青空サークル

箕田 悠

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 放課後になり、僕は悩みに悩んだ末に屋上へと足を向けていた。
 学校も好きではないが、家はもっと嫌いだった。だから普段は図書館や公園に立ち寄って時間を潰している。
 時間が経つにつれてあの二人は実は幽霊でなく、ただの人間であの場所にいたことを隠したかっただけなのかもしれないと思えていた。だからこそ、放課後の約束を破るのはなんだか忍びなかった。社交辞令であればそれはそれで良かった。一人になれる場所が増えたと思えば良いし、いざとなれば飛び降りることだって出来るのだから。
 屋上への階段を上がりきると、僕は一旦深呼吸をする。恐る恐る扉を開けると、昼とはあまり変わらない澄んだ青空が広がっていた。蒸し暑い空気も相変わらずのようだ。
 七月の頭ということもあって、午後三時を過ぎても日は高い位置にあるせいだろう。
 昼の時になーこが最初に立っていた位置に視線を向けると、そこには誰もいなかった。
 やっぱりという気持ちに混じって、少しだけ胸がツンと痛んだ。
 屋上の縁から見える景色を確認したくなって、僕がそちらに足を向けた時だった。
「ホッシー!」
 突然、なーこが横から飛び出してきて、僕は「うわぁ」と情けない声を出した。
「ほら、やっぱ来てくれるじゃん」
 なーこが横を向くといつの間にか眼鏡くんが、丸眼鏡を押し上げながらこちらに近づいて来ていた。
「別に絶対に来ないとは言ってない」
「言ってたじゃんか。自信満々にさぁ」
 眼鏡を押し上げる仕草をしつつ、「彼は来ないよ」と低音ボイスでなーこが再現する。
「人真似するなんて、軟派な奴だな君は」
 眼鏡くんがあからさまにムッとした顔をするも、なーこは「あははは。ちょー似てるつーの」と手を叩いて笑う。
「ホッシーも似てるって思うっしょ?」
 なーこに問われ、僕は曖昧に首を傾げる。
 ノリが悪い。愛想がない。そんな風に講師から言われたことを不意に思い出してしまう。だけど、そんな僕の心境を知ってか知らずか、なーこはあっさりと「ほら、ほっしーも似てるってさ」と一人で盛り上がっている。
「全く騒騒しいだろ。彼女は」
 眼鏡くんが腕を組んで、僕の隣に立つ。
「だが、久しぶりに生きている人……それも俺たちを恐れずに拒まなかった人に会ったのが、久しぶりだったからな。彼女の気持ちも分からなくはない」
「本当に……幽霊」
 呟くような声で言ったはずなのに、眼鏡くんは「残念ながら」と答えた。
「怖いと思うか?」
 僕は俯く。怖くはなかった。不思議と。今でも信じられない気持ちは残っているけれど、二人が嘘を言っているようにも思えなかった。
「怖いわけなくなぁい。死んでもちょー絶可愛いさが残ってるんだからさぁ」
 なーこが胸を張る。
 可愛いかは別として、幽霊のイメージが覆るような陽気さには、拍子抜けしていた。陰気で湿っぽいのが幽霊というものであり……周囲の印象もそうだからこそ、僕のあだ名が幽霊くんなのだ。
 だからこそ、なーこたちが幽霊だと言われなかったら、普通に生きている人間だとしか思わなかった。ただ少しだけ、二人が時代を逆行しているような雰囲気を醸し出してはいるけれど。
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