青空サークル

箕田 悠

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「それで僕は子役の道から外れた。これで自由になれると思ってた。だけど――」
 中学に入って、僕と同じ事務所にいた子と同じクラスになってしまった。
 クラスメイトにバレたことで、僕は注目を浴びる嵌めになったのだ。
 なんで辞めちゃったのか。辞めるなんてもったいない。せっかく芸能人に会えるのに。
 そんな事を何度となく言われた。
 誰も僕の本心を知らないで、そんな勝手な事を平気で口にする。
 上辺だけの幻想の世界。綺麗で煌びやかな舞台の裏で、家族を憎み、生きづらさを感じている人間がいることを考えもしないで。
 僕はそんな周囲を軽蔑した。その不満を口に出来ないからこそ、人との距離を遠ざけることで自分を守ってきたのだ。
 そこまで話をして、僕は一旦息をつく。
 レッスンを除いたら、人生で一番長く言葉を発していたかもしれない。
「だから僕は、中学校の同級生が少ないこの学校を選んだ。それなのに、何故かバレて……後少しだったのに」
 卒業して大学に入れば、自分の存在などもっと霞む。それに十年も経てば、そんな遠い過去のことなど誰も気にしたりしないはずだった。
「それであの日、ここに来たの?」
 そこで初めてなーこが口を開く。僕はそれに対して頷いて答える。
「僕のことを幽霊くんと、あだ名をつけるのは別にどうでも良かった。幽霊のように過ごしているのは確かだから……だけど、子役をしていたと知って、急に親しげにしてきたのが許せなかった。今さら何だよって思って」
 その時の憤りを思い出し、僕は奥歯を噛みしめる。
「今日だってそうだ。僕がこの話を一度は拒絶したのに、今度は弟のことまで持ち出してきて……」
「弟も芸能人なの?」
 なーこが目を丸くする。
「うん。僕なんかより、全然向いてる」
 今も月九ドラマに出ていると言うと、「マジで! すごっ」となーこが声を上げる。すかさず眼鏡くんが、「おい」と諫める。
「ごめん……」
 なーこはしゅんとしたように、顔を下げる。でもそういう反応になってしまうのは、仕方が無いことだった。
「別にいいよ。凄いことは確かだから」
 それに僕も弟を素直に凄いと思っている。簡単にはのし上がれない世界で、一歩を踏み出せているのだから。
 片足でも突っ込んだことのある僕には、それが身に沁みる程に分かっていた。
「そうじゃなくて、僕に繋がりを求めてきたのが許せなかった」
 だから教室から飛び出して、授業も出ずにここにいる。屋上から飛び降りて、幽霊になれば、こんなしがらみから逃れられるはずだと。
 それに、なーこや眼鏡くんとだったら、ここで彷徨ってもいい。そんな風に思ってしまったのだと、僕は全てを告白した。
 全てを吐き出してみると、今まで自分が抱えていた蟠りまでもが解けていくような感じがした。
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