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五章

閑話 交差する思惑

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「ギチギチィ!!?」

「フーハハハハ! 見よ、この勇姿! 俺の操るバンデッドは伊達じゃないことをお見せしよう!」

 みゆりが屋台の裏に隠れたのを確認し、両手を広げるように威圧する。
 黒い蟲が跳躍した。
 狙いは屋台、みゆりか。
 させると思っているのか?

「素材変形! スチールソード!」

 その場で大地に手をつき、地面から剣上の山を無視に対して放つ。武器にするんじゃないのかって?
 あんな小さい的に当てられるわけないだろ。常識で考えろよ。
 その上素早い。
 だからこっちには距離を無視する攻撃手段があるってわからせてやればいいんだ。

 それなりに知性があるのだろう。
 弱いみゆりを真っ先に狙ったのもある。
 が、それが愚策だったな。
 俺だけ狙ってりゃいいのに、みゆりを狙えば俺がどんな行動に出るのかわかっちゃいないんだ。

 俺、昔から黒くてすばしっこいやつが嫌いなんだよね。
 空を飛んだりはしないけど、似てるしムカつくから潰す。
 それは確定した。

「ギシャァアアア!!」

「膨らんだ!?」

 蟲は咆哮を上げると、その肉体を何倍にも膨らませた。
 気持ち悪っ。
 やっぱり蟲は好きじゃねーわ。
 それに蜘蛛の巣? 俺の部屋に見つけた時はマジで殺意湧くし。益虫だなんだと言ったところでムカつくもんはムカつくし、蜘蛛用の殺虫剤が売られてる時点で蜘蛛をむかついてるのは俺だけじゃないって証拠だよ。

「オラッ、こいつでしんどけ! 冷凍ビーム!」

 蟲は焼いても切っても動き続けるタフネスを持つ。
 そこで悩んだ人間が考えついた処刑法が凍らせて殺す作戦だ。
 正確には機能停止レベルだが、すばしっこくて鬱陶しい相手が沈黙するので有効的だとされている。

「ギシャァアアア!!?」

 蜘蛛はその場で凍りつき、汚いオブジェが出来上がった。
 討伐完了だな!

 バンデッドをアイテムボックスに突っ込んで、デートの続きを再会する。
 念の為、このオブジェは夏目に知らせておく。
 あいつなら適当に解剖するなりなんなりするだろう。
 電話で連絡をつけた後、例のモンスター捕獲ボールで転送する。

 ふー、一仕事した後の飯は美味いぜ。
 みゆりとはその日いちゃつきながらお互いの進路の相談をしあった。


 





 ──sideシェイビー


 いつまで経っても連絡をよこさぬタリア女王に対して私は痺れを切らせていた。

「遅い! あの方は御身が一体どれほど重要な役割に準じているかわかっておいででないのだ」

「そう苛立ちを募らせるものではない、シェイビー卿」

「ですがクワーガ伯」

 クワガタの立派なハサミを両肩から生やした男が、スーツのように黒光りした骨格を見せつけながら宥めてくる。

 クワーガは戦闘メイドの私と違い、本格的な騎士の称号を持つ戦士だ。
 戦闘種族故に高いステータスを持つ私たちが束になっても敵わない力を有している。

「良い良い、遊びたい盛りなのだろう。たまの外出だ、遊ばせてやれ。それと、それなりに遊べる個体が居るようだ。おてんば姫が食いつく程度にはな」

「我々でも手を焼く相手がいると?」

「手を焼きはせぬだろうが、早いところ駆除しておいた法がいいだろう事は確かよ。人間は弱いが、群れると突拍子もない進化をする。所詮はこけおどしに過ぎぬが、それでも面倒だ」

 クワーガ伯は狡猾に表情を歪める。
 戦場でもないのにすっかり戦士の顔だ。
 タリア様の心配などまるでしていない。
 自分が暴れればそれでいいという自己中心的な考え。

 それはタリア様も同じか。
 内心独りごちる。

「だからと言って、無視することもできますまい。貴方様は平気でしょうが、彼の方はそれなりに兵からの人気が高い。士気向上のためにもいてくれた方がいいのです」

「お主が困るだけではないのか? シェイビー卿」

「お戯を」

「未だ本心を隠しているつもりか? はっきりと気持ちを伝えればいいものを」

「公務に私情を挟めば軍は統率を失います」

「そんなものか」

「そんなものです!」

 私は内心を言い当てられてひどく動揺していた。
 軍を動かすためにタリア様が必要というのはもちろん嘘じゃない。が、本心はまた別にあるのだ。

 気分が優れないからと退室し、夜風にあたった。

「ああ、一体貴方様はどこに行かれてしまったというのですか? 少しくらい、帰りを待つ者の気持ちも考えて欲しいものです」

 独り言は夜の闇に溶け、夜風が甲殻に覆われた肌を撫でた。









 ──side夏目樹貴


「こいつは面白い生態系をしているなぁ」

 阿久津から連絡が回ってきた時は何事かと思ったが、手に入れた素体を目にして一目で気に入った。

「こいつは、シャンか?」

「知ってるんですか?」

 共同研究者のグーラが目を細めた。
 シャンとはあまり聞かない名だ。

「交戦的な種族でな、共食いしながら眷属を増やし、最終的には星を食い潰す程にその数を増やすと言われてる寄生生物だよ。本体はこの肉体の脳に宿る小さな蟲だが……ほら、こいつだ」

 顕微鏡でようやく見えるサイズの虫が宿主と聞いて驚く。

「この肉体は?」

「お前達が好むロボット? みたいなものだな。丁度その星を支配していた種族の強度の強い種族の肉体を張り合わせて着込んでいる。こいつらは非常に悪戯好きでな。興味本位で星一つを滅ぼす」

「迷惑な連中だな」

「まったくだ。まぁ俺も人のことは言えないが」

 ククッ、と過去のことを思い出して自嘲する。
 グーラも超絶自己主義だったもんなぁ、と思い返した。

「それよりも、コレが現れた時点で他にも居るって推定した法がいいんだよな?」

「少なく見積もっても1000億は居るだろうな。このサイズだから場所もとらん」

「いっそ亜空間に閉じ込めます?」

「その方がいいだろう。百害あって一利なし、だ。昔我らの種族とも小競り合いをして少なくない被害を出したものよ」

「じゃあ、封印ですね。うちに連中にも見つけ次第送ってもらうように言っときますわ」

「別に強くもないが、厄介なのはどんな生物にも寄生できる力だな。操ってるロボットを壊したってパイロットはピンピンしてるものだろう?」

「なんかステータスで弾けないもんかね?」

「例のガチャの勇者、阿久津と言ったか?」

「阿久津がどうかしましたか?」

「あの男に通用しなかったのなら、外付けのステータスでも十分対処できるのではないかと考えてな」

「ああ、そう言えば。普通に倒して持ってきましたからね、あいつ」

「そう考えたら別に無理して対処する必要もない気がしてきたな」

「現地民は大打撃でしょうが」

「俺は故郷に帰れればそれでいいが?」

「こいつ……」

 グーラは協力的になってくれたが、根本的な部分は何も変わってないので、一生分かりあうことはないだろうな。
 共同研究者としてはめちゃくちゃ頼りになるのだが、死生観とか倫理観とか、そういうもんが根本的に違うのだ。

 会話ができるようになっただけマシと捉えるべきか否か。
 タイムマシンの開発はまだまだ難航しそうだ。

 それとたまに差し入れに来る本厄災四龍のアクエリアとイチャつきながら研究に打ち込む姿は非常に目に毒だ。

 なんで俺には彼女ができないのだろうと真剣に悩んだが、どれだけ考えても幼馴染の三上のせいに思えてならないので考えるのをやめた。

 あとから坂下さんと付き合い始めたって聞いた時は、夜中に壁殴りを始めるところだったのは墓まで持っていく秘密である。

 あーちくしょう! 俺も彼女欲しい!
 
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