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五章

23_異星からの侵略者

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 ──side???


「ここか、我が眷属達が次に暮らす為の植民地の候補先というのは」

「は。大した戦力はおらず、土地の広大さはかなりのモノ。更地にする手間も省けるでしょう」

 荒野の中心には、虫の甲殻を身に纏う人形の生物が独自の言語で語らっている。
 一方は蜂。もう一方は蜘蛛だ。
 ヴヴヴヴ、と不快な羽音を鳴らし、周囲に音のバリアを張っての密会である。

 蜂の姿を模した女は妖艶に笑う。
 蜘蛛の姿をした女は、少し注意深く周辺を探った。

「少し強いのがいるな」

「大した強さではありますまい」

「所詮は進化前の人形種族。獣混ざりも居るが、龍が少し厄介か?」

「所詮は生まれついての肉体スペックの上にあぐらをかいただけの老害にございます。タリア様が気にするほどではありますまい。全てはわたくし、シェイビーにお任せを」

「分かった。妾は船団が来るまで少し散歩をしてくるとしよう」

「あまりやりすぎないようにお願いします」

 シェイビーは恭しく頭を下げながら申告する。
 タリアは片手を上げながら、言葉を発さず歩るきだした。


 遠い星、故郷シャッガイを飛び出した王女タリア。
 彼女は惑星に溢れすぎた同胞の受け入れ先を探すべく、わずかな部下を率いて単身乗り込んでいた。
 王位継承権が低い38番目の王女であるタリアは、功績稼ぎと自分が国を建てれば実質王女様よね? という短絡的思考で多惑星に侵略戦争を仕掛けている。

 実際この橋に降り立つ前に二つの惑星を支配し、統括した。
 それでも同胞の数がどうしても溢れるので、さらなる地を求めた。そこでやってきたのが雄介達のいる世界だった。

 そこに降り立つ大型の鳥。
 ライトリーだ。
 タリアの気配を察知して、急遽立ち塞がったのである。

「貴様、危険な気配を持っているな? 悪いがこれ以上先に歩ませることは出来ない。ここで死んでもらおうか」

「あら? あなたがお相手してくれるの?」

 タリアは嬉しそうに背中から伸びる六本の足を広げる。
 華奢な体に膨らんだお腹。人型を維持してるのは辛うじて上半身だけだ。
 歪な肉体を持つ蟲の女王は、ライトリーを見据え、骨のありそうな餌だと興味を示した。

「面妖な」

「失礼しちゃうわ。女性に向かって」

「生憎と、蟲に興奮する趣味を持っておらんのでな」

 鳥にとって、蟲とは餌だ。
 これほどの規模の蟲はムーンスレイ帝国領ではジャイアントワームくらいか。それとは種類が大きく異なるが、やる事は同じ。
 弱らせて食う。それがライトリーの常套手段であった。

 ライトリーの体が大きく膨れ上がった。
 バチバチとその肉体から雷光が迸る。

「まぁ、綺麗よ。剥製にして持って帰りたいわ」

「笑止!」

 舌舐めずりをして見惚れるタリアに、ライトリーはその身を雷に変えてタリアに肉薄した。

 バヂッッッ!!

 生物である以上、体内に水分は通る。
 そこに電気を走らせれば、一瞬で沸騰して黒焦げになるのが道理。だが相手の基礎部分は蟲だ。
 全身は潜らせず、蹴りだけに留めたのは正解だった。

「捕まえたわ」

 雷とかしたライトリーの足を絡め取っていたのは同様に霊化した蜘蛛の糸。
 それを器用に背中から伸ばした手足で操って、左足を捉えていた。

 完全に失念していた。
 相手も同様のことができることを。
 久しく強者との試合ができないことが災いしたのだ。

「あら、左足しかくれないのね?」

「我はここで死ねんのでな。それは挨拶がわりにくれてやる。背後には気をつけるのだな」

 ライトリーは即座にその場から急上昇し、北の方へ光の速さで跳びだった。
 あまり期待してなかったが、戦力が一気に膨らんだ時は目を見張ったものだ。
 もしかしたらタリアの知らない戦力向上方法があるのかもしれない。そう思うとますますやり甲斐が湧くものだ。

 そんな時に、人間の二人組を見つけた。
 男と女の二人組。番だろうか? 初々しい距離感で歩いている。
 タリアにとっては人類も食事に分類される。
 先ほどの鳥に比べれば随分と弱いが、軽くつまめるオヤツのようなものだ。
 木材でできた何かを引いて歩く。
 そんな二人の前へ音もなく現れて脅かした。

