【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

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1章 お爺ちゃんとVR

イベント『滅亡を呼び起こす災獣』8 

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 ■秋人視点

 妻からの情報をもらった僕は、ポーション制作を切り上げて臨時本部へと戻っていた。


「今戻った、進捗は?」

「オクト、ちょうど良かったわ。今お父さんが!」


 またお義父さん絡みか。今度は一体どんな爆弾を持って来たんだ?
 慌てふためく妻をあやし、説明を聞く。
 未だ混乱気味のパープルは、未知の力を前に狼狽切っていた。
 その情報とは、つい先ほどワールドアナウンスによって開示されたこの街が持つ能力。レイド戦に深く関わるこの能力を、このタイミングで発生させたあの人の運命力はどれほど強力なのだろう。


「分かった。後は僕が引き継ぐ、君は情報が入り次第知らせてくれ。正念場だ、乗り越えるぞ!」

「ええ!」


 力強い妻の言葉を受け、向き直ったその場には二つの能力とエネルギーの残量が示されていた。
 それが『電磁バリア』と『古代の光』という相手のバフを全部引き剥がす強力なもの。どちらも無駄打ちはできない。戦闘組と連携しなければ正気を逃してしまうだろう。

 僕は『漆黒の帝』のクランマスターである金狼氏に連絡を取り付けた。


[オクト:突然の連絡すまない。状況が変わって僕が作戦指揮を統括することになった。すまないが協力してもらえないか?」

[金狼:分かった。お前が出て来たということは相当な事態なのだろう。それと丁度今親父殿からとんでもない爆弾発言を聞かされた。多分それ系列だと思っていいな」


 そういえば彼の父親もお義父さん繋がりだったか。
 これは説明する手間が省けたな。
 いったいあの人は何手先まで読んで行動しているのやら。


[オクト:概ねあっている。うちの義父がクエストを踏み抜いたのは確認しているね?]

[金狼:ああ、掲示板でもパニックになってたぜ。誰だそれって。うちの管轄でも大絶叫だ。なんてったってこのイベントの仕掛け人だからな」

[オクト:その義父からとても強力だが扱いづらい能力を頂いた。それがレイドからの直接攻撃をはじき返すバリアとレイドの防御力を無効化する超強力なデバフだ。どちらも膨大なエネルギーを使うし、使える回数が限られている。そちらに戦闘指揮は任せたが、ここからは連携が必要と判断した]

[金狼:そいつは確かに今一番欲しい能力だ。あのクソデカレイド、防御姿勢を取ったらどんな武器でもダメージが一切入らなくなる。そんで防御中は街の中のモブ共が活性化しやがる。それとそのバフ剥がし、多分だが街に被害が出たら使えない類だな?]

[オクト:おそらくそうだろう。でなければバリアなど必要ないはずだ]

[金狼:了解した。こちらでなるべくそっちにダメージが行かないように調整する。そっちでエネルギーの残量とバリアの回数を逐一教えてくれ!]

[オクト:了解した]


 コールは繋げたまま、戦闘に移行する。
 こちらもパネルを見やり、バリア一回につきどれほどのエネルギーを使うのかの計算に移る。


 そこで何度かダメージを受けることによって理解したのは一度の防衛に対して30%の消費であること、そして60%では古代の光と呼ばれる超強力デバフが発動しないことを知る。
 予想以上に手詰まりな状況。あの妻が投げ出したくなるのもわかる気がした。
 奥歯を噛みしめ、レイドからの攻撃を防ぎ切る。
 レイドからの攻撃はターン毎に決まった行動後に行われることは金狼氏とのやり取りで分かっていた。
 残りエネルギーは40%。お義父さんの導きで封印した個体からの補充も底を突きそうだ。次防ぐか、デバフを打ち込むかの瀬戸際、金狼氏からの連絡が来る。


[金狼:今だ精錬の、放てぇええええええ!!!]

[オクト:古代の光全力照射!!! もうバリアに回す分のエネルギーは残ってない、これで決めてくれ!!]

[金狼:その為の俺達だ! いくぜ野郎共、総力戦だァーーッ!! 後先考えずにぶっ飛ばせぇえええ!!!]


 力強い声が金狼氏を中心に唸りを上げる!
 順番に補給を受け取りに来る人員、怪我をして倒れ込む人々。
 街の噴水が突如浮き上がり、変形して光を放ったと騒ぎ出す人々。その噂に踊らされて掲示板に書き込む人々。
 何もかもめちゃくちゃになったが、みんなの気持ちは一つになっていた。

 こんなギミックが始まりの街に眠っていた事。
 それを今まで無視し続けていた悔しさと、無念が戦闘行動に当たっていた全てのプレイヤーは思う。
 始めたばかりの新人に負けてられるかと己の相棒の武器を強く握りしめ、鍛え上げたスキルと共に目の前の大型レイドボスを倒す事で贖ってやると。
 
