【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

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4章 お爺ちゃんと生配信

300.お爺ちゃんと古代獣討伐スレ民_9

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 テュポーンは再び動き出す。
 今まで動かしていた足元の蛇が雑木林を飲み込むようにしながら前進し、上部に生えた蛇の頭が状態異常のブレスを吐いた。
 麻痺・混乱な辺りはレヴィアタンと同等。
 そのブレスを受けた後は棒立ちで轢かれる未来しか見えない。
 そんな相手に立ち向かうものがいた。


「あちょー!」


 気の抜ける声で飛び出したのはスズキさんだ。
 槍を振り回しながらブレス攻撃を最も簡単に蹴散らしていく。
 当然、遠心力程度じゃ心許ないので風操作で過剰に演出するおまけ付き。

 ブレス攻撃の対策もあったのだろう、すぐにモロゾフ氏達は動かない。攻めと守りの合わせ技で隙を窺うスタイルは確かに私達と相性が悪い。だからその隙に私が攻撃したって問題ないよね?

 テュポーンは通常物理攻撃と魔法攻撃に強い。
 耐久が80%を切るとビーム兵器にも耐性を持ち始める。
 コアを撃ち抜くにはコアの周囲にある幾重にも張り巡らされた防衛網を越えなければならず、ブラスターでの狙撃は最たるものだ。

 コアの狙撃は向こうに任せてそれ以外は攻撃してもいいかもしれない。そんな風に考えながら耐久が60%を切った時に生まれた個体を観察する。

 三つの首を持つ犬。確かケルベロスだったか?
 ケルベロスはまぁ良い。
 けどメデューサはテュポーンにとって遠縁の祖母だ。
 妻エキドナの母の母がメデューサとなる。
 なのに使役化に置くのはいささか無理があるだろう。

 そもそも疑問点はそこではない。
 古代獣とはそもそもなんなのか?
 論点はそこに至る。

 古代から封印されているから古代獣。
 この説が一番しっくりくるが、割り当てられた役割に特性が一致しない。そもそもテュポーンは父なのだ。母ではない。
 なのに家系図に関係なく親類を産み落とせる。
 
 逸話が先に来ているのか、それとも逸話の後にこのモンスターが作られたのか?
 封印自体もどの時代に封印されたかも不明な点が多い。
 いくらゲームとは言え、辻褄が合わないと無性に気になる性分がこんな時に足を引っ張る。

 ケルベロスの一気呵成の攻撃はメデューサ以上に苛烈である。
 「保存」「再生」「霊化」のシンボルを持つ三つの首は、ゲーム内にも適用されているらしく、一つの首を落としてもすぐに修復された。まるで未来が見えているような動きでゲスト達を翻弄する。
 その間テュポーンと言えばじわじわと回復しており、モロゾフ氏達の意識は完全にケルベロスに向けられていた。
 向こうは向こうのやり方があるとかで、私たちに横槍されたくないみたいだし。
 なので私は絶賛休止中のテュポーンにちょっかいを出すつもりで動き出す。
 殴っても切っても確かに耐久は減る様子を見せない。
 しかし気が付いた点もある。


「ハヤテさーん、チクチクすると耐久回復は止まるっぽいです」

「だよね。モロゾフ氏は何も通用しないというけど、ちゃんと効果はあるじゃないの。ねぇ?」

「あと心なしか蛇から捕捉される数が増えてきま……アバーッ」

「スズキさーーーーん!!」


 そこには頭から食べられるスズキさんの姿が。
 そりゃ回復中に攻撃されたらヘイト取るよね。
 いかにカスダメージとはいえ、邪魔されたらイラッとするだろうし。


【草】
【何してるんだこの人】
【哀れ、スズキ=サンは爆発四散】
【南無三!】
【イヤーーーッ!】
【グワーーッ】


 そして噛み付いた蛇は口の中でスズキさんボディが爆発して大ダメージとは行かず、耐久こそ減らないがちゃっかり耐久回復は阻止していた。


「酷い目に遭いました」


 背後からヌッと現れるスズキさん。
 急に出てこないでよ、びっくりしたじゃない。
 それより今どこから出てきたの?
 まさか私の影とかじゃないよね?


「あ、無事だったんだ」

「心配してくれたんですか?」

「そりゃ、ねぇ」

「ふふふ~。でも情報はしっかり取ってきましたよ」

「ナイスだ」


 そう言って頭を撫でてあげようとしたら背鰭が刺さった。
 痛いなぁ。鯛って妙に背鰭トゲトゲしてるよね。
 普段は柔らかそうなのに触ると意外に硬かったりするのでみんなも気をつけよう。

 そんな茶番はさておき、視聴者に情報を公開する。
 今回は助っ人としてきたけど、まだまだ討伐が安定してないvsテュポーン戦。晒せる情報は晒していく算段だ。
 どうせみんなそれ知りたくて見にきてるんだろうし。
 たまにはファンサービスもしてやらなければね。


【つまりどういう事だってばよ?】
【出産はランダムではなく挑んだ人数によって選定される?】
【遠距離攻撃が多いと系統が変わるのか】
【よくそんな情報抜き出せたな】

「まぁね、僕にかかればチョチョイのチョイさ」

『で、実際のところは?』

『ハッキングしました』


 あ……(察し)
 思いっきりズルじゃないの。
 ルルイエにそんな高度な文明あったっけと考えながら、そういえばどうやって現代の知識を仕入れたんだと思い直す。
 
 褒めて褒めてとすり寄ってくるスズキさんを押しのけて、モロゾフ氏達に通達する。変に照れてるスズキさんを無視し、彼らとの会話は証拠不十分で終わってしまう。


「酷い。せっかく集めてきたのに」

「大丈夫ですよ。私だけはスズキさんの働きを評価してますから」

「ハヤテさん……」

 
 瞳をうるわせたスズキさんをぎゅっとしてやる。
 ちょっとぬるつくし、生臭い。
 あと体がデカくて手が回しきれない。
 細かいことをあげればキリがないのでこの問題は割愛する。

 茶番を終え、私達は一つの議題を抱えてコメント返しをしていく。
 それは人数を揃えて、バトルスタイルを近接にした場合、出産するモンスターをある程度制御できるのではないかという趣旨である。


【実際のところどうなの?】
【多分できる】
【成功例がシェリル?】
【ああ、あのクランならやりかねない】
【検証の鬼だもんな】


 視聴者達としては可能性は限りなく薄いが、できなくはないと結論付けていた。
 実際にやれるかどうかは非常にあやふやではあるが。
 そんな時にジキンさんからのコメントが上がる。


【取り敢えずバラして組み立てました。これであってるかどうかわかりませんがメールで送りますね】
【はい有能】
【早すぎない?】
【サブマスも頭おかしい人選だったか】
【聞こえてますよ?】
【ヤベッ、まだ居た】
【草】


 メールを受信して中を開く。案の定ジキンさんからのもので、ここぞとばかりに愚痴も長文で送りつけられていた。
 そして最後に画像添付。
 そこにはムー言語でこう浮かび上がった。


 スピンクス【3】


 番号から察するに順番があるのだろう。
 情報を開示しながらコメントに語りかけていく。


「早速の情報提供ありがとうございます。今回はウチのサブマスが一番乗りでしたね。次は皆さんも頑張って欲しいところですねー」

【しれっと次も丸投げ予告するな】
【犬のじぃじ早すぎー、私まだ途中だったのに】
【頭の中身どうなってるんですか?】
【もう解かれてしまったのか。僕はまだ目も通してないのに】
【カネミツはもっと頑張って】
【いや、丸投げされてから30分も経ってないんだぞ? 無茶言うな】
【サブマスさんが優秀すぎるんだよなー】
【クランマスターがこの人だからってクラメンが全員優秀ってこともないだろ?】
【いや、錚々たるメンバーだよ。今やアイドルデビューしたマリンちゃんやユーノちゃんも居るし、この前絡んだアイドル二人組も居る。竜宮城出身アイドルもいる】
【私は一般枠なので、そんなすごくないよ。お爺ちゃんは凄いけど】
【マリンちゃんはもう少し周囲の声に耳を傾けたほうがいい】
【マリンちゃんでさえ一般枠とかいよいよもって頭おかしいな、そのクラン】

「はいはい、人のクランにめくじらたてないの。有名か有名じゃないかなんてどうでも良いんだよ。そんな周囲の目より、どう遊ぶかでしょ? せっかく遊びにきてるんだから楽しまなきゃでしょ?」

【多分この人自身が一番自分の知名度わかってないんやろな】
【ありうる】
【でもそんなスタンスだから人が集まるんだろうな】

「どうかな? ダグラスさんは居心地いいって言ってくれるけど。私はそこら辺深く考えてないからね。やれることはやれる人に任せてるだけだよ。と、言うわけで次に詰まったらみんなにもどんどん投げてくから。一緒に紐解こう。なーに、この配信に来たからには一蓮托生だよ?」

【乗る船間違えたかな】
【突然降りたくなってきたわ】

「途中下車はお勧めしないよ。一緒に楽しんだもの勝ちだからね。情報は後でアーカイブ化されたものでも取得できる。それよりも何も知らない状態から知っていくのが楽しいんじゃないの。みんなは違うのかな?」

【私はお爺ちゃんの意見に賛成だよ】
【無茶振りしなければ僕もどちらかと言えばこの人寄りです】
【元解析班としてはマスターの言い分は尤もだよね】
【揃いも揃ってクラメン全員が毒されてるじゃねーか】
【意外と探索者増えてるのはアキカゼさんの行動力の影響だぞ】

「さて、ケルベロスも無事討伐された。残りの耐久は50%、いよいよ次辺りから攻撃が通じなくなるゾーンになるよ」

【wktk】
【アキカゼさんならやれる!】
【全く根拠のない自信で草】
【勝つことを諦めなければ勝てるんだよ】
【暴論じゃねーか】


 迫り上がるコア。
 しかし同時に膨張する花弁。
 今回の出産は今までと少し毛色が違いそうだ。
 攻撃手段はそこまででもないのだが、まずこっちの攻撃が通用しないギミックをどうにかしないことには、討伐もクソもなかった。
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