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火と月

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ハルシオンは、婚約を申し込む際にルミナに何度も伝えた。

『持病があっても、子が望めなくても、君さえ側にいてくれるなら、それで十分幸せなんだ!』と。

それでも、ルミナは頑なに首を振らなかった。
いつ病が進行してもおかしくない状況で、万が一結婚してすぐに死んでしまったら…
ルミナにしてみれば、愛するハルシオンを、自分の死で悲しませるわけにはいかない!と、その一心で、断り続けていた。

ハルシオンは、彼女の頑なな姿勢になす術が見つからず、親友であるセスに相談した。

すると、セスは激怒した。


「お前っ…!もっと早く言えっ!!」


普段から、滅多に怒らないセスが激怒すると、もれなくあの子も激怒してくる。

「セリニ兄様!なんでを頼らないのよっ!?」


「…え?」


うちを土の国の王族を舐めてんのか!?」

「そんな事、あるはずないだろう…
と、とりあえず、一旦落ち着いて話を…」


「…セリニ兄様、話は結構!!
それよりも、ここへ連れてきてっ!
結婚したいなら、他国から奪い去ってでも連れてきなさい!

セリニ兄様…これでも、私。
この国最強の、治癒力持ちなのよ?
…忘れたの?」


ハルシオンは、セリーナのその言葉にハッとした。


「でも…っ、いいのか?」
(その力を使っても!?)

今まで、セリーナは力を隠そう隠そうと生きてきた。絶対に、土の民以外にその力を見せることをせずに。

ハルシオンが、不安そうに見つめると、セリーナは不思議そうに首を傾けた。


「セリニ兄様の将来の嫁は、私の義姉様でしょっ?
もう、身内も同然よ!」


セリーナは、堂々としていた。
絶対に、私が助ける!と言って。

側では、親友のセスが力強く頷いている。

ハルシオンは、すぐ様行動に移した。
警戒されない様、ルミナを自国へと誘い、会いにきてくれたその足ですぐ様、土の国へと向かった。

土の国では、既に諸々の準備がされていた。
アレースの王には、セリニクロノス両方から連絡をした。

"王女の治療を行う"と。

アレースの王からは、丁寧に「頼みます」と返答をもらった。

それからは、怒涛の日々だった。
通常の病とは違い、持病となると病魔に侵されている期間が圧倒的に長い。その為、治療には時間を要した。
ルミナにも、前もってしばらく眠る事になると伝えたものの…まさか、3ヶ月も黄金に光る蔦と花に埋もれるとは思ってもいなかった。

そして何より、この土の国がセリーナを守ろうとしている意味を、ハルシオンはしっかりと、この目で目の当たりにした。

"神秘"
"女神"

まさに、この二つに尽きるだろう。
圧倒的な力が、そこにはあった。


ルミナが目を覚ました時、喜びと共に彼女と事情を知っているアレースの国王夫妻に誓わせた。

今回のことは、極秘だと。

全員が、その意見に賛同し納得した。


そうして、今。
彼女は命の恩人であり、目を覚ました瞬間「これで、すぐに私のお義姉様になれるわね♪」と言って、微笑んだセリーナ義妹に向けて、嬉しそうに手紙を書いている。


この幸せを作ってくれた、セスとセリーナには感謝しかなかった。
彼らのおかげで、今の私達の幸せがあるのだから。

セスとセリーナは、ハルシオンとルミナにとって、大切な…大切な家族だった。

ルミナが、書き終えた手紙の最後には、こう締めくくられていた。

"セリーナを愛してやまない、セリニ兄様とルミナ義姉様より"と。





そして、その夜。
ハルシオンとルミナにもたらされたのは、命の恩人であるの死だった。
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