 みんながみんな一丸となって事に当たっている。
 しぶとく足掻く大型レイドボス。予測された行動にそれぞれのチームが対処し、隙をついて攻撃が繰り出される。
 今までのカスダメージが嘘のようにクリティカルを生み出し、そして一斉攻撃によって初めてその膨大と思えたゲージが目に見えて減っていく状態に興奮すら覚えていた。
 同時にこのチャンスを逃せばもう倒すチャンスを失うとさえ。
 現状で最前線の武器を扱っても与えられるダメージは250が限度。序盤の武器では10か20入れば良い方だろう。

 それが今じゃ100倍の25000という桁が叩き出せている。それでもゲージの減少は数ミリで嫌になるが、それを自らの武器が与えていると理解すれば自ずとやる気は出てくるものだ。

 ついにその時はやってきた。
 減り続ける残存ダメージと共に徐々に本来のカスダメージに戻りつつある現状に焦りを生みながらも『漆黒の帝』を始め、参戦プレイヤーは諦めることなく武器をふるい、ようやく成し遂げる。

 災獣ウロボロスは生まれた時と同様に天に向かって大きく伸びると、その力を弛緩させて足元から徐々に霧のように霧散した。
 その光景を拝みながら、あるものは大の字に寝転び天を見上げ、またあるものは仲のいい友人たちに抱きつく。
 掲示板に実況する者もいれば、時間オーバーで強制ログアウトさせられる人もいた。

 何はともあれ長い戦いに終止符が打たれたのだと理解したのはワールドアナウンスを聞いてから。そこに並べられた情報群。
 圧倒的MVPに浮かぶ人物名には見覚えがありすぎた。
 AWOでは討伐MVPの他に、各種いろんな分野でMVPが参照される。納得いかない者や、憤慨する者も多い中、それに深く関わってきた人物は「まぁそうだろうな」と頷く他ない。


 [イベント00010:滅亡を呼び起こす災獣ウロボロス]
 発見者:アキカゼ・ハヤテ
 イベント達成MVP:アキカゼ・ハヤテ
 ギミック達成MVP:アキカゼ・ハヤテ
 古代イベント達成MVP:アキカゼ・ハヤテ
 討伐MVP:金狼
 統括MVP:パープル
 ■以上の6名には各ゲーム内通貨、およびNPCからの好感度上昇の恩恵が与えられる


 最大ダメージ:金狼
 ファーストアタック:ギン
 ラストアタック:ミンゴス
 ■以上の三名には称号『災獣を討滅せし者』が贈られる


 以下ダメージランキング
 1位~10位:特殊合金ヒヒイロカネ×100
 11位~100位:特殊合金ヒヒイロカネ×50
 101位~1000位:特殊合金ヒヒイロカネ×10
 1001位~ :特殊合金ヒヒイロカネ×1、特殊合金ダークマター×100、特殊合金アダマンタイト×100
 &ゲーム内通貨がランキングに応じて与えられる
 
 


「ぶはぁ、しんどい」


 作戦参謀室で一人大きく尻餅をつく。
 流れ出たアナウンスに勝利の瞬間まで止めていた呼吸を吐き出し、ようやく凌ぎ切ったことに今さらながら感動が全身を駆け巡る。


「お疲れ様、オクト」


 声をかけてきたのは愛する妻であるパープル。
 彼女の顔も見るからに疲れ切っていた。
 言いたいことはたくさんある、けれど今はそれを論じる時じゃない。


「君こそお疲れ様。なんとかイベント勝てたね。懐はだいぶダメージでかいけど、前に進む道は開けた。ここからが頑張り時だよ」

「ええ。最後の最後で私はダメね。あなたに頼ってばかり。これじゃあサブリーダー失格かしら?」


 冗談にも程がある。今までここを支えてきた彼女の本音に、僕はかぶりを振った。例え他の誰かがそうだと頷いても、僕はそれを否定しちゃいけない。お義父さんなら絶対にしないだろうし、その背を追いかける僕もそれに倣う。


「何を言う。こんなときだからこそ頼ってもらえて男冥利に尽きるってもんさ」

「ふふ、お父さんと同じこと言ってる」


 妻は薄く笑う。それに釣られて僕も笑った。


「そうだね、僕の憧れだ」


 今でも。いや、今はより強く焦がれている。
 それに比べてなんて自分は小さいのだろうと身震いした。
 今回お義父さんを引き取ろうと決めたのは僕だった。
 お義父さんに今の自分を見てもらって、それで認めてもらおうと気を逸らせた。その結果がこれだ。
 逆に返しきれない恩を貰うことになってしまった。
 得意のゲームだからと僕はどこかで天狗になっていたのかも知れない。
 でも違うんだな。できる男に境遇は関係ない。
 どんな場所でも結果を出すのがお義父さんなんだ。


「オクト、お父さんを引き取るって話、そろそろ本人に伝えた方がいいんじゃない? お母さんには話を通してあるけど……」

「僕から言うよ。美咲も懐いてくれているし、この世界にも居場所を得た。今回は偶然が折り重なって居座ってもらってるけど、僕からちゃんと話したい」

「そうね」


 妻の言葉の頷き、僕達は現実に帰る。
 ゲーム内の決戦は無事終了したけど、現実の決戦はこれからだ。緊張からか、より胸が高鳴る気がした。
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