138 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き
119.お爺ちゃんと[一の試練]
しおりを挟むその空域は風速が速く、足元の雲が瞬きする間に様変わりする空間だった。
上から見る分には普通の空間ではあるのだが、スタート地点と思われる雲の層が分厚い、ゆっくり流れる場所に着いた瞬間に景色が変わった。
それを一言で表現するならコース。
スタート地点から複数の中継地点を通り、ゴールへ。
私はいつも通り『スカイウォーク』も用いて雲の上を歩く。
時たま足元に雲がないことがほとんどだからだ。
しかしここにきて『重力無視』の効果が強く現れる。
それが風の力に抗えない事。
地上しか歩けない時はとても重宝していたが、それが空の上で牙を向いてきた。
鳥が上昇気流に乗って空を飛ぶ様に、目に見えない気流が肌を通して迫ってくる。
それが面で圧迫されるとスタート地点まで簡単に押し出されてしまうのだ。
これが試練か!
散歩気分でいくと吹き飛ばされそうだ。
だが仕掛けを知って仕舞えば対処法はあった。
ここで要約使えると知った『影踏み』の効果。
ここは運良く雲の上。遮蔽物が少ない為、真後ろに背負った太陽から伸びる影を踏み込む様にして耐えると、突風をやり過ごせた。イケる!
強気になった私は予兆となる風が来る前に中継地点にたどり着き、次のコースを睨んだ。
と、その前に。
私は鍵付きのチャットルームを開いて彼らを誘う。
今までの会話は基本的に聞き専だった。
なので私は通常会話を通して参加。彼らがそれの回答をチャットでやり取りする流れだ。
しかし現在は位置も遠く、こちらの声が聞こえないので致し方ない処置である。
<アキカゼ・ハヤテさんがルームを設定しました>
<ムッコロさんを招待しました>
<バン・ゴハンさんを招待しました>
<ムッコロさんが入室しました>
<バン・ゴハンさんが入室しました>
アキカゼ・ハヤテ:ムッコロ氏、今のルート撮っててくれたかい?
ムッコロ:バッチリ保存させていただきましたよ。しかし一本道だった様で
バン・ゴハン:もう終わったんですか?
アキカゼ・ハヤテ:いやいや、まだ中継地点だよ。どうやらスタート地点に立ってようやくコースが見えてくる仕掛けの様だ。君たちは来なくて正解だな。
バン・ゴハン:なんでだ?
アキカゼ・ハヤテ:障害物は風だ。風に乗るのが得意分野の君たちといえど、突風には弱いだろう?
ムッコロ:確かに。途中立ち止まったり押し戻されたりしてたのはやはり?
アキカゼ・ハヤテ:そうだ。しかも面でぶつかってくる。飛び越えようとしても無駄だと知ったのは少し前だよ
バン・ゴハン:うぇ、それは厄介な。他のルートはないのか?
アキカゼ・ハヤテ:残念ながらコースアウトしたら地上まで真っ逆さまだ。それは悪手だね
ムッコロ:おババ様の時から嫌な予感してましたけど、フィールドそのものが嫌がらせの見本市みたいですね
アキカゼ・ハヤテ:言い得て妙だね。まぁ、こちらはやれる範囲でやらせてもらうさ。君たちはマッピングを頼むよ? ランダムでこっちきた人に伝わる様な、遠回しに初見殺しだとわかる様なマークでもつけてくれるとありがたいね
ムッコロ:もうドクロマークでいいんじゃないですか?
アキカゼ・ハヤテ:そうだね、後は竜巻のマークも入れてくれ
バン・ゴハン:オッケー
楽しい語らいを終え、私は次のコースへと目をやる。
っと、ENが減ってきたな。出がけに買った娘の全力メニューをパク付き、次のルートへと歩き始める。
そこでさっきの伏線を回収する様に、突風以外にも悪意あるミニ竜巻の様なものがルートを行ったり来たりしているのを確認する。
ホント、意地が悪いんだから。
でも、実に遣り甲斐がある。
コースアウトしたら風や雲が一切ない場所に送られるのは実質地上に戻るのに一番の近道ではあると思うが、問題はどこに落ちるかなんだよね。知ってる場所なら良いんだけど、明らかに結構な距離を聖獣様は進まれた。何せゴハン氏を置いていくほどだ。
サードウィルは登録したが、私はあまり詳しくないんだよねあの場所。運良く街に落ちれば良いけど、それ以外のフィールドだったら命の危険しかない。
やっぱり落ちるのは無しだな。
覚悟を決めて前へと進む。突風はやり過ごせるのだが、ミニ竜巻は風の回転方向が違うことに気がついた。
つまり、コースアウト狙いのトラップか!
