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五章

22_それぞれの進路⑤

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 勇者の子孫と名乗る獣人少女ミライから無事逃げ去った俺達は、注意喚起としてクラスメイトや他の勇者達に情報の共有をした。
 クラスメイトは今のところ他の勇者と遭遇しておらず、こもって自分のやりたい研究を熱心にやって居たので無害だったが、他の勇者は既にその存在を知っているらしかった。

「そりゃおめぇ、極天の奴らだろ? 確かウチんとこの皇帝の子孫達だ。あのババアが預かるって言ってから結構たったが、最近制御不能でイキリにイキってるらしい」

 知ったふうな口で語ったのは坂下さんの商うレストランに入り浸ってる迷惑な客のシグルドさん。

「いまでもイキってる人が居るそうですが、心当たりは?」

「あん、そりゃ俺のことを言ってるのかよ三上」

 坂下さんの雇われ用心棒こと三上が他の客に迷惑が降りかからないように牽制している。
 お前、坂下さんとはお付き合いしてるって言ってたのに……やっぱり裏があったか。

 当の坂下さんは料理に夢中で、全然恋人って感じじゃない。
 こりゃ木下の方も色っぽい話は聞けないな。
 なんてたって相手は肉食モンスターの吉田さんだ。
 メッシー役にされておしまい、または俺への口利き役だろう。

「どうどう、落ち着いてくださいよ。他のお客様への迷惑です」

「俺はよ、一緒に着いて行くって言ったのに置いてったお前らをいまだに許してねーからな? 本来なら仲裁する権利もねーんだぞ?」

「一度許したら永遠に集ってくるからダメです。前回で懲りてるからもう許しません。まず対価を支払うなりなんなりしてくださいよ」

「国が無くなってから貨幣が吹っ飛んだのは知ってるだろ?」

「今は物々交換が主流ですね。だからってタダで食おう、飲もうって魂胆が明け透けですって」

「チッ、一度帰ってからオメェは融通が利かなくなったな」

「そこは人生経験を学んだことで成長したと受け取ってくれたら嬉しいです。それよりこっちのモンスターはどんなもんです?」

「魔素での払いが可能つっても、俺らはそれを見極める目がねぇぞ?」

「なのでこれを置いときます」

「そいつは?」

「俺のガチャです。魔石ガチャ、まぁ大したことのないスキルの獲得ができるのと、魔素を直接数値として表記して入手できるものとなります。今度これを教会を通じて流行らそうと思ってんですよね。支払いは今まで通り物々交換。でも生産者じゃない狩人向けにこいつをって感じです」

「分かってんじゃねぇか。が、問題はラインナップだ」

「ビールをつけろってんでしょ? お値段は気持ち高めに設定しときます」

「ファッピー!」

 シグルドさんは苛立ちを発散させた。
 物理的に見えないが、間違いなく失った方の利き腕で中指を立てられてる事だろう。

 いや、これはしょうがない措置なんですって。
 だってあんた許可したら昼間っから酔っ払うでしょ?
 誰が介護すると思ってんですか。
 さっさとシュライフさんに謝って許してもらうのが筋でしょ?
 こんなところに入り浸ってないで他の客にウザ絡みしてる暇があったら行動しろよと言いたい。

「悪いな、阿久津。この人テコでも動かないからどうしたもんかと思っていたんだ」

「三上も用心棒なんだから、少しは腕っぷし以外の対応力つけた方がいいぜ?」

「そうは言うがな」

 シグルドさんは腕っぷし以外に口が達者なのもあって力ずくではびくともしない。
 せっかく呼び込んだ常連も、シグルドさんに怯えて次も顔を出すか怪しい。
 なんとかしてどかしてくれ。もとい、引き取ってくれと頼まれたので出張って来た。そのついでに例の獣人の女の子のお話をしたら、意外と食いついたって感じだ。

「お疲れ様、阿久津君。シグルドさんもお酒の目処がついたのならたまには運動をしてきたらどうです?」

 坂下さんが厨房から出てきて挨拶をした。
 シグルドさんが、俺の設置した任意設定ガチャのラインナップを舐め回すように見た後に重い腰を上げる。
 どうやら仕事をしてくれるらしい。

「必要なのは魔石で合ってるか? モンスターの死体の方はどうする?」

「坂下さんの方に回せば食材にしてくれるさ」

「何でもかんでもは無理よ? でも持ってきてくれた方が嬉しいわ。酒の肴くらいなら提供出来るかも」

「そいつは僥倖だ。問題が一つあるとすりゃ、俺に解体の知識がないくらいだな。無傷で殺すのは得意なんだが、枝肉にする知識がねぇ」

「普通はそんな知識知らなくてもいいものよ。でもそうね、これからそれで食べて行くなら覚えた方がいいわね。解体講座でよければ私が請け負うわよ?」

「嬢ちゃんに出来るのか?」

「私の天性はシェフよ? 食材を前にしたらどの部位が食材に向くかを瞬時に判断できるわ」

「お、じゃあ頼むわ」

「坂下さん、俺も解体習っていいか?」

「三上君も? 全然大丈夫だけど。農業をやってるんじゃなかったかしら?」

「別にあれだけってわけじゃないよ。俺は自分に足りないものが何かを自分でもよく分かってないんだ。そういう理由じゃだめかい?」

「ダメじゃないけど……まぁいいわ。ビシバシ鍛えて行くからそのつもりでね?」

 こうして三上とシグルドさんは坂下さんの元で解体業者の一歩を歩き始めた。
 腕っぷしだけ強くても、その先を知ってるかどうかで穀潰しから脱却できる。
 シグルドさんにとっては新しい生き方の一つ。
 三上の方はまだなりたい職業を決め兼ねてるって感じだな。

「あの二人、見て居て微笑ましいわね」

 委員長が坂下さんと三上を見てそんな言葉を送っていた。

「さっそく尻に引かれてるけどね」

「三上ってリーダーシップありそうだけど、得意分野が狭いからなぁ」

「誰だってそうじゃない?」

 俺の愚痴に委員長が返す。
 なんでも知ってそうな委員長の言葉とは思えない。

「そうなのか?」

「そうよ。私だって知識は頭にあれど、全てを理解してるわけではないのよ。ただ文脈を知ってるだけなのと、体験して理解することは大きく異なるわ。阿久津君だって、タウロス族の集落で拳法を体験したでしょ? 知識で知ってる憲法と、実際に学んだ憲法は違うものだったんじゃない?」

 その返しでハッとする。
 全くもってその通りだ。
 動画や漫画で見ただけの拳法の型。
 けど実際は、相手の攻撃を逸らす、潜り込んで打撃を叩き込む。型の一つ一つに、その動作が練り込まれていると体験した気づきがある。
 見て知ったからと全知全能になったわけじゃないのだ。

「目から鱗が落ちた気分だよ」

「誰だって得意分野は異なるわ。阿久津君は阿久津君の得意なことを伸ばしていけばいいのよ」

「ありがとう、委員長」

「どういたしまして」

 遠くで、俺と委員長の会話に入りたそうにしてる杜若さん。
 もじもじソワソワしてる姿を見ながら、薫が大きなため息を付く。そして意を決して語りかけてきた。

「あの、阿久津さん。後でお時間大丈夫ですか?」

「うん? 全然大丈夫だけど」

「でしたら私のラウンジにお一人で来てください」

「分かった」

 あの緊張っぷり。いよいよ何かイベントが起きるのか?

「頑張りなさいよ?」

「これ以上時間かけるようだったらもう擁護できないからね?」

「ごめんなさい、由乃、冴島さん」

 俺に内緒で何か企んでる三人。
 俺は新しいレシピを考えるフリをしながら調理場へと引っ込んだ。あんまり突っ込んで聞くもんじゃないし、ここは男らしく堂々と受け取るべきだよなと覚悟を決めておこう。

 愛の告白とも限らないしな。
 




 
 
 
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