「はぁい? 仲が良さそうで妬けちゃうわ。悔しいから死になさい」

 タリアは軽く手で触れるだけであっけなく死ぬ人類に手を伸ばした。


 ◇◆◇


 ──side阿久津雄介


 その日、俺は杜若さんから正式にお付き合いしませんか? と告白を受けていた。

「俺なんかでいいの?」

「なんかだなんて……阿久津さんはご自身で思っているより競争率が高いんですよ?」

「全然知らなかった」

「由乃や冴島さんに抑えてもらってたんです。ですがこれからは楽させてあげられます」

「だからなんかここ数日俺によそよそしかったのか」

「二人にはご心配をかけさせてしまいました」

「そうだな」

 お互いに笑いつつ、一緒に旅してきた二人の事ばかり話し合う。せっかく告白してきてくれたのに、俺ってば自分の事も相手のことも二の次でダメダメだ。

「あの」

「そのさ」

 同じタイミングで会話を始めようとして、同時に言葉を失ってからの譲り合いは付き合いたてあるあるだろ?
 それからたっぷり時間をかけて、苗字呼びはやめて名前呼びをしようということになった。

 もちろんすんなり行ったりはしないぞ?
 何回も無駄に聞いたし、妙に呼ばれなれなくてもどかしい気持ちにもなったさ。

「みゆり……さん?」

「そこは敬称略をとっていただけると」

「みゆり」

「……はい、雄介さん」

「俺だけさん付けなのかよぉ~」

「これはわたくしのアイデンティティですのよ?」

「確かに、今まではそうだった。けど今日からは変えていかなきゃならない。そうだろ、みゆり」

「──!」

 会話に混ぜて名前を呼ばれたのが相当に破壊力が高かったのか、杜若さん、もといみゆりはその場で座り込むと身悶えた。
 今からこれじゃあ、この先も牛歩じゃね? と思わなくもない。
 この甘酸っぱい空気を吸ったり吐いたりできるのは今のうちだけなのだ。

「腰、腰が抜けてしまったので一人で立てません」

「そういう時こそ頼ってくれよ、はい」

 手を差し伸べる。
 握り返された手は温かく、緊張している脈拍がそのまま伝わる程だった。
 自分でも緊張していたのに、相手が自分以上に緊張してると、逆に冷静になれるもんだな。

「雄介さんの手、意外とゴツゴツしてるんですね。男性の手って感じです」

「なにそれ」

 なにそれ。自分じゃ全く気にしたこともない男女の差を、握った指の柔らかさで実感する。
 女子ってこんなに柔らかくてもちゃんと武器持てるんだから不思議だよな。
 一緒に冒険して、戦ってきたのを見てきている。
 なんだったら俺よりよっぽど勇敢に戦うのだ、彼女は。

「気にしたことなかったや」

「わたくしの方は、見ての通り弱々しくて」

「そこを競わなくてもいいでしょ」

「気にされませんか?」

「全然。ていうか、俺だって正直戦闘とかさっぱりよ? 多少武術は齧ったけど、プロの人から見たら全然だし」

「それを言ったらわたくしだって、理容師の道は長く険しいと痛感しております」

「うん、俺たちはそういう意味でそっくりだ」

「そっくり、ですか?」

「そう。自分がなにもできないって分かってるからこそ、あれもこれも欲しがる。世の中の人はそれを極めるのにそれこそ数十年かけてるのに、俺たちときたら色んなものを同時に求めてるじゃん?」

「確かに」

 俺は料理に限らず、いろんな経験を得ていろんな仕事に興味を示す。みゆりは、美容師以外にもお店の経営、それ以外にも自分で化粧品まで一から作り上げようとしてる。
 それができる環境というのもあるけど、普通はそこまで求めない。
 どれか一つできたら満足する。
 けど俺も彼女も欲張りだからあれもこれも欲しくなっちゃうのだ。
 器用貧乏なんだろうな。
 でも求める事は悪くない。
 現に教わってる時は楽しいのだ。

 彼女も楽しんでる。
 それを引き止める真似はできないって。

 告白の場所は誰もいない荒野でした。
 上空に何か飛んでった気がする。
 流星かな?
 俺たちのおつきあいを祝福してくれたのかも! だなんて能天気なことを言い合っていたら、なんかキモい蟲が飛んできた。
 

「ギチギチギチ! ギシャァアアア!!」

「雄介さん!」

 こんなモンスター居たっけ?
 慌てるみゆりを後ろに下げ、俺は齧った程度の功夫で相手する。
 飛んできた前足(?)を猫のように丸めた手で受け流し、絡め取って弾いた。

「ギィギ!?」

 なんかめっちゃ驚かれてる。
 雑魚に見えたんだろうな。
 彼女にカッコいい姿を見せるべく、俺はアイテムボックスから例のバンデッドⅡ型を取り出し、乗り込んだ。
 



 
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