しかし一度抜けた後はすぐに戻ってこない。
その隙にミニ竜巻の効果範囲外でやり過ごし、頭の中で算盤を弾いて最善ルートを辿って2つ目の中継地点へと辿り着いた。
これ、普通に来たらスタミナがいくらあっても足りないな。
空導力で多少補正してもENが減る前提。
優秀な調理師に沢山調理アイテム作ってもらわないとあっという間に全滅しそうだ。
アキカゼ・ハヤテ:第二中継地点に到着したよ
ムッコロ:お疲れ様です
バン・ゴハン:お疲れー
ムッコロ:途中ぐねぐねされてましたけど、迷路みたいなルートだったんですか?
アキカゼ・ハヤテ:いや、コースアウトを狙ったミニ竜巻がルートを塞ぐ様に行き来しててね。タイミングを測ってたんだ
バン・ゴハン:えっぐ、竜巻とかエグいにも程がある。同胞にはこのフィールドの近寄らない様に伝えとこう
ムッコロ:それね。でもアキカゼさんはよく攻略出来ましたね?
アキカゼ・ハヤテ:多少運は絡んだけど、手持ちのスキルが命綱だよ。これらがなかったらきっと攻略は無理だったろうね
バン・ゴハン:やっぱりスキルかー、俺も派生スキル伸ばし頑張るしかないな
ムッコロ:それはプレイヤーに課せられた使命だね。ランクアップ見ればわかるけど派生スキル取得は本当に上限ないみたいだし、多い人は180個は持ってるって聞くよ
アキカゼ・ハヤテ:凄いですねぇ。私まだ40個ちょっとしかないですよ
バン・ゴハン:逆になんでその数でここに来れるんだってみんな思ってると思う
ムッコロ:それがアキカゼさんと言う人物なのさ。
アキカゼ・ハヤテ:よくわかってるじゃないか。さて、ゴールまで後一息だ。サクッと終わらせて帰るよ
バン・ゴハン:そんな軽い用事みたいに言えるのはアキカゼさんくらいだわ。緊張とか縁遠いんだろうな
失礼な。私だって緊張くらいしますよ。
でも、まあ慕われている分には良いでしょう。
私はゴールまでの道を見据える。
一本道で嬉しい反面、明らかに侵入ルートが複雑化したミニ竜巻。出たり入ったりを繰り返しているあたり、ミニ竜巻のルートに二つくらい乗っかってそうな気にさせる。
だが所詮はさっきと同じ。竜巻の通り道を覚えて最善のルートを通れば良い。
ここだ!
足に込める力を振り絞って最初の難関を振り切り、転がりながら滑り込むようにスライディングして2つ目の関門を抜け、影踏みを駆使して三連打してくる突風を乗り越えてゴールへと至った。そこへゴールを知らせる電子音。
ポーン
<一の試練をクリアしました>
<称号『風の支配者』を取得しました>
風の支配者:特殊スキル『風操作★』
空導力/APを10%消費して前方に風を出す。
強弱によって消費AP増減。
突風無効、風属性ダメージ50%カット
おお、嬉しい効果だ。
普通ならそれで帰ってしまうところだが、今の私にその選択肢はない。私はスクリーンショットの構えを撮って、周囲一帯を調べ尽くす。
おお、あったあった。
それは聖獣様のお腹の下辺り。そこに欲しい情報が記されていた。その古代文字にはこう記されている。
[お膝元。かの大地エルメ……]
また途切れてる。だが一の試練と出た様に、フィールドには漢数字を用いたフィールドがあって、それらをくっつけてようやく鍵になる。
それらが揃ってようやく聖獣様の門が開く……か。
鍵にして門の意味がようやく理解できた。
「きっといくつかのフィールドのゴールからでしか、聖獣様の肉体に記された鍵になる部分が見えない仕掛けになってるんだ」
考えをまとめてオクト君と金狼氏に情報を送る。
そこで手に入れたスキルで風を操り、私は聖獣様の背中へと無事たどり着いた。
11
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!
ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です)
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様でも公開しております。
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる