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五章

13_勇者教会を立て直そう③

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「阿久津!」

 ササモリさんとの会談を終え、帰り際に横合いから声をかけられた。振り返った先には三上と木下が畑の方から出てきたではないか。
 妙に似合ってない姿に苦笑しながら手を上げて返事をする。

「二人してどうした、その格好は」

 三上と木下は顔を見合わせ苦笑する。

「俺たちこっちじゃ戦いっぱなしだったろ? だから次は育む方をやろうって話してさ」

「ちなみに誘ったのは俺だぜ!」

 坊主頭の木下が胸を張って威張り散らす。
 三上は誘われた体で話すが、どこか燻っていた感情をぶつける先を求めていたのだと言う。
 今のままでいいのか? もっと自分も何かすべきではないのか。それを俺がアルバイトに打ち込む姿から受け取ったと言う。
 影響先が俺なのかよ、とは思うが。
 言われて悪い気はしなかった。

 なんせあの三上が俺を見て考え方を変えたって言うのが嬉しくてさ。思わず奮発しちまったぜ。

「なんの気に出す肉まんがまた美味いんだよな」

「分かる。この握り飯一つ取ったってシャリからして別もんだ。海苔も具も最高だがその二つを支えてるのはこのシャリだよな」

「分かるか? アルバイト先を複数経て食文化を深く知ることで味に深みが出たろ? もちろん俺も作れるが、まだそこまで至れない。ガチャ頼みの俺だからこそイメージが特に大事なんだよ」

 今までなら出した途端夢中で食ってた二名が、今は蘊蓄を垂れながら味わって食べてくれている。
 ところどころよくわからないなりに褒めてくれようとしてるが、それが返って気取ってるように見えて滑稽だった。
 あんまなれないことはするもんじゃないぜ?

「そういや二人とも暇か?」

「概ね開墾とタネ植えは終わったよな?」

「あとは水撒きと経過観測だな」

「んじゃ、これから屋台で飯の提供するからアルバイトしないか? 今なら賄い付きだ」

「やる!」

「どんな食事の提供をするつもりだ? 汁物なら椀が必要だ。アテはあるのか?」

「あー、一斉に配膳するとなるとそこが懸念か」

「一応作業場のスペースはさらに加速した世界線にするつもりだけどな」

「万全は期してるのな」

「そりゃ大会だしな」

「「待て!」」

 二人して一斉に待ったがかかる。
 さっきまで一緒に畑仕事してたからかいきぴったりだな。

「アルバイトって大会のアシスタントって意味でだったのか?」

「そうだぞ? ちょっと凝ったメニュー作りたくてさ」

「美味い話だと思ったのにぶっつけ本番はないぜ」

「まぁまぁ、大会と言っても主催は俺たちだし、いつもの料理作るだけでいいとこまで行くし平気だよ。要は大会を盛り上げる賑やかしだな」

「勝つつもりはないのか?」

 勝負師の目で三上が問う。
 俺は肩をすくめて手のひらを上に上げた。

「勝つことによってこの世界の料理長を背負うことになる。最大で五年しかいない俺たちが背負うには重すぎるだろ?」

「まぁそうだな。あくまでこの世界の食生活復興のためのイベントという訳か」

「そうだぞ。それより現地の料理も食っておけよ。一旦文明滅んでるからグルストン王国の時よりも味が劣化してるぞ」

「それを聞いて途端に口に入れるのが怖くなったんだが?

「アリエルが龍果を育ててそれを売り込もうと頑張ってるのよ」

 俺と三上、木下の話に委員長が混ざってくる。
 この二人に混ざるには杜若さんは少し遠慮がちだ。
 どちらか一人になら話しかけられるのだが、まだ男子の輪に入っていくには経験が足りないのかな?
 薫に至っては特に気にした様子もなく静観している。
 
「龍果ってあの?」

 龍果と聞いて三上が顔を顰めた。
 アリエル達ドラグネス皇国で唯一の食糧だと語った時、一緒に怒ってくれたのが三上だった。

「実はこれ手間をかければ上手くなるんだよ。ちょっと時間もらうな?」

 俺は屋台に引っ込んで、簡単な龍果料理を二人に振舞った。
 ピーマンの皮に龍果を詰め込んだ肉詰めだ。
 見た目はアレだが、一度口にしたら箸が止まらないであろう一品。
 特に野菜を作り始めた両名は嫌いだからと残したりはしないだろう。

「本当に食って大丈夫なんだろうな? アリエルみたいに洗脳されたりは……?」

「ひょーうまそう。うめー!」

 疑り深い三上に、疑わずに口に放り込む木下。
 木下が問題なさそうに咀嚼してるのを見据えて、三上も目を瞑ってから口に入れた。
 そして、目を見開いてはご飯をかっこんだ。

