120 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き
102.お爺ちゃんと孫④
しおりを挟む戦闘フィールドに入った瞬間、上空から風を感じた。
フィールドの広さ自体は前と変わらないものの、エネミーの姿はそこになく、マリンは見上げるように上空を見つめている。
すぐに異変に気づいた金狼氏が声を上げた。
「嬢ちゃん、今すぐに既知の情報との差異を教えろ! 出来るだけ細かく」
戦闘態勢を取りながらも同じように上を見据えて唸り声を上げる。ケンタ君は不安顔。対してジキンさんはキョトン顔だ。
ちょっと、そこ。余裕持ちすぎですよ?
「う、うん。まず私の知ってる情報では、エネミーのタイプはスワンプマン型だったの。だからフィールドに入った時点で眼前に居た。でも、今はいない。それが今回一番大きな差異」
「天井の高さは?」
「ここまで高くなかった」
「チッ、空が実装されてフィールドもそちら側に寄せられたか? 爺さん、空に登って敵状視察は可能か?」
「ああ、そう言うのは任せてくれ」
「現状で空に登れるのはあんただけだ。それと“精錬の”ッ、後方サポートは任せて良いんだよな?」
「勿論さ。僕は今回脳筋だらけの君たちに合わせてヒーラーとして来ている。冷めてしまったが妻の調理も潤沢にある。素材も豊富に持ってきた。足りない分はその場で錬金して見せよう。生産だけで派生させた“85”のスキル群、特とお見せしようじゃないか」
「そりゃ心強いぜ。うちらの戦闘スタイルは基本的にLP、SP、STをバカ喰いする。根っこのEN回復は最優先事項だから俺も息子も道具袋は調理系しか入れてない」
「私は?」
「ケンタと一緒に臨機応変。削りは俺がやる。親父! 止めは任せるぞッ!」
「お前ら、僕に接待プレイをさせる気か?」
「バーカ、親父がそんなので喜ぶわけないことなんて俺ら息子連中は全員が“よく知っている”だから俺らは前座だ。締めはビシッと頼むぜ? いつものようにガツンと一発キツイの決めてくれや」
金狼氏がニヤリと笑いながらジキンさんに話しかける。
ジキンさんも嬉しいのだろう。悪態をつきながらもそれに応じた。
「バカ息子供が。無理だけはするなよ?」
「そう言うのは経験則でカバーする。ケンタはここで今すぐに成長しろ。嬢ちゃんもだ! 爺さんは敵の形状と行動パターンを教えてくれるだけで良い。周囲への指示はこっちで回す」
「分かった」
やはりリーダーだな。
生産のリーダーと戦闘のリーダーでは状況判断力が大きく違うが、どちらも同じように頼もしい。
ジキンさんもどこか緊張を押し殺した面持ちで武器を構えている。では私も仕事をしますか。
情報収集はお家芸だからね。
「では私は上空へ行ってくる」
「お爺ちゃん、無理だけはしないで!」
「ああ、状況に応じて引き返すよ。マリンも周囲の大人を頼りなさい。オクト君は勿論だが、戦闘においては金狼氏も頼りになる。スタイルの違いこそあるが、得るものはあるはずだ」
「うん!」
孫娘は難しいよと否定顔をしつつも、言葉だけは従ってくれた。すぐにオクト君の元に近寄ると、守るように前に立ちはだかる。それからチラチラとジキン一家に目配せをしていた。
「お前ら、気合い入れて行けよぉ! 霊装発動! 『金の咆哮』!」
WAHOOOOOOOON!
真上に向かって全力ブレス。咆哮による振動でこちらまで震え上がりそうだ。
察するにエネミーにも通用する威圧スキルだろう。
細かい事までは把握しきれないが、初手に打ち込んだということはそう言う意味合いを持ちそうだ。
しかも“霊装”。戦闘補助での最上位。それを惜しげもなく使ってくれたことへの感謝を忘れては行けない.
「時は稼いだ! 爺さん、状況を頼んだ」
「任された!」
至れり尽くせりの状況に、道を覗き込もうとするワクワクを増加させる。私の足は空気を踏み込み、空へと駆け上がっていった。
そこで私が確認したものは……
大きなカラスを模した、薄い影の様なエネミーだった。
瞳の様な器官は無く、中央に位置する赤黒いコアの様なものが、あちこちに移動しながらこちらを“見た”。
拙い!
すぐに下に向けて加速したのと同時、取り込もうとその影が一斉に襲いかかって来た。
その場にとどまる影と、襲う影はどうやら別物の様で。
つまりはあの赤いコアが影の群体を率いてるのだと察する。
ここでスクリーンショットで場所を特定されるのは拙いな。
私は素早くパーティチャットを使うと、作戦本部に概要を伝えた。
『敵は影の群体。取り込んで操る可能性を秘めた物理無効の影の存在だ!』
2
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる