青空サークル

箕田 悠

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 ホンモノになった時、彼らは一体どんな顔をするのだろうか。
 一段一段、震える足で階段を上がる僕は、そんな思考が頭を満たしていた。立ち入り禁止の鎖を無視したのは、三年間という学校生活で今回が初めてだった。
 自暴自棄と決心はある意味で同じなのかもしれない。目立たないように、気付かれないようにと、規律を守り、学業という名の青春にだけ向き合ってきた僕が始めて、その一線を越えていたのだから。
 階段を上がりきった先に、一枚の鉄扉が現れる。冷たいドアノブを回し、ぐっと押し込むと、想像に反して鍵は掛かっていないようですんなりと開く。
 頬に初夏のむしむしとした熱風を感じながら、僕はその場に降り立つ。
 眼前には憎らしい程に、雲一つ無い青空が広がっていた。顔を俯け、扉の段差を跨ぐ。湧き上がる憤りと絶望間を解き放つために、僕は屋上の縁へと足を向けようと一歩を踏み出す。
 そこで俯いていた顔を上げた瞬間、僕はぴたりと動きを止めた。
 すでに先客がいたからだ。
 屋上の縁に立ち、後ろ手に組んだ女子生徒の姿。ウェーブの掛かった茶髪や学校指定じゃないピンクのカーディガンが目を引いた。それに履いていないんじゃないかと勘違いしそうになる短いスカートが目のやり場に困る。
 つい最近、頭髪服装検査があったばかりなのにと、僕はこんな状況にも関わらず驚いていた。
 さらに女子生徒が振り返ったことで、思わず「えっ」と声まで出てしまった。
 茶色い肌に白で縁取られた目元は、草が生えたような長くて黒い睫に覆われている。その目力といい、今まで出会ったことのない異様な容姿を前に僕は完全に固まっていた。まさに一昔前のギャルだと、僕は以前にテレビで見た渋谷や原宿の映像を思い出す。
「え、もしかして、あたしが分かるの?」
 カラフルな長い爪を自身に向けて、彼女が更に目を大きく見開く。
「マジでそうなの? ウケんだけど」
 何が面白いのか、彼女は笑い声を上げて手を叩く。体だけでなく、思考まで動きを止めてしまっている僕はただ、彼女が「ウケる、ちょーウケる」と言ってるのを口を開けて見つめていた。
「ちょっと、眼鏡くん。こっち来て」
 彼女が手招きすると、貯水タンクの方から人影が現れる。今度は坊主で眼鏡をかけた、黒の詰め襟姿の男子生徒だった。無表情ながらも生真面目さが伝わり、彼女とは正反対な印象だった。手には文庫本らしきものを抱えているようで、貯水タンクの影で読書でもしていたのだろう。
 二人の関係性も謎だが、それ以上にこの学校は男女共に制服がブレザーのはずだ。まさか他校の人間が忍び込んでいるのか。それとも転校してきたばかりなのだろうか。
 謎だらけの状況に、僕は混乱して二人を交互に見比べる。
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