 それからはご飯を口に入れ、二つ盛りつけた一つを一口で食べて後悔したのか残りを切り分けて口に入れる。
 うんうん頷いてから一緒に出したほうれん草のおひたしを口に運び、最終的に一緒に出した料理の皿が空になるまで平らげてしまった。
 さっきおにぎりや肉まんをあれだけ口にしたのにどこへ入るのやら。

「凄いな、聞いていた話とはだいぶ違って驚いた。これは阿久津が?」

「俺一人じゃ無理だよ。坂下さんが下拵えしてくれて、俺がそれを調理したんだ。ほら、俺のガチャは願えば手元に出てくるじゃん? 欲しい調味料とかすぐに手元に手繰り寄せられるからさ」

「それでもこれを作ろうって思ったのは阿久津だろう? 美味かった。賄いの方も期待していいのか?」

「おう、任せとけ」

「肉体仕事は任せとけ。な、三上?」

 腹一杯になった気にしたが叫んだ。
 三上も肯定し、俺たちは再びユースキーと交流を図る。
 イベント規定と優勝者への報酬の取り決めのためだ。
 取り決めさえ決めて仕舞えばいくらでも作り出せるのが俺のガチャの特権だからな。

「また増えてる……」

「人をGみたいに言わないでくれるか?」

「Gってなんだ?」

 そういやこの世界に虫の類いないな。
 探せばいるかもしれないが、グーラが作ってないか、モンスターに餌として食われたかどっちかだな。
 それはさておき、ユースキーに興味を示した三上が目で訴えかけてくる。

「彼は?」

「俺達が帰ってから一人で尻拭いを頑張ってくれた俺のコピー体だ」

「は?」

 三上は俺とユースキーの間で視線を三往復した後、全然似てないじゃないかと唸る様にこぼした。

「ササモリさんが制作したフェルスタさんの後継期のようなのです。似てないのは当時の思い出が相当に美化されたのではないかとおっしゃっていました」

「そうだな、阿久津は俺たちと違って他国との橋渡し的ポジションだった。美化されてもおかしくないくらいだ」

 だからって俺一人がもてはやされるのも違う気がするんだが。

「単純に僕達、こっちでは160年も前の人物だからうろ覚えでも仕方ないと思うんだ」

「え、経過時間はあれから二年じゃねーの? エルフ組はそれくらいだって……」

 薫の補足に木下が茶々を入れる。

「それは亜空間での話よ木下君」

「マジかぁ、体感1週間しか経ってねーぞ俺ら」

「時間の経過はこの際おいとくとしてだ」

「サラッと流されたけど結構重要な情報じゃね?」

「要はこの世界で長い時間を過ごすなら、亜空間より現地の方を取るべきと言えば分かるかしら?」

「流石委員長、馬鹿な俺でもすんなり理解できた」

 ようやく木下が黙ったので本題に入れるぜ。
 
 ユースキーとのイベントの打ち合わせは俺たちがアイディアを出し、ササモリさんに共催してもらっての開催とした。
 そこで優勝者への報酬で万能屋台の提供をプレゼンしたところで三上からの待ったが入る。

「俺の報酬内容に何か問題があるか?」

「大有りだ。阿久津、お前は使えて当然のその機材。現地の人が理解できるのか?」

「……あっ」

 言われて納得。俺たちの万能調理器具は現代の再現でしかない。それを技術の進歩をそれこそ数世紀飛ばして実装したって誰も使い方がわからないのである。
 三上に指摘されるまで俺たちは微塵も疑いもしなかった。
 そうだよな、煮る、焼くしか調理技術のない世界に蒸し器やジューサー、泡立て器を持ってきたって何をどうするかわからないのだ。

「それは確かに盲点だったね」

「私も【識別】で見えちゃうからそこまで気にしてなかったわ」

「わたくしも、雰囲気で扱える物かと」

 俺たち四人組は一気にしょんぼりしてしまう。

「それにしてもよく気がつけたな」

「そりゃあれだ。俺も三上も同じ道を歩んだからな」

「同じ道?」

「畑を耕すのに、いきなり農耕機を渡されても何をどうしていいかわからなかったんだ」

「ああ、まずはそれが何をする機会か知ることから始めたのか」

「俺は魔法があるからズババッとやれるが、三上は剣を鍬に持ち替えて大変そうだったからササモリさんが用意してくれたんだよ」

「で、扱えずに鍬で頑張ったと?」

 三上は仕方ないだろう、と恨めしげに頷いた。
 確かにそりゃそうだ。
 便利な道具でも扱えなきゃ意味がない。

「じゃあさ、こういうのはどう?」

 そこで薫が自信満々にアイディアを披露した。
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