ってきた連中に分ける程度だ。ケースバイケースだな」

「そうやって至れり尽くせりにするから雄介に依存する輩が増えると思うんだ」


 薫は心配性だな。そこが俺の唯一の取り柄だろう?
 俺たちは持たざる者としてスタートしたからこそ、あるもん出して交渉を進めてきたからな。
 誠意には誠意を返すのが俺流。
 勇者教会のように傲慢にはなりたくないもんだ。


「あ、早速返信来てる。メニュー追加はいつからだってさ」


 地産地消だからメニューに追加はしないと返しとけ!
 俺は新しいレシピをメモ帳に書き留め、先程思いついたレシピに取り掛かる。

 この食材、きっとグラタンにも合う。
 屋台なのにオーブンが備え付けられてるのはうちならではだろう。
 節黒のロマン溢るる馬車も悪くはないが威圧がすごいのでお蔵入りに。
 
 そこで代替え案の屋台は木造でもしっかりとした奥行き、十分なスペースを確保した焼き台。コンロもでかく、強火でチャーハンや炒め物もなんでもござれ。鉄板焼きもできる広々スペース。
 でも表にまわればボロい屋台なんだよな。
 まるで異空間に繋がってる気持ちにさせるが、ここはエルフの技術の応用でスペースを拡大してる空間なのだ。

 これこそ勇者協会にバレちゃ行けない秘密の部屋なのだ。


「なんだか美味そうな匂いがするな、ここは俺たちのナワバリよ」


 そこへ、破落戸と思しき連中が赤錆びたナタを持って三名現れた。お、早速第二村人発見!
 俺たちは友好的な態度で近況を尋ねた。





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